13.対決、スマートリザード!
「しっかしついてねぇなぁ、着いて早々緊急事態で招集なんてよぉ」
「全くだぜ。スイーデは塀に囲われて安全だって聞いてたのにな」
「ま、もしそうなら金が足りなくなるとこだったんだ。案外ラッキーなのかもしれねえぜ?」
急遽スイーデ兵士と冒険者の合同で組まれた討伐隊。その中でガルマ、ゼイ、ドルグの三人は小声で愚痴を交わしていた。
「侵入経路が不明なのだ。警戒して当然だろう」
…いや、周囲の兵士にも聞こえていたところを見るに、小声ではなかったのだろう。隣にいた兵士からの小言にガルマは舌打ちをすると、渋々といった表情で兵士達の後を追った。
「前方に魔物の群れを確認!」
「皆の者、進軍停止! まずはアスタロッテ様の遊撃部隊が進路を逸らす。我々は側面から奇襲、または不測の事態が起こった時にアスタロット様を援護せよ!」
「「「はっ!」」」
騎士隊長の命で、進軍を止めた兵士達。ガルマ達は遠くに見える魔物の姿を一目見てはっと鼻で笑った。
「何だよ、この街の奴ら。あんな雑魚魔物に怯えてたのかよ」
「へっ、所詮は農作業しかしてないヘタレ共の街って訳だ」
「ここは一つ、俺たちでチャチャっと討伐してがっぽり報酬をもらおうぜ?」
「そうだな、それがいい!」
「ん? あっ、おい待て!!」
ガルマ達はそう言ってへらへら笑うと、武器を構えて魔物の群れへと向かっていった。近くにいた兵士が彼らを呼び止めるも、隊列から外れて駆け出してゆく。
「安心しなって軟弱兵士さんよ。あんな雑魚魔物の群れなんて、俺たちで軽~く捻ってやるからよっ」
「あんた達はスモールリザードなんかにビビってないで、畑の土いじりに戻ってな!」
「ば、馬鹿野郎! あいつらはスモールリザードなんかじゃ…」
続く兵士の言葉をスルーして、ガルマは魔物の群れに駆け寄ると、近くにいた魔物の首を狙って大剣を振るう。武器に似合わぬ素早い一撃に、魔物の首は跳ね飛ばされる……かと思われたが、魔物は素早く身を引いて斬撃を躱すと、無防備なガルマに爪を振り下ろす。
「なっ…がはっ?!」
背中を切り裂かれたガルマは、振り返って魔物の姿を改めて観察する。スモールリザードのような姿だが、前足には鋭い爪を持っており、口には鋭い歯が並んでいる。
(こいつ…スモールリザードじゃねぇ、こいつは……)
「す、スマートリザード……」
「マズいぞ…今すぐ退け、退くんだ!」
慌ててその場を離れようと振り返るガルマ達であったが、スマートリ-ザード達はすでに回り込んで退路を塞いでいた。顔を真っ青にした彼らに、スマートリザード達は一斉に襲い掛かる。必死に武器を振るって追い払うも、その隙に別の個体が襲い掛かる。
「ギギィー!」
「くそ…くそがぁぁぁ!!」
大ぶりな横薙ぎで体勢を崩したガルマにスマートリザードが飛び掛かる。押し倒されたガルマは、そのまま頭を噛み砕かれると目を閉じたが……突如、ガルマを組み敷いていたスマートリザードの首が吹き飛んだ。
「……あぁ?」
返り血の感覚に目を開けると、プラチナブロンドの髪を後ろで束ねた少女が、彼女の背丈ほどもある戦斧を振るってスマートリザードを牽制していた。その少女の顔に、ガルマはあっと驚いた。
(あいつ…アンカーで冒険者登録をしようとしていたガキじゃ……)
「早く下がって!」
「…お、おう……行くぞ!」
ガルマ達が少女の言葉に苦々しい表情を浮かべつつ、静かにその場を離れていく。よく見ると、見慣れた水球が周囲のスマートリザード達の注意を引いている。
「くそっ…この怪我さえ無ければ、あいつらになんて負けねぇのによぉ……」
そう恨み言を吐きながら、ガルマ達は急いでその場を離れるのであった。
スマートリザードの群れに突っ込んだリーシェに続いて、僕も冒険者を襲うスマートリザードの背後に駆け寄ると、飛び掛かりながら首筋をナイフで切り裂いた。
「ギャッ?! ギィー!!」
「くっ、硬い…ッ」
暴れるスマートリザードにしがみつき、二度三度とナイフを突き立てると、徐々に抵抗は弱まりがくりと崩れ落ちた。ほっと息を吐くも、すぐに背後から別のスマートリザードが噛みついてくる。転がるようにして避けるも、すぐに尻尾の追撃が飛んでくる。
「ぐはっ?!」
とっさに受け身を取るも、尻尾を叩きつけられた衝撃で僕は吹き飛ばされた。口の中を切ったらしく、血の味が広がる。起き上がろうとするも、痛みの影響で腕に力が入らない…
しかしそんな僕を待ってくれる訳もなく、スマートリザードが迫ってくる。
「レイさん逃げて…っ!」
「ギギギギギ……ギギ?!」
僕の目前までスマートリザードが迫ってきたその時、群れの方から連続した爆発音が響いてきた。そちらに目をやると、本隊から放たれた魔法や矢がスマートリザードの群れに着弾していた。その様子に気を取られている隙にアスタロットが駆け寄ってくると、僕の横に腰を落とした。
「今のうちに逃げるぞ、しっかり掴まれ!」
「え…アスタロット、さん…何を……?!」
アスタロットは僕の脚と背中に手を差し込むと、そのまま僕を抱えて走り出す。こ、これって…お姫様抱っこってやつじゃ…!?
「魔物は騎士たちに任せて、君は治療院で休んでいろ。うまく受け身を取っていたとはいえ、骨が折れているかもしれないからな」
「そ、それは分かりましたが…このまま連れて行かれるんですか……?」
「ん? 何か不都合か?」
お姫様抱っこの恥ずかしさとアスタロットの柔らかさで頬を赤らめつつ、僕はアスタロットに抱えられたまま街まで運ばれるのであった。
…なお、その時リーシェ達が頬を膨らませていたことを、僕はまだ知らない。