表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手の平の『創造物』たち  作者: 今木照
ブロウ外伝
12/25

ブロウ外伝⑫ 最終試験、開始

 8月1日 最終試験当日

 ルート国 アカデミー内最終試験会場


 試験会場である中庭への入り口を抜け、イトアトスとブロウは一歩を踏み出した。辺りを見渡すと、既に15人ほどの最終試験参加者が集まっている。二人が入った直後に扉が閉ざされたのを見ると、どうやら二人は最後の参加者だったらしい。

 ブロウ達と同じ18世代、つまり、18歳のメイン組も当然参加していて、中には良く見知った顔ぶれもチラホラ伺えた。


「ブロウ、こっちに行こう。」


 イトアトスがブロウに手招きをして、先導する。

 彼らのスタート地点は、長方形型になっている中庭の、手前側の壁際になった。つまり、二人は中庭の全貌を一目で把握できる場所からのスタートとなったという事だ。


 最終試験の始まりは、位置が定められている訳ではなく、互いに一定の距離が保たれてさえいれば、各々好きな位置から始めることができる。

 ブロウとイトアトスは、全体を見渡せる場所からのスタートになったが、それは同時に、両側から攻め込まれやすいことも意味していた。それでもイトアトスは迷いなく、悠々と立っている。彼と協力すると約束したブロウも、イトアトスが行くならと、彼の横で開始瞬間ときを待つことにした。


 この場に居る全員が、やけにソワソワとしている。空気が張り詰め、息をするのにも神経を使う。それもそうだ。数分後、いや、数秒後には、ここにいる全員で殺し合いをすることになるのだから。


(それにしても、やけに目が合うな...)


 ブロウが辺りを見渡すと、ほかの参加者といやに目が合う。最後に入ってきたから注目を集めているのか、はたまたブロウの気にしすぎか、その真相は分からないが、ブロウの眼にはどうにも良い物に映らなかった。


「ザ...ザザ...」


 突然、中庭内に聞きなれない不思議な雑音が走った。その音が何処から流れてきたのかは分からない。

 ブロウもイトアトスも、ほかの参加者も、周囲を探るが、その雑音の出所はやはり明らかにならないようであった。


「...ザ......これより、最終試験を行う。開始の合図までは、各自その場を動かないこと。」


 その雑音が、人の声に変わった。その声の主がメイン組の担当教官だとは全員気が付いたが、その教官がこの中庭に居ない。最終試験を目前にしたメイン組の生徒たちは、小さい動揺を見せる。


「声の主は居ないのに、声だけを特定の場所に送る。誰かの掌力か、もしくは、やはりアカデミーの()()か...」


 ブロウの横でイトアトスが呟く。

 しかし、すぐにイトアトスはブロウの視線に気が付き、顔を上げる。


「...あぁ、気にすることは無いよ。それより今は、目の前の最終試験だ。『僕たちは協力して生き残る』、これを忘れてはいないよね?」


 ブロウは緊張した面持ちでコクリと頷く。イトアトスはそんな彼を見て笑顔を作った。そんな数秒のやり取りが終わった、直後、再び無機質な声が中庭に響き渡った。


「...ザザ...それでは、国歴247年、最終試験の開始を、ここに宣言する。」


 全員の意識が、フッと現実に戻った感触がした。

 一瞬、音が消え、呼吸が止まった。こちらを睨むライバルたちの眼が、突き刺すように体に突き刺さるが、それに負けじとブロウも足を踏み込む。

 イトアトスの方を一瞥すると、彼は覚悟を決めたような瞳で全体を見据えていた。


(俺とイトアトスは、生き残らなきゃならない。スレナが待ってる。二人で全員倒して、最後は正々堂々イトアトスに勝つ。...今は、それだけを考えていればいいから。)


 額から垂れる無数の汗を気にも留めず、ブロウはぎこちなく深呼吸を繰り返す。

 手が小刻みに震えているのも、足に思ったように力が入らなくなっていたことも、自分で分かっていた。けれど、ブロウは自分を奮い立たせる。帰りを待つ恋人スレナの為か、隣で共に闘うと約束してくれた親友イトアトスの為か、そんなことはどうでもよかった。ただ今は自分の為ではなく、大切な人の為に立っていることが勇気になった。

 隣に立っている親友の気配を右肩に感じながら、ブロウは辺りを見渡す。


(周りは皆、俺を殺しに来る。...それでいい。俺が死ぬ前に、全員殺せばいいだけだ。)



「開始。」



 無機質なその号令は、唐突に中庭に響いた。

 それと同時、参加者全員が地を蹴って動き出す。


 遂に始まった。18年間、アカデミー生として育てられた彼らは、この日の為に訓練し、飯を食い、生活をしてきた。そんな彼らの、人生を賭けた最後の闘いが、たった今始まったのだ。


「イトアトス!右から対処しよう!俺の掌力はなるべく温存しておきたいおから、イトアトスの『凍結』で左の牽制を!」


 ブロウの考える作戦はこうだ。

 ブロウの掌力、『一撃』は強力ではあるものの、反動が大きすぎるため、終盤に残しておく。それまでは『凍結』の掌力を使うイトアトスと死角を補い合い、向かってくる敵に対して常に2対1の形をとって戦う。という作戦だ。


 ブロウは目線を前方から逸らさないまま、イトアトスに指示を送った。

 それと同時に、こちらに迫ってくるライバルの中から誰を最初の目標にするか、限られた時間の中で決めなくてはならない。


 その時、視界の隅で影が動いた。

 次の瞬間。



「ドンッ!!」



 突然、ブロウの背中に鈍い衝撃が走る。


「...は」


 ブロウは何者かに壁へ押し付けられ、胸ぐらを掴まれて身動きを封じられた。何が起きたのか理解できなかった。

 ...いや、理解したくなかった。


「どうして、イトアトス...?」


 真っ白になった頭からは、そんな情けない言葉しか吐き出すことができなかった。

 一秒前まで背中を預けていた親友が、今は自分の首を絞めつけようとしていた。思うように体が動かせない。

 イトアトスは彼の体を抑えつけたまま、小さく口を開く。



「死んでくれよ、ブロウ。」



 イトアトス(親友)は、ブロウを裏切ったのだ。




 続く

最後まで読んで頂きありがとうございます。

よろしければ評価、感想もお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ