4.宵闇の語らい
「…つまり、この子が間違って男湯に入っちゃって、慌てて出たときに忘れた服を届けただけって事…?」
荒ぶるリーシェを何とか宥めて誤解を解いたころ、服を着替えて戻ってきた金髪ツインテールの少女が深々と頭を下げた。
「ほんにご迷惑をお掛けしました! あたい、ルナ・クレセントって言います!」
「僕はレイ。彼女はリーシェで、向こうにいるのがシイ」
「よろしくね、ルナさん。私こそ色々迷惑かけてごねんね…」
「いやいや、不覚にも彼氏さんに色目使うてしもたあたいが悪いんで、そんな気にせえへんでください!」
「か、彼氏…?!」
ルナの一言に顔を赤くするリーシェ。それを他所に、ルナは小声で愚痴をこぼす。
「いや~、それにしても今日が浴場入れ替えの日やったのすっかり忘れてたわ。ネズミ捕りに疲れて頭回っとらんかったんかな…?」
「ネズミ捕り…って、カーバンクル駆除の依頼のこと? あれ結構大変だよね…」
「あたいは戦闘苦手やから、毒餌とか罠とか仕掛けてみたんやけど中々引っかからんのよね。普段は短弓使っとるから、近接戦の心得もなくてなぁ…」
「へぇ~、ルナさん弓使いなんだ」
「いやいや、冒険者業は副業やから、そんな大した腕じゃないで? ランクもまだFやし」
そう言ってルナは胸ポケットから2枚のカードを取り出した。一枚は冒険者証だと分かったが、もう一枚のカードもそれとよく似たデザインだ。
「親が薬師やったから、魔法薬学の知識が少しあってな。独学でポーション作りを学びつつ個人商人をやっとるんよ。これ、商人ギルドの会員証」
「薬師ですか…何だかカッコいいですね!」
「まぁ、言うても簡単なのしか作れんのやけどな…」
目を輝かせるリーシェに、ルナは苦笑いを浮かべる。その時、ルナのお腹がきゅううと鳴った。
「…さすがに腹減ったから、続きはメシ食いながら話さんか?」
かくして食堂へと向かった僕たちは、丸テーブルを囲んで共に食事をすることとなった。果実酒を片手に天ぷらをつまみつつ、僕たちは話に花を咲かせる。
「ん~っ! やっぱりおやっさんの料理は最高やな~!」
「激しく同意。私ももっと上手くなりたい」
「いやいや、シイさんの料理は既にプロの域に片足突っ込んでますよ…?」
「そう?」
「自覚なかったんですか…」
などとたわいのない話をしている内に、ふと気になったことをルナに尋ねる。
「そういえばルナさん、カーバンクル捕まえるときに罠を仕掛けてたって言ってましたよね、どんな罠仕掛けてたんです?」
「そんな硬い言い方せんで、ルナって気軽に呼んでええんやで? っと、そうやね……ネズミ捕りの大きいの作って仕掛けたりしたんやけど、警戒されたんか全く引っかからんかったねぇ。ほかにも籠罠とか毒入り餌とか一通り試してみたんやけど、どれも見向きもされんかったわ」
「成程、やっぱり罠は効果が無いのかな…?」
「こんだけ増えとるんやから、簡単に捕まえられる罠でも作れたら絶対儲かるんやけどな。残念やわ……」
そう言って果実酒を呷るルナを横目に、僕は静かに考え込む。警戒心の強いカーバンクルに餌を使った罠は効果が無いのだろうか? だとすれば別の手段でおびき寄せることができたらどうだろうか。…その手段とは何だ?
「明日はポーション素材の買い出しがあるから早めに寝るわ。ほな、おやすみ~!」
「あ、うん。おやすみなさい!」
「おやすみ」
「おやすみなさ~い!」
こうして各自部屋に戻った僕たちは眠りにつくのであった。