表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手の平の『創造物』たち  作者: 今木照
ブロウ外伝
17/25

ブロウ外伝⑰ 一撃

1()2()()1()()

オータム国 アカデミー大門前



「ほら、そっちは荷造り終わった?アタシはもういつでも行けるけど。」


 ピンク髪の少女が、大きなリュックを背負って目の前に立った。

 彼女の名前は()()()()。...まぁ、それも一カ月くらい前にようやく教えてくれた名だが。


 あの日(最終試験)から、既に4か月の月日が経っていた。あの時は蒸し暑い真夏だったが、今では凍えるほどの真冬になってしまった。


「あぁ、俺も......()も、準備は整った。()()、待機万全ということだよ。」


 ()はそう言うと、隣に置いたリュックを持ち上げて立ち上がる。

 いよいよ創造神討伐遠征への出立の日だと言うのに、このアカデミーの大門には見送りの1人も来ていない。


 今日は雪が降っていないが、流石に冬のこの時期は寒さが厳しい。アカデミーのグラウンドに積もった雪は、これからまだまだ高くなりそうだ。


(あそこ、たしかスレナから告白された場所だったな。)


 僕は校舎沿いの一角を見て、思わず四カ月ほど前の淡い記憶を掘り起こしてしまう。

 ...いけない。今から旅立ちだと言うのに、今更未練がましくアカデミーを見ていちゃダメだ。


 僕は心の中で覚悟を決めて、アカデミーから目を逸らして大門の外を見る。外には白銀の城下町が広がっており、その奥には国王の住む城が見えた。


「じゃ、いよいよ出発するわよ。」


 アリウムはピンク色の髪を冬風に靡かせながら、ズンズンとアカデミーの外に歩み出る。彼女はアカデミーに対して心残りなどないのだろうか。


 ...いや、きっとそれも全部、あの日の僕が壊してしまったのだろう。


 僕もアリウムに置いて行かれないよう、リュックを背負って大門から城下町に歩みを進めた。

 アカデミーの方は振り返らないようにした。もうそこに、イトアトスもスレナも居ないから。

 大門を出て、真っすぐに国の外に出ようとするアリウムの背中に、僕は声をかけた。


「...なぁ、最後に少し、城の方に行ってもいいか?」


 アリウムは僕の言葉の真意を見抜けないらしく、めんどくさそうな顔で振り向いてぶつくさと声を上げる。


「えぇ?城に行きたいの?...ま、いいけど。早くしてよね。」


 僕はかつて親友たちと走り比べした城下町の道路を歩き、城に近づいて行った。数十メートル歩いて城の(ふもと)まで来ると、そこで足を止める。

 アリウムは依然、僕の目的が分からないまま、気だるげな表情カオで後ろをついてきていた。


「城に来たって、国王はアタシ達の為にわざわざ出てこないよ。」


 アリウムは、僕が国王に会いに来たのだと思っているらしい。...見当違いだな。


 僕は一呼吸置き、右手を城の正面に向かってしっかりと伸ばした。

 そう。最終試験の日、沢山の命を奪ったあの時のように。


 ここでようやくアリウムが僕の考えに気が付いた。彼女は更に面倒くさそうな表情を浮かべて、僕を静止しようとする。


「アンタもしかして、国王殺すつもりで城に『一撃』ぶっ放すつもり?...やめときなって」


 僕は城から目を逸らさずに彼女に応える。


「アカデミーで生まれる不幸は、この国の在り方が原因だ。この国の方針が今のままである限り、アカデミー死ぬ人も、僕たちの様に絶望する人も、決していなくならない。...だったらこの腐った国王を殺しでもすれば、少しはマシになるかもしれないだろ?」


 城壁の白が、憎たらしい程に光って見えた。

 アリウムは僕と数メートルの距離を保ったまま、マイペースに口を開く。


「それがお友達の敵討ちのつもり?こんなとこでアンタの一撃をぶっ放したら、関係ない人まで傷つくよ」


「......」


「それに、アンタの言う親友たちは、そんなこと望むような人達なの?」


 アリウムは時々、芯を捉えたことを言う。彼女の言葉で冷静になるのは、これで何度目だろうか。


 僕はゆっくりと右腕を下ろす。

 脳裏に、イトアトスとスレナの笑顔がよぎった。せめて記憶の中の二人の笑顔だけは、壊したくなかった。


「すまない、アリウム。君の言う通りだ。要は、僕たちが創造神を殺せば、あんな施設(アカデミー)は必要なくなるっていうことか。」


 僕はアリウムに向かって顔を向ける。アリウムは、「はぁ」とため息を溢した。


「そういうこと。...ほら、早速時間無駄にしたんだから、さっさと国を出て創造神殺しに行くわよ。」


 彼女はそう言って早々と踵を返した。僕ももう一度だけ城を見上げて、ゆっくりと彼女の後を追って歩き始めた。


 しばらく歩いて、国と外の世界を隔てる大きな橋に差し掛かった時、ふとアリウムが振り返って僕に口を開いた。


「そういえば、アンタの一人称、今は『僕』だけど、一カ月くらい前まで『俺』だったじゃない。それと、最近は『要は、』って口癖も言うようになったわよね。...それってさ、きっとアンタの親友のものだったんでしょ?」


「...そうだとしたら、何か問題があるのかい?」


 アリウムが木製の大橋に足を勢いよく踏み出し、威勢よく口を開ける。


「問題はあるわ。アタシ、そーゆーの大っ嫌いだから。...大切な人を忘れないのは大事だけど、引きずるのは弱い奴がすることよ。分かる?()()()。」


 僕も彼女に続き、橋に向かって大きな一歩を出す。木製の橋は「ギィ」と音を鳴らして、僕を歓迎してくれた。

 そして、僕は何故か清々しい気持ちで彼女に答える。


「引きずっている訳じゃないさ。一緒に外の景色を見てもらうだけだ。...()()()のこの身には、親友の想いも詰まってるってことだよ。」


 アリウムは、「意味わかんない」と不機嫌そうに溢し、ズンズンと橋を進んでいく。

 僕も橋を踏みしめながら、この先に待ち構える世界を見据えた。生憎、旅立ちの今日は深い曇天である。


 恋人スレナと共に見ることが夢だった外の世界。

 親友イトアトスに聞かせてやることが夢だった冒険譚。


 二人はもうこの世界に居ないけれど、俺が二人の想いを乗せて、外の世界を歩む。

 外の世界を見て、感じて、経験する。それが俺の義務だから。


 けど、この旅のゴールはそこじゃない。

 この旅の終着点は、創造神を____



 創造神を、殺すことだ。



 __僕の旅は、こうして始まった。






 ブロウ外伝 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ