第6話 父として
国歴248年 ルート国 任命式後
「じゃあ二人共、準備はできたな?」
「おう」
「ジンマはいつでも出発できますぞ!」
任命式から数刻、国の外に出ることのできる巨大な城門の前に集合した僕、クレマ、ジンマは、お互いの装備を確認する。
計画では直接創造神の根城に向かう訳ではなく、途中でスリー国という国に寄って、物資を補充してから向かう手筈になっている。が、それでも多めに見積もって15日間は掛かる予定だ。
荷物は最低限にした筈だが、父から貰った大きなリュックは既にパンパンだ。食料などは、道中で野生動物でも獲って喰らうことにしよう。
「よし!それじゃあ!しゅっぱぁ__」
「オーゴ」
出発を宣言しようとしたその時、僕の声に被さるように、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。思わず声のした方に目をやると、そこにはこの国の王、つまり、僕の父親が一人佇んでいた。
「父さん?さっきの任命式で最後の言葉は済んだんじゃないの?」
今更何の用だろう?とは思ったが、直接そうは聞かなかった。父の顔が、何だか寂しそうであったから。
「馬鹿野郎、あれは王としての言葉だ。まだ父としての言葉をお前に送っていない」
そう言うと、父は僕に手招きをした。大声ですべてを済ませる父らしくないその仕草に、僕は驚きながらも近づく。
父の目の前まで歩みを進めると父は優しく、かつ力強く僕を抱擁した。
「ちょ、父さん...!?みんな見てるから!」
僕は18歳の青少年だ。保護者の過度なスキンシップを嫌がるのは年相応というものだろう。しかし、巨躯の持ち主である父は僕の抵抗にまるで動じない。
「オーゴよ、任命式では必ず創造神の元へ辿り着けなどと言ったが、俺が真に望むことはそんなことではない。俺が真に望むのは...」
父が涙を我慢していたことに気付く。
「真に望むことは、たった一つ。必ず、必ず生きて帰れ...!!」
僕の体を、温かい温度が包む。それは国王なんて権威よりも強く、城内に差す日差しよりも温かい、父と言う存在だった。
父は一層力強く僕を抱きしめた後、ようやく腕を解いた。僕はまだ体に残る温かさを感じながら、目を赤くした父を見る。
「心配しないで、父さん。僕は死なないし、創造神も絶対倒してみせるから」
心の中で(綺麗なお姉さんも見つけてくるしね!)と付け加える。
後ろを振り返ると、退屈そうにしているクレマと、こちらの様子を伺がっているジンマが目に入った。
「じゃあ父さん、二人が待ってるし、僕はもう行くよ。次会うときはきっと、創造神を倒した後だね!!」
僕は父へ手を振って、二人の元へ駆け出した。この暖かさを忘れなければ、僕はもっと強くなれる。そんな気がした。
・・・・・・・・・・・・
国王は三人の背が見えなくなるまで、息子の背が見えなくなるまで、その場を離れなかった。
そして、国王は呟いた。自分以外、誰にも聞こえないような小さな声で。
「必ず、生きて戻ってくれ。俺は二度も、息子を失いたくないんだ...」
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にしても、父さんが泣くことなんてあったのか。
...いや、たしか僕の人生で2回だけ、あの人が泣く所を見たことがあった...
一回目は僕が10歳の頃。僕は悪戯で父さんのサンドウィッチに途轍もない量の唐辛子を入れた。そのサンドウィッチをまんまと頬張った父は暫く涙を流しながら舌を洗っていた。当然、一発殴られたが...
二回目は...たしか僕が14歳の頃。
夜中に尿意を覚えて起きて、城の中の廊下を歩いていた。すると、廊下でフードを被った子供とすれ違った。
その子はお世辞にも綺麗とは言えない身なりで、フードの影から少し見えたその顔は、見覚えのない顔だった。今思えばあんな夜更けに子供がたった一人で城内を歩いているのは相当異常なのだが、その時の僕は尿意と眠気で大してそのことを気に留めていなかった。そしてトイレへの道中、父の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、部屋の中から確かに咽び泣く声が聞こえた。それは間違いなく父の声であった。普段涙なんか見せない父の、その泣き声は今でも忘れていない。
ともかく、今日で3回目だな。創造神を倒して帰ってきたら、このネタで父さんをからかってやろう。
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