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ゼロの創世記  作者: hayabusa_zero
第1章 出会い別れ、そして旅立ち ~アンカーの街編~
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1.異世界転移は教会の財布に悪い

 カシャーンというガラスの割れる音と、背中を地面に叩きつけられる衝撃で目が覚める。

「いっ…ててて……。ここは…?」

 よろよろと起き上がり、辺りを見渡すとそこは小さな礼拝堂のようだった。白い石造りの部屋で、奥には入り口と思わしき大きな扉がある。周囲には古めかしい木製の長椅子が整然と並んでいるのだが、床には色とりどりのガラス片が散らばっている。振り返ると大きく割れたステンドグラスがあり、どうやら僕はそのガラスを突き破ってこの部屋に落ちてきたらしい。ガラスの割れ目からは木々の生えた中庭と、沈みかけの太陽がのぞいていた。

 ふと、脇のドアの向こうから階段を駆け下りる音が聞こえてきた。足音は次第に大きくなり、やがてドアが開くと、長いプラチナブロンドの髪を後ろでまとめた少女と壮年の男が顔をのぞかせた。2人は中世ヨーロッパ風の衣服を身にまとっており、僕に気付くと目を見開いた。

「おや、これはこれは…」

「わ、わわ…だ、大丈夫ですか?!」

「あ…ありがとう、ございます……」

 駆け寄ってきた少女は、怪我をしていないか確かめた後、僕に手を差し伸べてきた。僕はその手を掴むと、おもむろに立ち上がった。

「まさか、時空の旅人がこの教会に訪れるとは…」

「ええっと、ここは一体……それに、時空の旅人というのは…?」

「そうですね…少し長い話になります。奥でお茶でも飲みながらお話ししましょう。リーシェ、割れたガラスの片づけをお願いします」

「は~い」

 男のつぶやきに対して問いかけると、僕を扉の奥へと案内した。扉の先は居住スペースになっているようで、夕陽の射す廊下のわきには階段といくつかの部屋があった。男は手前側の扉を開けると、僕に入室を促した。

 扉の奥は食堂になっており、大きな長机と椅子が置いてある。男は奥の厨房へ入ると、右手の先に炎を灯し、慣れた手つきでレンガ造りの釜戸へと放り込んだ。

「ま、魔法?!」

「おや、異世界には魔法が存在しない場所もあると聞いていましたが、まさか本当だったとは」

 男は細口のヤカンを釜戸の上に置くと、戸棚からティーセットを取り出し、向かいの椅子に座った。

「お気づきかもしれませんが、この世界…私たちの宗教では『神々の箱庭』などと呼んでいます。ここでは異世界から来たとされる人間の伝承が数多くあり、彼らの事を『時空の旅人』と呼んでいるのです」

「なるほど…でも、どうして僕がこの世界の人間ではないって思ったんですか?」

「衣服を見れば一目で分かりましたよ。そのような布は見たことがありませんから」

 そう言いながら、男はティーポットに茶葉を入れていく。

「それに、伝承の中には天使族と共に教会の窓を突き破って落ちてきた、という話も存在しましたから。非常にまれな例のようですが、印象的な話だったのでよく覚えています。その後も天使族や悪魔族が何度も同じように教会に現れ、今日の天使族・悪魔族の祖先となったそうです」

「へ、へぇ~」

「その後教会は、ガラスの修繕費による資金難に悩まされ続けたそうです。私のところでは、そのようなことにならなければいいのですが」

 男は冗談めかしてそう言うと、はっはっはと大きな声で笑った。僕もつられて苦笑いを浮かべる。

 …時空の旅人って、迷惑しかかけていないのでは?

「私はテスと申します。この街、アンカーの司祭です。どうぞよろしく」

「これはご丁寧にどうも。ええっと、僕は……」

 そこで僕は思い出す。ついさっきまで夢を見ていたような気がするが、それ以前の記憶が非常に曖昧なのだ。

「僕は…僕は……」

「…ひょっとして、記おk…」

「お掃除終わりましたよ、テス神父!」

 朧げな記憶をたどっていると、突如扉が開き、先ほどリーシェと呼ばれていた少女が部屋に飛び込んできた。

「リーシェ、お客様が来ているときは、話の邪魔をしてはいけませんよ」

「ごめんなさいテス神父。でもわたしだって旅人さんと仲良くなりたいんです」

 テス神父に咎められた彼女は苦い顔をしながら肩をすくめたが、すぐに僕の隣へと駆けつけてきた。

「わたしはリーシェ。あなたは?」

「僕は…レイ。と、名乗っていた…はず」

「レイさんだね、よろしくね!」

 リーシェは僕の手を取ると、激しく上下に振った。テス神父はその様子を見ると、「やれやれ…」と溜息を吐いた。

「とりあえず、レイさんがこの世界で最低限暮らせるようになるまでは、この教会で過ごすと良いでしょう」

「え、いいんですか? ありがとうございます」

「いえいえお気になさらず。我々にとって時空の旅人は保護すべき存在ですから」

「そうと決まれば、早速この教会の中を案内するね! ついてきて!」

 テス神父がそう言うや否や、リーシェは僕の手を取って走り出す。慌てて後を追う僕の口角は、知らず知らずのうちに上がっていた。まだまだ分からないことだらけのこの世界だけども、きっと何とかやっていける。そんな風に感じていた。

 かくして、僕の新たな生活はにぎやかに幕を開けたのだった。

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