15.愚者たちの反逆
いつの間にやら太陽は傾き、辺りは薄暗くなってきた。俺は茂みに隠れながら、崖下の廃村を見やる。眼下ではゴブリン達をはじめ、フレアボウやウルフ系の魔物がブレイク化し、悠然と廃屋の間を歩いている。
「さてと……やるか」
震える脚を叩いて立ち上がると、おもむろに剣を引き抜いて前傾姿勢をとる。小さく深呼吸して、俺は崖を駆け下りた。
廃村に突撃する俺に気付いたゴブリン達が武器を構えるが、構わずに突っ切る。俺は走りながら全身に力を込め、行く手を阻む門に向かって横薙ぎに大剣を振るう。その衝撃で腐った木製の門扉は周囲の魔物共々宙を舞う。
「シュウゲキ、シュウゲキ!」
「コロセ、コロセ!」
「やってみろよ、畜生共めが!!」
四方から襲い掛かってくる魔物やゴブリン達を往なし、切り裂きながら俺は村の中央を目指す。しかし、敵の物量に圧倒され、思うように足は進まなかった。止まない猛攻の嵐を前に、次第に息が切れ始める。
「グルワァッッ!」
「しまっ……!!」
大剣を振り下ろす際に躓いてよろめいたところで、横からブレイク化したウルフが飛び出してきて俺の右腕に噛みついた。そのままウルフは大きく首を振り、俺は地面へと叩きつけられる。そこに止めを刺そうと槍を持ったゴブリンが飛びかかる。咄嗟に左手で抵抗するも空しく、心臓に向けて槍が……
「ダメェーーッ!!」
その時、横から何者かが飛び込んできたかと思うと、体当たりでゴブリンを突き飛ばした。彼女はそのままナイフで追撃して魔物たちを追い払うと、振り返って俺に手を差し伸べる。
「探しましたよ、タクミさん!」
「リ、リーシェ…?! どうしてここに…?」
「…タクミさん、全然帰ってこないね……」
タクミさんが物陰に身を隠した後、わたしたちはタクミさんの帰りを待っていました。タクミさんは先に村に帰るようにと言っていましたが、帰り道が分からなかったのです……
「ちょっと様子を見てこようか?」
「そうだね、何かあったら心配だし」
そう提案したレイさんの後を追って、わたしたちはタクミさんが隠れた茂みに近づきつつ、何度か呼びかけてみましたが、返事はありません。不安になりつつ茂みの裏を覗き込んでみると、そこにタクミさんの姿はありませんでした
「タクミさ…って、居ない?!」
「やっぱり……」
「…ひょっとしてレイさん、何か知ってるの?」
驚くわたしと対照的に、レイさんは予想通りと言った表情をしました。わたしの疑問に対し、レイさんは戸惑いつつもおもむろに口を開きます。
「多分……敵討ちに行ったんだと思う」
「敵討ち…?」
「前に話してたんだけど、タクミさんはシイのことを大事にしているみたいで、冒険者として活動することに否定的だったんだよね。危険な場所に、身を置いてほしくないって」
その気持ちはよく分かります。かつてわたしもテス神父から冒険者時代の話はよく聞きましたし、わたしが冒険者に成田と言った時、テス神父は非常に心配してくださいました。その時のテス神父の表情とタクミさんの面影を重ねていると、レイさんは「だから…」と呟きます。
「タクミさんの性格だから、彼女を犠牲にしたことを後悔しているんじゃないかな…」
「……」
その呟きを聞いて、わたしは深呼吸しました。
「「…助けに行こう」(きましょう)」
図らずもハモったことに思わず顔を見合わせてくすりと笑うと、わたしたちは森の奥へと戻っていきました。