菊池でアトリエ ~不思議なゴールドと腕力の錬金術士~ 【ちょっと加筆しました】
コロン様主催の『菊池祭り』参加作品です。
ちょっと修正。
そして加筆。
菊池は17才の女の子。亡くなった両親のアトリエを引き継いだばかりの、まだ駆け出しの錬金術士です。
「おはよう菊池ちゃん。毎日大変だね」
隣の宿屋のスチーブさんが、アトリエにやって来ました。
「おはようスチーブさん。今日も早いですね」
「いつも爆発で目が覚めちゃうんだ」
早起きの原因は錬金術の失敗でした。鋭く尖ったイヤミの刃が菊池へ向けられます。
「テヘッ、ペロ」
ですが菊池は鋼のハートを持つタフガールです。通用しません。
「あっ、スチーブさん。これもし良かったら……」
菊池は可愛らしい手で、光輝く黄金のゴールドをスチーブに差し出しました。その量、およそ1キロです。現代日本ならいくらでしょうか?
「おっ、なんかねだったみたいで悪いね」
現在の主な収入源を受け取ったスチーブは、シケてんなクソガキと小さく毒付きました。菊池は地獄耳で鋼の心を持つタフガールです。
「お客さん、そろそろ起きるんじゃないですか?」
もう働くつもりの無いスチーブですが、薄っぺらい見栄が彼の背中を押しました。
「そうだね。団体さんのご飯作らなきゃ」
存在しない客のアピールをして、スチーブはアトリエを出て行きます。カネの魔力に抗える者など、菊池の周囲には存在しません。
ボソッとFワードを呟いてから、菊池は壁際の樽に腰かけました。
「たー……」
菊池はコンプライアンスに敏感です。口は災いの元。立ち上がって作業の再開です。
壺の中に材料を入れて。
「ぐーるぐる、ぐーるぐる……」
口先だけです。放り込んだ後は、基本放置。それが爆発の原因でした。
「あっ、またゴールドができちゃった……どうして傷薬にならないんだろう?」
アトリエの地下には何トンものゴールドが眠っています。菊池は錬金術はいいかげんですが、カネについては馬鹿ではありません。このゴールドを市場に流せば大暴落。スチーブに渡したのは、加齢臭の漂う彼が邪魔だったからです。
「地道に稼ぎたいだけどなぁ」
すでに闇で数キロほどゴールドを流しました。領主からは『次は無い』と脅されています。
泥棒にも入られました。寝ているときにやって来て、菊池にナイフを突きつけたのです。彼女が機転を効かせて金塊でフルボッコにしなければ……今ごろどうなっていたやら。
「臭い飯で生きて行くのも、ある意味地道なのかも」
自炊するよりマシかも知れません。錬金術を使っていないのに、全てゴールドになってしまいます。きっと前世で悪いことをしたのでしょう。
「自首しよう」
思い立ったが吉日。菊池は全てのゴールドを担いで領主の館に行きました。
館の前では領主がガタガタ震えて土下座をしています。当然です。何千トンものゴールドを担ぐなど、吉●沙●里でも、和●ア●子でも不可能です。
結局領主は(今後も含めて)見なかったことにしてくれました。
「困ったわ。これでは臭い飯が食べられない。どうしよう」
重い足取りで帰宅した菊池でしたが、菊池の真の実力を目撃したスチーブが家事を積極的にやってくれるようになりました。
甘い考えで土下座したスチーブでしたが、彼は選択を誤りました。死んだ方がマシな人生の始まりです。菊池は自分の力とその影響力を完全に理解したのですから。
下着の洗濯?ブルジョアはそんなことしません。新品を金塊と交換するのです。古い下着は錬金術で(傷薬を作るはずなのに失敗して)ゴールドになります。スチーブになど触らせません。
菊池は領主の必死の庇護と隠蔽と相場調整の元で、末永くブルジョアとして暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
全ての菊池さんへ、
ごめんなさい。