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ゼロの創世記  作者: hayabusa_zero
第2章 反省会と祝勝会 ~ラクター到着編~
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8.農業都市南部の街、スイーデ

 衝撃の事実が発覚した後、僕たちはセキレイの案内で街道を進んでいった。少し歩いて森を抜けると、眼下に広大な平野が広がっていた。平野は地平線の先まで開墾されており、所々に小さな村がある。何より驚くべきは、その平野一帯をぐるりと石壁が囲っているのだ。

「ここが、ラクター……」

「こんなに巨大な畑、初めて見た」

 …この光景、前世の北海道のイメージに近いだろうか。魔物の脅威がある中で、どうやってこんな広範囲を開墾し、維持しているのだろうか。眼下に広がる壮大な光景に目を奪われていると、御者席からコーザックさんが得意げに話してきた。

「すごい広さだろう。ここに初めてくる者は、皆同じように驚くものだよ」

「ラクターの街の発展って、ここ二、三十年の話ですよね? どうやってそんな短期間で、ここまでの広さを開墾したんですか?」

 リーシェの質問に、コーザックさんは「ふむ」と顎に手をやった。

「それはすべてハーピィ族たちのおかげだよ」

「ハーピィ族の?」

「うむ。かつてこの辺りは広大な草原でね。何度も開墾を試みたものの、草原に住む魔物たちのせいで中々うまくいかなかった。だが、先代のラクター領主…当時はまだ小さな村の村長だったがね。先代がハーピィ族と友誼を結び、彼らが村に居着いたことで村は大きく発展していったのだよ」

 そう言いつつ、馬車の上を指さすコーザックさん。上空では、セキレイが円を描きながら滑空している。

「彼女たちの滑空による高い機動力と索敵力によって、畑を荒らす魔物を察知し撃退できるようになったのだよ。こうしてハーピィ族と周囲の村で協力して草原の魔物を退け、開墾するとともに平野を囲う塀を築き上げた。こうして、大陸の食糧庫とまで言われる大農業地帯を築き上げた先代は、王家から伯爵位を賜り、周囲の村を束ねたということさ」

 コーザックさんが話し終える頃には、目の前には街へと続く門がそびえていた。若い衛兵が身分証を確認しようと近づき、驚きの声を上げる。

「ラクター南の街、スイーデへようこそ…って、ラクター様?!」

「ああ、新人かい? すまないねぇ。いつも街を出るときは一介の商人になりすましているからね」

「そ、そうなんですか……」

 門番たちは戸惑いつつも入場手続きはスムーズに済み、僕たちはスイーデの街へと足を踏み入れた。


 スイーデの街は石造りの建物が整然と並んではいるものの、規模的にはフレアボウ狩りで訪れた村より二回りほど大きいくらいだろうか。アンカーの街のように舗装はされてはいないものの、しっかりと踏み固められた大通りを農具を乗せた荷車が行き交っている。

 街に入ったところで、コーザックさんから声を掛けられた。

「さて、私たちはこれから治療院へ向かった後、街長へ挨拶に伺わなければいけない。名残惜しいけど、君たちとはここでお別れだね」

「こちらこそ、いろいろと教えてくださり、ありがとうございました」

「さて、君たちはこの後どうする予定かい?」

「そうですね…とりあえず今日は休んで、明日からここのギルドで仕事を探すことになるのかな?」

 この世界では、各街に冒険者ギルドの支店があるらしい。門番も街と呼んでいたので、この街にも冒険者ギルドはあるだろう。そう思って話していると、コーザックさんも相槌を打った。

「なるほど…それなら、今回の護衛に対する謝礼はギルドの方からクエスト報酬という形で支払われるよう取り計らっておくよ。本当は今すぐに渡したいところだけど、持ち金が心もとなくてね」

 コーザックさんは苦笑いを浮かべると、僕にそっと右手を差し伸べてきた。

「もし次の行き先に予定が無ければ、中央都市ラクターにある私の館を訪ねるといい。少しばかりではあるが、私が君たちの力になろう」

「はい。近いうちに、必ず」

 そう言って差し出された右手を取り、固い握手を交わした。その背後から、シイの不満げな声が聞こえてきた。

「…相談もなしに、次の予定を決めない」

「あ…ごめん、二人とも……」

「はっはっは、組織内での意思疎通は大事だぞ。私たちも、誰かさんのおかげで散々迷惑を被っているからな」

「全く…とんだ迷惑なやつがいるもんだな」

「貴女のことですよ、サイカ」

 ホーウェイの突っ込みに、首をすくめるサイカ。その様子に、僕たちは皆で大笑いした。

「それでは、私たちはこの辺で」

「そうだな。私たちも、早く彼らに治療を受けさせなければ…」

「皆さん、お気をつけて」

「お世話になりました~!」

「応! 二人とも、精進しろよ!」

「皆さんに、神のご加護がありますように」

 思い思いに別れの言葉を交わした僕たちは、互いの姿が人波に消えるまで手を振り続けたのであった。

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