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ゼロの創世記  作者: hayabusa_zero
第1章 出会い別れ、そして旅立ち ~アンカーの街編~
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7.いただきますは命への敬意

 しばらくして泣き止んだ僕は、シイに支えられながらよろよろと立ち上がった。見ると、シイの胸元は僕の涙と鼻水で汚れていた。

「あ…その、ごめん。服、汚しちゃって…」

「別に構わない。それよりも、落ち着いた?」

「あ、はい。おかげさまで」

「そう。良かった」

 そう言ってシイはポケットからハンカチを取り出すと、そっと僕に手渡してきた。それを受け取って涙を拭いて返すと、シイはハンカチを1度折りたたんで胸元を拭った。

「お~い、シイ。こっちは解体終わったから、埋めるために穴掘ってもらえるか?」

「わかった」

 近くの岩陰から手を振るタクミにそう答えると、シイは僕の顔をちらりと見てから走り去っていった。

「やっぱり、シイさんもタクミさんも凄いね…」

「そうだね。2人の技術もそうだし、何より動きに迷いが無かった。その上で僕たちのサポートまでしてくれるなんて、もう頭が上がらないよ」

「確かにね。でも、私はレイさんも十分すごいと思うよ?」

「僕が?」

「うん。だってあのとき、ホーンラビットが襲い掛かってきても冷静に反撃していたでしょ? 初めてなのにとっても勇敢で、カッコいいと思ったけどな~」

 リーシェの純粋な言葉にこっぱずかしくなった僕は、顔を背けて口を尖らせた。

「いやでも、その後にひどい醜態を晒したし……」

「いや、あの一撃は初心者にしては見事だと思うぞ。っと、これが君たちの取り分だ」

 そう言いながらタクミがホーンラビットの角と毛皮、布に包んだ肉を持って合流してきた。タクミは角1本と毛皮の半分を僕に渡すと、残りを自分のバッグに詰め込んだ。

「肉は売ってもいいんだが、夕食に使わせてもらおうか。万一の場合に備えて、保存食はできるだけ温存したいからな」

「分かった」

「コイツの肉は串焼きにするのが絶品なんだ。今夜はレイの初めての魔物討伐祝いに、最高の串焼きを作ってやろう」

「…ホーンラビットの肉は、シチューにするのが1番。他は認めない」

「む…こんがり焼いた肉に噛り付く方が旨いし英気を養えるだろ?」

「温かいシチューを飲んで一息つく方が、美味しいし英気を養える」

 そう言って、にらみ合うタクミとレイは「串焼き!」「シチュー!」と言い争い続ける。

「串焼きこそが至高!」

「シチューこそ正義!」

「なんだと、やるか?」

「よろしい、ならば戦争だ」

「ちょっと、2人とも?! どっちも作ればいいじゃないですか」

「それぞれにそれぞれの良さがありますって、ね!?」

 ついに両者剣に手をかけ、今にも決闘が始まりそうなところを、僕とリーシェは必死になって諫めた。その結果、僕とリーシェの評価で決着をつけるということで話が纏まった。

 どうすればいいんだ、これ……


 その後半日ほど街道沿いを進み、北方向の脇道へと進路を変えて森の中をしばらく歩いていると、いつの間にか太陽は傾き、辺りは薄暗くなっていた。その道中、スライムやイビルシャドーといった魔物を狩りつつ進んだため、ナイフの扱いにも大分慣れてきた。途中でシャドーソウルの魔法で右手を痛めたが、リーシェの治癒魔法のお陰であっという間に傷が再生した。

「そろそろ日が沈むし、今日はこの辺でキャンプだな」

「ふぅ~、疲れた…」

「私はもう、足がクタクタ…」

 タクミが野営を宣言すると、リーシェはその場に倒れ込んだ。僕もバッグを下ろして一息ついていると、タクミたちはテントの設営を終わらせていた。

「まぁ街中暮らしじゃ、こんなに歩くことは中々ないだろうな。だが、大変なのはここからだぜ?」

「夜の魔物は、危険で厄介。交代で見張ったり、火を焚いたり…対策しないと、一方的に殺される」

「まぁそういう訳だから、ゆっくり寝るのは村までお預けだな」

「うぇ~、冒険者って、大変なんだね…」

「そう。だからこそ、楽しい」

「大変だからこそ、楽しい…??」

 シイの言葉に困惑するリーシェの姿を見て、彼女はくすりと笑った。「そのうち、分かる日が来る…かも」と言い残すと、彼女は食事の支度を始めた。

「あ、シイさん。僕も手伝うよ」

「そう? じゃあこの野菜を1口大に切って。私は肉の下処理をするから」

 そう言って、シイは自分のバッグからジャガイモやニンジンを取り出すと、僕に向かって投げ渡してきた。彼女はそのままタクミのバッグを開けると、布に包まれた肉を取り出した。

「シイの料理は絶品だぜ? 俺は料理はからっきしでな。最初の頃は俺が作ったりもしたんだが、狩ってきた肉を焼くくらいしかできなくてな。それに飽きたのか独学で料理を覚えて、今じゃ食事の支度はすっかりシイの役割になっちまったんだよな」

「へぇ、それは楽しみだなぁ」

「む……余計な事しゃべってないで手を動かす。タクミは自分の分くらい自分で下処理する」

 タクミがそう言って腕前を褒めると、シイは照れ臭そうに顔を赤らめた。そして肉の半分残った布をタクミに押し付けると、そそくさとその場を後にした。

「お、怒らせちゃったかな…?」

「いや、あれは単に照れてるだけだぞ。っと、俺も串焼きの準備をしないとな……」

 そう言ってタクミは肉の下処理を始めた。その後、周囲の枯れ枝を集めて焚き火を作り、周りに串を刺して肉を焼きつつ、鍋を吊るして具材を煮込んだ。その間シイはずっと上機嫌で、口元を綻ばせながら鼻歌を歌っていた。

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