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ゼロの創世記  作者: hayabusa_zero
第1章 出会い別れ、そして旅立ち ~アンカーの街編~
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8.タクミの過去と葛藤

 夕食の串焼きとシチューはどちらも甲乙つけがたく、タクミとシイの料理対決は引き分けに終わった。濃いめの塩で味付けされた串焼きは肉のうまみを堪能でき、優しい味わいのシチューは堅パンを浸して食べると絶品だった。

 夕食後、リーシェとシイはテントで眠りにつき、僕とタクミは焚火の傍で見張りをしていた。静寂な森の中に、パチパチという焚き火の音が響き渡る。ふと空を見上げると、そこには満天の星が瞬いていた。

「そういえば、タクミさんとシイさんってどういう関係?」

「俺たちか? 俺たちはまぁ、兄妹…って所かな」

「へぇ~、兄妹で協力して仲良く冒険者生活…なんだか良いですね、そういう関係って」

「はっ、そんなに輝かしいもんじゃないさ」

 タクミはそう言って笑うと、感傷的な表情を浮かべてお茶を飲み干した。そのまま遠くを見つめて一言、「本当は、冒険者になるつもりなんて無かったんだしな…」と呟いた。

「…すみません、何か迂闊な事言っちゃいましたかね?」

「あ、いや、ちょっと昔のことを思い出しちまってな……まあいい、ちょいと昔話に付き合ってくれよ」

 タクミはそう言うと、お茶のお代わりを注いだ。そのまましばらく無言の時が流れたが、やがて彼はぽつぽつと語り始めた。

「俺が冒険者を目指したのは、それしか生きる術が無かったからさ…」


 …………


 俺の親父は、行商人だった。とは言っても、どこかの商会に所属しているという訳でもなく、このアンカーの街周辺の村々を巡って取引するだけだったがな。御袋は病弱な人だったらしく、俺を産んですぐに病気で亡くなったそうだ。俺とよく似た顔立ちの、男勝りな人だったらしい。

 俺が生まれてからしばらくは他の行商仲間が代わりを務めていたが、各村の長や領主様の頼みで、俺が7歳の時に親父は行商を再開した。俺も親父に連れられて、周囲の村を巡りながら火の起こし方や野草の知識、それに読み書きや計算方法なんかを教えてもらったりした。俺は勉強が嫌いだったが、行商の時に親父が色々なことを教えてくれるのだけは好きだった。

 シイと出会ったのも、行商で向かった村だった。親父はその村で1人の女性に惚れ込んだんだが、その女性こそがシイの母親なんだ。シイの母親は夫を魔物の襲撃によって亡くしていて、境遇が似ている親父とはすぐに意気投合した。その後も村を訪れるたびに2人の仲はどんどん親密になっていって、出会ってから3年ほどが経った頃、2人は再婚を決意した。2人の再婚は村の人たちも祝福してくれて、村を挙げて盛大な結婚式が執り行われたんだ。

 でも、悲劇はその直後に起こった。村の近くに巣食っていたゴブリンたちが、祭りの騒ぎに乗じて襲撃してきたんだ。俺とシイは何とか逃げ切ることができたが、村は壊滅。俺の親父やシイの母親をはじめ数多くの村人が殺され、又は捕まって、村はゴブリンたちに占拠されてしまった。

 俺は日々の糧を得るために冒険者になった。親父が生前教えてくれた知識と、自慢の腕っぷしでBランクにまで上り詰めたが、街を離れると未だにあの日の事を思い出してしまうんだ。人々の悲鳴と、奴らの不気味な雄叫び、そして血と煙の臭い……


 …………


「…と言ったところかな。俺は確かにランクだけは高いが、上位の魔物とは戦ったことすらない腰抜けさ」

 そう言ってタクミはお茶を飲み干すと、自嘲気味に呟いた。

「俺なんかより、シイの方がよっぽど強い。冷静で、頭が良くて、何より心が強い。シイがいなかったら、俺はBランク冒険者になんてなれなかっただろうし、今まで生きていられたかも怪しい……だけど」

 タクミはちらりとテントを覗き見た。焚火の明かりに照らされたシイの寝顔は、クールな立ち振る舞いとは異なり、あどけなさを感じさせるものだった。

「できれば、シイには戦ってほしくないんだ。平和な街の中で、お洒落な服を着て、良い男と巡り会って……幸せに暮らしてほしい。こんな危険な世界になんて、飛び込む必要なんてない。なのに…」

 タクミはそこで言葉を止めると、下唇を噛んで俯いた。僕は彼にどんな言葉を伝えればよいかわからず、ただ静かに彼の嗚咽する声を聞き続けることしかできなかった。


 どうして、胸を痛める必要がある?

  …すべて「お前」が望んだことだろう?


 思わず振り返ったが、そこには真っ暗な森が広がっているだけだった。あの不気味な声は、一体どこから聞こえてきたのだろうか?

 僕は声の正体に警戒しながら見張りを続けたが、その間、不気味な声はそれ以来2度と聞こえることは無かった。

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