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ハンド・リベリオン~模造物語~  作者: 人面菟葵
パーティー結成...?
1/5

オーゴ

『掌力』。

それは、この世界の人々が持っていたり持っていなかったりする力。

そんな世界のとある国、ルート国の王子『オーゴ』は、世界を恐怖に陥れる『悪王』を討伐すべく(ついでに綺麗なお姉さんとも会うべく)仲間たちと旅に出た。

オーゴは自身の掌力『入替』や仲間達の力を借り、強大な敵や困難に立ち向かう!

これは、そんな彼らのバトルあり笑いありの珍道中である!


........しかしこの世界、何か違和感がある...




     『ハンド・リベリオン』




_______________________________________________________________________________________________________________________





「ねぇ、やっぱりあの人を置いて行けないよ。」



僕の目の前を歩いていた女性がふと立ち止まり、俯きながらそういった。

薄暗く曇った空からは、ひたすらに雨が降りしきっている。

しかし、僕とその女性は雨を凌ごうともしないで、ただ服に水が浸み込んでゆくことを良しとしていた。

僕の目の前で俯いているこの女性の名前は....


分からない。


名前は当然のこと、彼女の顔も記憶にない。

けれど、どこか懐かしい、そんな暖かな感覚だけがじんわりと身体に浸透している。


そして何より、とても綺麗な人だ。


...というか、ここはどこだ?

僕の知っている街並みではない。


...いや、街並みと言うべきではない。

僕の知っている、『世界』ではないとでも言うべきか。


今、僕が立っている石の様に硬い黒色の地面も、辺りを囲んでいる見たこともないくらい巨大な灰色の建造物も、僕の知らないものだ。

しかし、そんな地面には幾つもの亀裂が走り、建造物も傾いていたり崩れていたりしていて、ここで何があったかは知らないが、あまり平和的な光景だとは思えない。


すると突然、予想外の場所から男性の声が聞こえてきた。




「....だよな。けど、どうやって助ける?」




その声が発せられた場所は、間違いなく、僕の口からだった。

僕が突然、女性に質問をしたのだ。


....いや、正確には僕が質問をしたのではない。

口が勝手に、動いた。


一方、僕の質問を受けた女性は、少し考えるような表情をした。



「う~ん、...じゃあさ、アンタの力で私を避難所に送ってよ!」



僕の()



一体この女性は、僕の力を知っているのか?

僕の力は......



...ふと、視界が足元に向けられる。

僕の意思とは関係なく話し出したり、勝手に視界が動いたり、まるで今の僕は誰かの体の中に閉じ込められているようだ。


足元を見ると「止まれ」という白い文字が地面に大きく描かれていた。

そしてそれは、雨に濡れてテカテカと光っている。


...まるで僕たちを、馬鹿にでもするように。



「はいはい。まぁ、愛日(あいび)なら大丈夫か。」



また、口が勝手に動いた。

僕自身、唐突に動くこの口に驚いてしまう。


(愛日、....あいび、どこかで、聞き覚えが...)


僕が愛日と呼んだその女性は、長い黒髪を艶々と輝かせながら、無邪気に頷いていた。



「ただし!10秒だけだ!10秒経ったらお前もあの人もここに戻すからな!」



また、僕の口が動いた。

僕は勝手に動くこの口を制御しようとする事を、諦めることにした。


目の前の女性は張り切って、ムフンと息を吐いた。


...やっぱりこの女性は、...愛日は、綺麗だ。



「りょーかい!じゃあ、10秒経ったらここに戻してね!それじゃあ!」



愛日は笑顔で僕に手を振った。

まるで辺りを晴れだと錯覚させるくらいの、そんな太陽のような笑顔で。


そして、消えた。


きっと僕の『力』で、愛日をあの人の元へ送ったのだろう。

僕には『あの人』が誰かもわからないが....

それでもこのストーリーは一方的に進んでゆく。




......それにしても。


何故か僕の心には、ある一つの感情が常に渦巻いていた。


愛日と目が合う度に、体温が高くなり、鼓動が少し早くなる。

その見覚えのない、誰かも分からない女性と目が合う度に、胸が苦しいほどに締め付けらる。

それはまるで、自分の人生の存在理由が、すぐ目の前に在るかのような、そんな緊張感。


僕はこの感情の名前を知っている。



この感情は....



「俺、やっぱり、愛日のこと大好きなんだな...」



口が動いた。



もちろん、



勝手に。





______________________________________________






国歴248年 春 ルート国

 




「おい()()()、ぼーっとしてどうした?」




父が僕の名前を呼んだ。

僕はその呼びかけにハッとする。


「あ、あぁ、父さん。ちょっと今朝の夢を思い出してて。」


僕は目の前に置かれていたパンに手を伸ばす。

バターとジャムがたっぷり塗られた、僕の好物だ。


僕の返答を聞いた父は、少し不思議そうな顔をした。


「夢...?なんだ、悪夢でも見たのか?」


悪夢か....

いや、悪夢なんかではなかった。


あの夢はもっと、居心地のいい物だった筈だ。

何より、こんな大事な時期に悪夢なんて見ていたら縁起が悪すぎる。


「いや、悪夢なんかじゃなくて..........あれ?どんな夢だったっけ...」


思い出せない。


...まぁ、忘れるくらいなら本当に大したこともなかったのだろう。

僕は気を取り直してスープを飲み干した。

野菜がたっぷりと入った、健康的なスープだ。


「なんだそれは、さっきまで考えていたのではなかったのか?...とにかく、食事中にぼーっとするんじゃない。」


僕は父さんの指摘にムッとしていると、使用人たちが朝食のデザートを持ってくる。

使用人が僕の目の前にデザートの乗った器を置き、僕は間髪入れずにそのデザートにスプーンを差した。


今日はヨーグルトか。

さっぱりしていてよろしい。


「おいおいオーゴ、もうデザートかぁ?お前はこの国の王子なんだから、もっと食ってもっと大きくなれよ。」


(う、うるせぇ~...)


父のこの指摘に、流石の僕もイライラゲージが限界値を迎えてしまう。

僕は一旦ヨーグルトを食べる手を止めて、父の方に指をさして反論をする。


「あのね父さん、僕18歳!!成長期終わっちゃってっから!」


僕は渾身の反論を放ったが、父はそれでもヘラヘラとしていやがる。


「いやいや!わからんぞ~。俺は20まで伸び続けた!はっはっは。」


僕は大笑いしている父を睨みつけた。

今、僕の目の前で笑いながらパンをムシャムシャと食べているこの男、

つまり僕の父は、身長が180cm後半。

母は僕が幼い頃に死んでしまったらしく、見たことがないのでどのような体格かは分からない。

けれどこの僕が160㎝(ほんとは159㎝)なところを鑑みると、きっと小柄な女性だったのだろう。


それにしても、こんなにも栄養豊富な食事を毎日食べていたのに、何故160cmなのだろうか。

神様は残酷だ。


とりあえず、お腹も膨れてきたので朝ごはんはここら辺にしておこう。

僕は近くに居た使用人に声をかけ、食器を片付けさせる。



「そういえば()()()、明後日はもう出発だぞ?準備はできているのか?」



父はサラダを頬張りながら、僕の名前を強調して問いかける。


「ん?...あぁはいはい。リュックは父さんが準備してくれたのが有るし、大体のサバイバルアイテムは入れたかな。」


明後日の出発....そう、それは『悪王討伐遠征』への出発!

何を隠そう僕の人生における最重要イベント!


僕はこの悪王討伐遠征には何度も思いを馳せ、ありとあらゆる場面の想定をした上で荷造りをした。

まぁ、ドッペルゲンガーにでも鉢合わせない限り、僕の命が脅かされることはないだろう。



「けど!お前の()()なら城から必要なものなんてすぐ手元に持ってこれるしなぁ!はっは!」



父はまたもや大笑いして、僕の掌力を話題に出してきた。



(掌力か...)



掌力(しょうりょく)』。

それはこの世界に生きる人々が持っている力。

しかし、全ての人間が持っているという訳ではなく、掌力を保有していない人間も勿論いる。

そしてそれは、文字通り手の平がトリガーになって起きる力で、内容は人によって様々。

途轍もない力を持つ掌力もあれば、手から微弱な静電気を出すだけの掌力もある。

だが、世界に同じ掌力を持つ人間は二人といないと言われている。


そして僕の掌力は、『入替(いれかえ)』。

一度でも僕の手の平で触れたことのある物同士は、いつでも好きな時に場所を入れ替えることができる。

単純だが、中々に使い勝手がよく、いつも僕を助けてくれている。

因みに、掌力を使うとスタミナが失われ、使いすぎるとヘトヘトになって暫く掌力を使えなくなる。

まぁ走ってバテる時と同じような感覚だ。


父は僕の掌力の有用性を知っているから、簡単にこの力に頼ろうとする。



「父さん、あのね、僕は旅をしている最中は城に戻んないし、城の物に頼ったりしないって決めてるから。」



僕は自信満々に答えるが、父は余程僕を信用していないらしい。

その証拠に「大丈夫か~?」といった顔で僕の顔を覗きこんでくる。


「大丈夫か~?...それにしても、意外とすんなり悪王討伐遠征に応じてくれたな。王族の義務とはいえ、お前のことだからもっと面倒くさがるかと思っていた。」


「いやいや父さん、これでも僕は一国の王子だよ?この世から悪を根絶したいという志は父さんにも負けてないから!」


そう、僕はこの国の王子だ。


今までの人生、大した冒険もなく、大した興奮もなかった。

だから生きていて特段、生を実感する瞬間なんてなかった。


かと言って何か苦労することもなかったし、父は厳しかったものの、一般市民よりは充分甘い蜜を吸って生きてきただろう。

そんな人生を送ってきた僕が、当然褒められた人間ではないことなんて、自分の中では理解してるつもりだ。


でも、だからこそ、王族の義務という物は誠心誠意果たすつもりだし、この世界の脅威である悪王を倒したいとも思っている。

それは紛れもない本心なのだ。


とは言え、これは本心の40%、...いや、29%くらいかな??


何を隠そう、今回の冒険では僕にとって、悪王を討伐するのと同じくらい崇高な目的があるのだから。


その目標とは、ズバリ.....!




『モテて結婚する』




........今、僕の崇高かつ高遠な目的を、「色欲にまみれた権力者」と揶揄しようとした愚か者は居たか?

もしそのような者が居たら、僕のペットのターザン・サンマルチーノ(ミニチュアダックスフンド)の餌として踵から食べさせてやるとしよう。


....王族は血筋を残すことも立派な仕事なのだ。


なのでこの悪王討伐遠征で見事悪王を討伐すれば、僕はこの国の人々(できれば女性の方々)から更にチヤホヤされるし、この世界から悪王の脅威はなくなるしで、つまりwin-winという訳だ。


以上が、僕の悪王討伐遠征に出発する主な動機である。


「フフフ....できれば黒髪ロングの年上お姉さんが...」


「おいオーゴ、さっきからどうした。これから冒険のパーティーになる2人と顔合わせだろう?そろそろ準備しなさい。」


父の言葉にハッとする。


「うわっ、そうだった!!」


今日は、僕とパーティーを組む2人と初対面をする予定になっている。


(パン食ってる場合じゃねぇ!)



「じゃあ僕はそろそろ出るから!父さんもパンはそこら辺にしときなよ!」



「余計なお世話だ。」



僕は駆け足で自分の部屋へと向かう。



その頃には、今朝見た夢の内容なんて完全に忘れてしまっていた。



そして、この日から始まったのだ。


人生を、


...いや、



世界を変える旅が、始まったのだ。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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