6.臨時パーティ結成!
朝食を終え、一息ついたところでホーウェイがコーザックに話を切り出した。
「二人の容態ですが、リーシェ君のおかげで何とか容体を落ち着かせることができました。未だ意識は戻っていませんが、街へたどり着くまでは十分持ちそうです」
「おお、それはよかった」
報告を聞いたコーザックはほっとした表情を浮かべたが、ホーウェイの表情は険しいままだった。
「…とは言っても彼らが怪我で動けない今、我々の護衛能力は十分とは言えないでしょう。それに、街道側から魔物が流れてきている可能性も考えられます。ここは一つ、彼ら三人と共に行動するべきかと」
「うむ…とはいえ急に護衛を依頼して、引き受けて貰えるかどうか……」
そう呟きながら、二人はちらりと遠くで出発の準備を整えているシイを見やった。一方……
「レイさん…大丈夫? 少しふらついているけど……」
救援のためにほったらかしにしていた野営道具を片付けているとき、急に疲労感が押し寄せてきた。テントの柱に手をやり倒れまいとしていると、布をたたんでいたリーシェが駆け寄ってきた。そんな彼女の顔にも疲労の色が浮かんでいる。
「いやぁ…さすがに夜間の戦闘は初めてだから、ちょっと精神的に疲れてるのかも……」
「無理もない。昨夜の戦いで、二人とも魔法を使いすぎた……このまま進むのは危険」
「だよなぁ…やっぱり、僕らだけじゃ実力不足だよね」
「…そんなあんたたちに、ちょいと相談があるんだがよ」
背後からの声に振り替えると、サイカが神妙な顔で近づいてきた。
「相談…?」
「ああ。昨夜の襲撃で、あたしらは護衛を二人失っただろう? 街道側から魔物が流れている可能性がある今、このまま進むのは危険だとコーザック様は考えている。そこで、もしあんたたちがラクター様の街に向かうってんなら、あたしらと臨時のパーティを作る気はないかい?」
「ちょ…ちょっとサイカ?!」
サイカの後を追って駆けつけてきたホーウェイが慌てた表情で割り込んでくるが、彼女は片手で押しのけて歩み寄ってきた。
「どうだい、 悪い話じゃぁないだろう?」
「そんなこと…あなたが勝手に決めていいことじゃないですよ! それに第一、オーナーを護衛するにあたって、彼らは信頼できる冒険者なのですか!?」
「あたしは信頼できるぜ」
大声で苦言を呈するホーウェイに、サイカはぴしゃりと言い放った。
「あんたの言い分もわかる。Cランクの彼女はともかく二人のランクはEだ。実力も信頼も足りていないのは事実。…だけどな」
彼女はそこで馬車のほうを示すと、所々傷ついた馬車に乗ってコーザックさんが近づいてきていた。
「見ず知らずのあたしたちの為に、危険を顧みずに助けに来てくれたんだ。そんな奴らが、あたしたちを貶めるような真似すると思うか?」
「…そうですね」
「ま、旅は道連れってやつだ。ほらほら、早くしないと街につくのが夜になっちまうぜ」
そう言うと、サイカはテントの撤収作業を手伝い始めた。
…あれ? いつの間にパーティを組むことが決定したんだろう?
「ご迷惑をかけて、申し訳ありません」
コーザックさんに二、三言報告したのち、ホーウェイは僕らに向かって頭を下げた。その顔には、やれやれといった表情が浮かんでいる。
「彼女の洞察力や判断力は非常に高いのですが、独断で動いてしまうことも多いものでして…」
「…まぁ多少戸惑いましたけど、別に悪い話じゃないですし。ね?」
「ん。彼女のように切符のいい人間は、嫌いじゃない」
「そ、そうですか……それでは、皆さんの準備が整ったら出発しましょう」
そう言ってホーウェイは馬車のほうへと戻っていった。その後姿を見て、リーシェは眉をひそめて唸り声をあげた。
「なんか、うまく乗せられたような気がするなぁ……」
「だとしても、ここは乗せられておくべき。こういったところで評判や信用を稼いでおけば、今後の為になる」
「…やっぱりシイさんって、食えない人ですよね」
リーシェの呟きに、シイは「そう?」とキョトンとした顔で首を傾げる。その様子に苦笑しつつ、臨時パーティを組むという初めての体験に心をときめかせるのであった。
手早く撤収作業を終えた僕たちは馬車と共に北東へと進み始めた。三台の馬車の御者席にコーザックさんたちが乗り込み、左右を僕とリーシェが歩く形だ。シイは戦闘馬車の屋根上で見張りをしている。雑談がてらラクターの街の名物や戦いのコツなどを教えてもらいながら、森の中を何事もなく進んでゆく。
「そういやあんた、そんな華奢な見た目なのになんで戦斧を使おうなんて思ったんだい?」
昼休憩後、ふとサイカがリーシェに問いかけた。
「…そんなに珍しいですか? 大鎌使いのサイカさんの方が珍しいと思いますけど…」
「…まぁ、重量系武器は扱いにくいですからね。それに持ち運ぶのも大変ですから、男性でも使いたがる人はあまりいませんよ」
「そうなんですか。わたしの場合、力が弱いし怖いから、少しでもリーチがあって威力のある武器がいいなって思って選んだだけなんですよね…」
「なるほどねぇ…あたしの場合、最初に魔物と戦った時、たまたま持ってた草刈り鎌を振り回したから、この武器が一番しっくりくるんだよ。前は大剣も使ってたけど、どうしてもしっくりこなくてねぇ…」
やっぱり、重心の位置が違うから使用感が合わなかったのかな? などと考えていると、屋根上のシイが停止の合図を行った。
「左前方にスモールリザードの群れ。数は7頭。こっちに向かっている」
「丁度いい、重量級武器の扱い方を、あたしが教えてあげるよ!」
そういってサイカは御者席から大鎌を持ってひらりと飛び降りると、右手で1回転させてから正面に突き出して構える。左手奥の茂みからガサガサという音が近づいてきている。
「接敵!」
「ギィーー!!」
ホーウェイがそう叫ぶと同時に、茂みから体長2m弱の恐竜のような見た目のドラゴンが飛び出してきた。慌てた様子で馬車に突撃するドラゴンたちに馬車の上から氷弾と雷撃が襲い掛かる。
「どの武器でも同じだけど、身体強化魔法に任せて動き回るのは消耗が激しいからね。使うのは武器をふるう一瞬、それだけでいいのさ」
魔法のけん制で怯んだ群れの中、一頭だけ素早く復帰したスモールリザードがサイカへと突撃する。それを冷静に待ち構え、噛みつこうと首を伸ばしたところでサイカは大鎌を一振りした。
「ッシッ!」
「グィ?!」
横なぎに振られた大鎌は、適格にスモールリザードの首を切り落とした。
「…ってな感じで、武器をふるう瞬間、インパクトの瞬間をそれぞれ意識して身体強化魔法を使うんだ」
さあやってみなと、サイカは体勢を立て直しているスモールリザードの群れを指し示す。
「あたしは正面を受け持つから、あんたたちは左右から挟撃しな!」
「「はい!」」
僕とリーシェはそう叫ぶと、左右からスモールリザードの群れに駆け寄っていった。