11.ルナの頼み事
報告を終えた後、アスタロット達は至急対策会議を行うそうなので、僕たちは宿屋に戻ることにした。
「アスタロットさん……随分とくたびれた様子だったね」
「スマートリザード襲撃の後始末に忙しい上にカーバンクル対策。更にはパラサイトビードルへの対処となると、あんまり休めてないのかもね」
「領主の娘って大変だな~。前に家督争いに興味がないって言ってたのがよく分かるよ。こんなに忙しいんんだもの」
などと食堂の一角で話していると、商人ギルドに行っていたルナと合流した。
「言うてこんなに事件が重なるなんて、そうそう起こることやないと思うけどなぁ」
「あ、お帰りルナちゃん! ずいぶん遅かったね?」
「結局クスリの森じゃ一番欲しい薬草は見つからんかったからなぁ。取り寄せの手続きしとったらこんな時間になってもうたわ。あんた等はもうメシ食ったんか?」
「一応食べたけど、この後少し飲もうかって話が出てる所。ルナも一緒に飲む?」
「それなら丁度ええ。ちょいと話があってな…まぁ飲みながらでええから聞いてくれるか?」
そう言ってルナは僕たちのところに座った。しばらくして、ルナの分の料理と追加注文した果実酒とおつまみが届き、乾杯の合図と共にささやかな打ち上げが始まった。他愛のない話をしつつルナがあらかた料理を食べ終えた頃、僕はふと彼女に用件を尋ねた。
「そういえばルナ、僕たちに話があるって言ってなかった?」
「あ、そうやそうや忘れとった」
ルナは大分酔いが回っているのか上気した様子だったが、僕の一言ではっと我に返った。グラスに少しだけ残っていた果実酒を飲み干した彼女の表情は、一転して何か覚悟を決めたような表情だった。
「レイたちはこの後、マジカ王国の方向に向かって旅をする予定なんやろ?」
「ああ、そのつもりだよ」
「単刀直入に言うで。その旅に、あたいも同行させてほしい。あたいも元々マジカ方面に旅をする予定やったから、あんた等と一緒なら心強いと思ってな」
「まぁ、出発するのはまだ先の話だけど、僕は構わな…」
「…それは、私たちのパーティに入れてほしいという事?」
そのとき静かに果実酒を飲んでいたシイが、僕の言葉を遮るようにルナに問いかけた。警戒するような鋭い視線に、僕は思わずぞっとする。
「…実力不足というんならあたいも分かっとる。戦闘や探索の実力だけならリーシェにも勝てるか分らん程度やし、ましてシイには足元にも及ばん。それでも採集関連の知識はそれなりにあると思っとるし、ポーションやら魔道具やらで支援は行えるから、ランクが低くても足手まといにはなるつもりは無いで」
「………」
シイは無言でルナの話を聞いている。いつも冷静で、冒険者になりたての僕たちに色々と指南してくれるほど面倒見のいい彼女が、なぜこうもルナを遠ざけようとするのだろうか。疑問に思った僕が口を開こうとしたとき、彼女はおもむろに立ち上がった。
「…悪いけど、これ以上は守り切れない。ついてくるのは勝手だけど、パーティには入れるのは無理」
シイはそう言い残すと部屋の鍵を取って食堂を後にしてしまった。気まずい空気が流れる中、リーシェが申し訳なさそうな顔をした。
「…ごめんね、ルナちゃん」
「いや、あたいはあんた等を利用しようとしていたんや。謝る必要はこれっぽっちもない。…すまんかったな、二人共」
「「……」」
返す言葉が見つからず口ごもる僕たちを見かねたのか、ルナはパンと手を叩くと果実酒の代わりを注いでグイっと呷った。
「こんな調子でお開きなんて後味が悪いから飲み直そうや。おっちゃん、果実酒もう一本追加頼むわ!」
…この様子だと、暫くは部屋に戻れそうにないな。
そんな三人の様子を壁越しで聞きながら、少女は小さくため息を吐いた。
「…申し訳ない、ルナ」
私一人で守り切れないというのは嘘じゃない。今でさえ上位の魔物の群れに襲われたら無事に生き残れるかわからないのに、更に守るべき仲間を増やすわけにはいかない。しかし…
(レイの秘密を広めないためにも、これ以上仲間を増やすのは慎重にしないといけない。でも…)
一抹の罪悪感を胸に、少女はその場を後にするのだった。