6.森の異変
街を出発してから数時間ほど南東に進んだところで、僕たちはクスリの森と呼ばれている場所にたどり着いた。森の中には木々に混ざって、所々に巨大なキノコが生えている。
「うわぁ~…あんなに大きいキノコ、初めて見た…」
「あれはタイボクタケ。魔力の多い場所に生えるらしいけど、私も実物は初めて」
巨大なキノコを見上げる二人の横で、ルナは難しい顔をしながら首を傾げた。
「…前来たときはもっとおっきかったと思うんやけどなぁ…。時期的なもんなんかな?」
「え、今でも僕たちの背丈以上の高さがあるんだけど?!」
「今はせいぜい2m位やろ? 前は周りの木々と同じくらいの高さはあったで」
「そ、そんなに大きくなるんだ…」
「…森の調査も必要かもしれないけど、今はピンチビードルの討伐が先」
僕たちががしげしげとタイボクタケを眺めていると、シイがパンパンと手を叩いた。ルナの案内の下、ピンチビードルの痕跡を探しつつクスリの森の奥深くへと進んでいく。ことになったのだが…
「お、サイレントフラワー発見や! これも残り少なかったんよな~」
道端に薬草やキノコを発見しては採集に向かってしまうため、探索のペースは非常にのんびりとしたものになっていた。
「このペースだったら、いつまでたってもピンチビードルの討伐ができない。討伐まで採集はお預けにする」
「そんなぁ~、こんなに仰山生えとるのに…」
「まぁまぁ、サクッと討伐してた後で、心置きなく採集しましょうよ」
「それもそうやなぁ…。しかし、前来たときはサイレントフラワーなんて生えとったかな?」
「そういえば、ルナちゃんが同行したのはハウリンクフラワーの採集が目的だったよね?」
サイレントフラワーの群生を後ろ髪をひかれるような表情で見送ったルナだったが、リーシェの一言にポンと手を叩く。
「そうや、なんかおかしいと思うたら全然ハウリングフラワーが生えとらんやんか! それこそ、あそこのサイレントフラワーと同じくらいデカい群生があっちこっちにあったんやで?!」
「もうかれこれ数時間は探索してるけど、ハウリングフラワーなんて全く見てないよ?」
「植生が変わったのかな…? でも、そんなに簡単に植生って変わるものだっけ?」
そんなことを話しつつしばらく進んでいると、森を横断するように木々が薙ぎ倒されている空間があった。その幅は街の大通りよりも広く、どこまでも先に続いている。
「おぉ~、これはついに痕跡を見つけたんやないか?」
「…まだ断面が新しい。この先を追いかけたら、目標のピンチビードルがいるかも。だけど…」
へし折られたような倒木に近づいたシイは、しばらく断面を観察してそう口を開いた。その表情には困惑の色が浮かんでいる。
「ピンチビードルの大きさからすると、これほど大きな通り道を作るとは考えにくい。それに、こんなに広い範囲を動き回る魔物でもない」
「ということは、群れでどこかに移動してるって事…?」
「いや、それはない。ピンチビードルは縄張り意識が強い種族。群れを成して移動するとは考えにくい」
「う~ん、それじゃあ一体どういうことだろう?」
首をひねるリーシェ達の横で、ルナはぽつりと呟く。
「…ひょっとしたら、ヌシが動いたのかもしれへんなあ…」
「ヌシ?」
「ああ。この森の奥にはなぁ、通常の倍以上のデカさのピンチビードルがおってな。ここいらの冒険者からヌシと呼ばれとるんよ」
「ヌシかぁ…もし暴れているのがそのヌシと呼ばれているピンチビードルだとしたら、その原因は何だろう? この森の異変と関係あるのかな?」
「さぁ…ともかく、この跡を追えば森を荒らしている奴と会うことができる。行こう」
こうして僕たちは、森を荒らす魔物の後を追いかけていくことになった。