18.事件の終焉は大団円?
「…ッッ……!」
全身の痛みで目を覚ます。痛みと倦怠感で身体に力が入らない。背中の感覚から、僕は何か柔らかいものの上に寝かされているのだろう。陽の光が身体を温かく照らしている感覚がある。
ふと、誰かが歩み寄ってくる気配がする。何者かは僕の横に立つと、胸元に手を当ててきた。すると、手のひらから何か温かいものが身体中に流れ込んでくる感覚があり、痛みと倦怠感がふっと和らいだ。ようやく薄目を開けると、リーシェが僕の胸元に手を添え、治癒魔法を唱えている姿があった。
「……リー…シェ……」
「…! レイさん……!!」
僕が辛うじて彼女の名前を呼ぶと、リーシェは感極まった表情で抱き着いてきた。衝撃で身体中に痛みが走るが、歯を食い縛って耐える。
「よかった…本当に、よかった……!」
「…シイ。レイが、苦しそう…」
「はっ?! ご、ごめん!」
リーシェは背後からの声にはっとすると、慌てて腕を開放した。僕はおもむろに声の主を確認すると、リーシェの後ろのベッドでシイが上体を起こしていた。
「シイ…良かった……」
「……ん、ありがと…」
僕の言葉にシイはアンニュイな表情を浮かべると、こくりと小さくうなずいた。
「…ところで、タクミは?」
周囲を見渡してから、僕はそう呟いた。ここは病室のようで、部屋の両端にベッドが3台ずつ並んでいる。部屋には僕ら3人以外の姿は無く、窓から差し込む木漏れ日が部屋を照らしていた。
「タクミさんなら、調査の報告に行ったよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな…?」
「良かった、無事なんだね。…ところで、あの後一体何が起こったんだ…?」
「え~っと……あ、噂をすれば」
扉が開く音がして目をやると、右腕に包帯を巻いたタクミがよろよろと部屋に入ってくるのが見えた。目が合うと、タクミはしばらく固まったが、次の瞬間僕のベッドへと駆け寄ると力いっぱい抱きしめてきた。
く……くるし…い……ッ……
タクミ曰く、彼はリーシェと共に魔物の群れ相手に奮闘していたが、不意に魔物たちが一斉に村の中心へと駆けて行ったという。何かが起こったと勘付いて魔物を追いかけていると、急に爆発音が鳴り響き、それまで一糸乱れぬ動きをしていた魔物たちが同士討ちを始めたそうだ。
「俺はきっと魔物たちを操っていた何かが壊れたんだと思って、爆発音の元へ急いだんだ。そしたら半壊した大きな建物があって、中で傷だらけのおまえさんとベッドに縛り付けられたシイを見つけたんだ」
「タクミさんの方では、そんなことが…」
「…ねぇ、結局マルフィク? の実験室には何があったの?」
「う~ん、何かがあったというよりは…」
僕は3人に実験室での出来事を話した。魔方陣の事、研究の事、そして戦闘の事。すべて話し終えると、腕を組んだタクミが険しい顔で唸った。
「…光り輝く石……おそらく何らかの魔法が付与された魔石だな。そいつを壊した時に爆発したってことは、自爆用の術式が付与されてたのか? 機密保持のために…?」
「だとしたら、わざわざ研究室に招き入れた意図が分からない。研究を知られたくないなら、私の前で殺せばよかったのに…」
「魔法の仕組みを教えることは出来ないけど、研究成果は自慢したかったのかな…?」
「そんな馬鹿な…と言いたいところだが、案外リーシェの意見が正しかったのかもな」
考え込んでいたタクミは鼻で笑うと、いつもの陽気な顔に戻って今後の事を切り出した。
「さて、今回の件については一度街に戻ってギルドに報告だな。事が事だし、軍部が動いて詳しい調査を行うんじゃねえかな?」
「「軍部…」」
僕とリーシェが顔をこわばらせる。それを見て、タクミはからからと笑った。
「なぁに、こっちは事件を解決したんだ。いろいろと聞かれるかもしれねぇが、ドーンと構えてりゃいいのよ」
「いや、そうじゃなくて…」
「私たち、とんでもない事件に巻き込まれちゃったんだなぁ~って…」
「あぁ、確かにな。だがその分成長できただろうし、ギルドからの評価も上がっただろうよ。それに、たくさんの人が感謝してくれている……これこそ、冒険者冥利に尽きるってんだ」
「ははっ、そうかもしれませんね…」
ふと耳を澄ますと、窓の外から村人たちの歓声が聞こえてきた。歓声は喧騒へと変わっていき、次第に太鼓や笛の音が混ざり始めてきた。