目覚め 5
女の子が歌を歌っていた。
窓際でウサギのぬいぐるみを相手にニコニコと。
たぶん彼女の名前は
『クラウディアちゃん?』
女の子はパッと振り向いた。
『おねえさん、おきたの?』
『うん』
『みてみて!わたしのおへやだよ!』
そこにはさっきまで『わたし』がいた部屋がそのまま再現されていた。
クラウディアちゃんが抱えているぬいぐるみも、私が寝ている天蓋付きのベッドも、大きな窓から見えた空の色までそのままだ。
『あとでね、ハンナがスープをつくってくれるんだって!あたしだいすきなの!』
なんとベッドや部屋だけでなく人や食べものも再現できるの、この空間は!
いやぁ夢って万能ですね。
出会ったときとは別人のように元気になったクラウディアちゃんは誇らしげにぬいぐるみを次々に紹介してくれた。
『これぜんぶわたしのともだち』
またあえたねとぬいぐるみにほおずりする姿はどこから見ても普通の小さな女の子だった。
『よかったね』
『うん!』
本当によかったよ、元気になって。
どんな理屈なのかわからないけど、私が経験したことはここで再現されるみたい。
なら、この部屋から出たことのないクラウディアちゃんにも、外の世界を見せてあげたい。
私は絵本の間に挟んであったイラストを探して、クラウディアちゃんに見せた。
『私はここの場所に行ってみたいの。クラウディアちゃん、ここがどこか知ってる?』
『しらない』
だよねぇ。この部屋から出たことなかったもんね。
『この絵は誰が持ってきてくれたの?ハンナ?』
『ほんはせんせいがもってきてくれたの。おべんきょうしなさいって。……でもおべんきょうすきじゃない』
意外な答えが返ってきたぞ。
家庭教師みたいなのもつけてたって事?
『せんせいって、学校の先生?家庭教師の先生?』
クラウディアちゃんは『せんせいはせんせいだよ?』と首をかしげる。
『わたし、せんせいきらい。いっつもへんなおめんかぶってるんだもん。……にいさまもかあさまも、せんせいがきてからおめんかぶるようになったから、おかおがみえないんだもん』
ボロボロとクラウディアちゃんがぬいぐるみを抱きしめて泣き出した。
『かあさまにあいたい。にいさまにあいたい』
わんわん泣き始めた子供はどうやって慰めればいいんだろう。
困って手を伸ばしたら突進するように抱きついてきた。
『かあさま、かあさま』
『そうだね、会いたいね』
私はそんなことしか言ってあげられなくて、ただただクラウディアちゃんの背中をなでてあげることしか出来なかった。