虚宴
久しぶりに執筆するのと、花粉症も相まって没頭してると熱出そうですねw
程よく手を抜くことにしますm(_ _)m
長く暗い階段を抜け、広間へと続く重厚な木製の扉を押し開けた。
途端に、鼓膜を打つのは優雅な弦楽器の生演奏と、着飾った貴族たちの華やかな談笑。そこは先程までの時計塔での死の気配が嘘のような、眩い光と熱気に包まれていた。あまりの温度差に、軽く目眩すら覚える。
「ちょっとキキ! どこ行ってたのよ!」
人混みを掻き分けて広間の隅に戻ってきた俺を見つけるなり、レンが腰に手を当ててぷりぷりと怒り出した。
彼女の背後では、屈強なモンクのアレスが苦笑いしながら太い腕を組んでおり、さらにその後ろの物陰では、見慣れないドレス姿のルーナが顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。
「探したんだぜ、キキ。こんなだだっ広い城の中で迷子にでもなったのかと思ったぞ」
「あ、あの……キキさん、無事でよかったです……。私、人が多すぎて、もう、息が……」
ルーナは人見知りが限界突破しているらしく、少しでも隠れようとアレスの広い背中にしがみつき、胸元を隠すようにドレスの襟をぎゅっと握りしめている。レンに無理やり着せられたであろうそのドレス姿はなかなかに破壊力が高かったが、今の俺にはいつものように卑しい視線を送る余裕すらなかった。
「いや、ちょっと……その、トイレの場所が分からなくて、マジで迷子になっちまって」
俺が顔を引き攣らせながら適当な嘘で誤魔化すと、レンは呆れたように深々とため息をついた。
「もう、子供じゃないんだから! 護衛対象のあなたがフラフラしてたら、私たちの立場がないでしょ。ほら、前を向いて。王様の大事なお話が終わるところよ」
レンの言葉に、俺は少しだけ胸が痛んだ。
彼女やアレス、そしておずおずと俺を見つめるルーナのことは信用している。だが、時計塔での出来事を今ここで話すわけにはいかない。ガクですらシステムに干渉されて消されたのだ。もし俺が迂闊に「時の魔女」の存在を口にすれば、この世界の住人である彼らは、システムによって即座に排除されてしまうかもしれない。
今は、俺一人で抱え込むしかない。
俺は平静を装いながら、レンに倣ってバルコニーの方へと視線を戻した。
豪奢なマントを羽織り、威風堂々とした立ち振る舞いのエルダー国王が、金細工の施された美しい杯を高く掲げているところだった。
「――かくして、忌まわしき魔王ラウ=ボノスは勇者たちの手によって討ち果たされた! あれからちょうど50年! 我々は幾多の困難を乗り越え、この繁栄を築き上げたのだ!」
王のよく通る声が、大広間の隅々にまで響き渡る。貴族たちはその言葉に酔いしれ、誇らしげに頷いている。
「この平和が幾星霜も続かんことを! 偉大なる勇者と、我らエルダー王国に乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
王の高らかな宣言と共に、貴族や招待客たちの割れんばかりの歓声と拍手が広間を揺るがした。シャンデリアの光が弾け、色鮮やかな花びらが天井から舞い散る。華やかな音楽が再びアップテンポに奏でられ、煌びやかな社交パーティがいよいよ本格的に幕を開けた。
「さぁ、私たちも飲みましょう! キキは……子供だからジュースね!」
レンが俺の手に琥珀色の液体の入ったグラスを押し付け、アレスが豪快に杯を呷る。ルーナもビクビクしながら、両手で小さなグラスを口元に運んでいた。
俺も周囲の笑顔や祝福の空気に合わせるように、無理やり口角を上げてみせた。
だが、手の中のグラスは微かに震え、心臓は未だに早鐘を打っている。
歓喜に沸くこの空間が、たまらなく不気味に思えた。
(この平和な世界を、あの魔女が裏で操っている……)
50年前の討伐劇。王はそう高らかに宣言したが、時計塔の狂った歯車を見た今の俺には、その歴史すら魔女によって歪められたものに思えてならない。
なぜ魔女はガクを消したのか。なぜ俺をこの世界に呼び込んだのか。
ガクが命がけで残したメモ。逆回転する狂った歯車。そして、圧倒的な力と底知れぬ狂気を持つ『時の魔女トキノ』。
俺は幻奏世界という名の、甘く見せかけた絶望の底なし沼に、間違いなく両足を踏み入れてしまったのだ。
それでも、逃げるわけにはいかない。魔女の企みを暴き、ガクを取り戻す方法を探らなければ。
グラスの中の波打つ水面を見つめながら、俺は誰にも気づかれないよう、静かに闘志に火を灯した。
ドクペうまうまですー
有難う、100ロ




