目覚め 2
うるさかった電子音が消えていって、もうダメなのかなと感じたんだけど、あれ、まだ息が出来る。
私、さっきまで三途の川の手前にいなかったかな?
運良く戻れたなら、あれは臨死体験ってことかな。
呼吸は浅いけどさっきより少し息がしやすい。
熱も下がってきてる気がする。
助かったのかなぁ私。そんなことを思いながら目を開けると目の前に烏がいた。
大きい烏と小さい烏が。
からす?
病室にはあまりにも異質な存在にはてなマークしか浮かんでこない。
よくよく見るとそれは烏じゃなくて真っ黒いマントと鳥みたいなマスクをかぶった人間だった。
なにこれ、新しい防護服?
もしかして家族が会いに来てくれたのかな。そこまで回復してきた?私。
たくさんのはてなマークが飛び続け、頭はうまく回らないし、私は死にかけてるし、あり得ないものが目の前にいるし、何だかフフフっと笑ってしまった。
ベッドの脇にしゃがみこんでいる小さい烏の目が、あまりにも心配そうに私を見てくるから、思わず手を伸ばして頭をなでてしまった。
『……じょう…ぶ、だ……じょうぶ……』
人工呼吸器をいれられそうになってたときに較べたら段違いに回復してるよ。
完全に回復するにはまだ時間がかかるけどきっと大丈夫だから。
ゴホッゴホッと咳きこんでしまって手を口に当てた。
感染っちゃう感染させてしまう。
触ってしまってごめん、近づかない方がいいよ。
『そばに……こない……ほ……ぅ……いい……』
うまく伝わったかな。
大きい烏が小さい烏を私から引き離してくれる。
うん、大きいほうには伝わったみたい。
大きい烏二人が私のほうを見ながらぼそぼそと話してる。
『どうなんだ?助かるのか?』
『…正直昨日まで方が危なかった。魔力が漏れて切れかけていたが…』
『いたが?』
『魔力量は明らかに今日のほうが少ない。ほぼないに等しい。だが肉体的には今日のほうが持ち直している。こんなことはあり得ないし、こんな現象にはお目にかかったことがない』
『クラウディアは助かるの?!』
『アルブレヒト、まだわからない。さあ、君はもう魔力が足りなくなる。外に出てローブを脱ぐんだ』
『エリアス兄さま、僕はまだ平気です!』
小さい烏が必死に食い下がっていたけれど大きい烏の一人に連れ出されていく。
二人が完全に扉のむこうに消えてから残った大きい烏は私の方に近づいて、頭を外した。
『さて。試してみたいことがある』
その中から普通の人の顔が現れた。あ、やっぱりこれ防護服だ。
でも医療関係者でこんなに髪の毛を長くしてる人いる?背中くらいまで伸びてるよ?しかも茶髪?!絶対ダメでしょ!ありえないでしょ!
むむ、と顔をしかめている間に黒いローブも脱いで、私の首筋に手を当てる。
『ローブを脱いでも魔力の移動がない……。脈も触れている……。魔力が全くない状態で、なぜ君は生きている?』
なにを言っているんだろ。
魔力とかってどんな医療用語デスカ。
私が隔離室に入っている間に出来た隠語ですか。
ああ、でも首や額に置かれている手のひらが冷たくて気持ちいい。しばらく人とじかにふれあうことがなかったけど、人の体温って気持ちいいんだな。
あの子の少し高い体温と違って……
そういえばあの子、どうしたかな。
隣にいるんだよな……
そんなことを思いながら、私の意識はまた落ちていった。