9.フレアボウ掃討作戦 計画編
翌日。森を抜けた先には、周囲を木製の柵で囲われた畑が広がっていた。門の前には石槍を持った革鎧の門番2人が立っており、僕たちの姿を見つけると誰何した。
「君たちは冒険者だな。冒険者証を確認……って、タクミの坊主じゃねえか」
「お久しぶりです、バモンさん。今日はフレアボウ討伐の依頼を受けて来ましたぜ」
「おうそうかい。とはいえ冒険者証は確認させてもらうぞ」
門番は僕たちが提示した冒険者証を一瞥すると、僕らを門の中へと促した。道の左右には広い畑が広がっており、所々に小さな小屋が建っていた。道の先には木製の塀で囲われた場所があり、茅葺の屋根や櫓が覗いていた。どうやら住居はあの塀の中に立っているらしい。
「あの門番さんとはとは知り合なのか?」
「おう。この村は親父の行商先の1つだったからな」
などと話しつつ30分ほど歩くと、塀の前までたどり着いた。先ほどと同じように門番に冒険者証を見せると、門番は僕らを街の中心へと案内した。門番は一際立派な建物の前で一礼すると、その中へと入っていいく。後を追って中に入り、使用人と思わしき人に奥の部屋へと通されると、そこでは立派な白髭の老人が窓辺の椅子に座っていた。
「失礼します、村長。例の依頼を受けた冒険者が来ましたぜ」
「うむ、ご苦労。…おや、誰かと思えばタクミではないか。元気でやっておるかの」
使用人の呼び声におもむろに振り返ると、村長は微笑みを浮かべた。その表情は、まるで孫との再会を喜ぶようでもあった。
「ええ、まぁ何とか……村長もお元気そうで良かったです」
「ほっほっほ、とはいえ儂も老い先短い身じゃ。もし良ければ、お主に儂の跡取りを任せたいところなのじゃが……」
「そんなご冗談を。俺はただの冒険者ですから」
と言った雑談をしているうちに、使用人が人数分のお茶を用意して、机の上に並べてくれた。各々席に着き、お茶を1口飲むと村長は「さて…」と話を切り出した。
「今回の依頼じゃが、先日東の柵を突き破って、フレアボウの群れが襲撃してきたのじゃ。撃退に当たった村人から話を聞くと、数は10頭以上。幼体の姿はなく、中には紫の炎を吐いたという証言もある」
「紫色の炎…?! それって、ブレイク個体の特徴じゃねえか!」
「ブレイク個体…って、何?」
リーシェが首を傾げると、シイが耳元に顔を近づけて説明する。
「魔法の制御に失敗し、暴走状態になった個体のこと。元の個体より凶暴で、厄介になる」
「それに、襲撃してきた群れの規模もデカすぎる。アイツらは基本的につがいか、5~6頭の小さい群れしか作らないはずだ。それに、繁殖期なのに幼体の姿が無いのもおかしい」
「…ブレイク個体が現れた影響で、特殊な群れが出来ているとか?」
「その可能性も十分にある……村長。その群れは今はどこに?」
「正確な位置は分からぬが、その後も度々東の森から同じ群れから襲撃を受けておる。恐らく東の森に奴らのねぐらがあるはずじゃ」
「そうですか……それじゃ…」
そのとき、遠くから鐘を鳴らす音が聞こえてきた。にわかに外が騒がしくなり、使用人が慌てた様子で部屋へと飛び込んできた。
「た、大変です! またフレアボウの襲撃が…!」
「また襲撃じゃと?! 総員警戒態勢! 女衆と子供は全員退避し、男衆は武装し迎撃せよ!」
「はいっ!」
「俺たちも加勢するぞ! 襲撃があった地点は?!」
「おう、こっちだ!」
僕たちは屋敷を飛び出し、武装した村人たちと共に門の外へと走り出した。