裏・クエスト
『それではまた来週〜。お相手は私、辰巳唯でした』
まただ……。また俺のリクエスト曲はかけてもらえなかった。
これで45週連続ボツだ。
死にたい……。
いつも聞いてるラジオ番組『辰巳唯のBLナイト』……。パーソナリティーの辰巳さんが大好きなのは勿論、俺は辰巳さんのストーカーにもなれる位愛してるが故に毎週欠かさず聴いているのだが、彼女は俺のこの愛を解ってくれない。
俺の愛を1万4千文字綴ったメールが読まれないのは仕方がない。正直自分でもやりすぎだと思っている。
しかし、リクエスト曲を頑なにかけてくれないのはなぜだ!? 決して公序良俗に反するような曲をかけるようお願いしているわけではない。普通のヒット曲だ。他の奴に代表されて俺は『他』にされてその曲がかけられても諦めがつくところ、俺がリクエストしたその曲がかけられたこと自体が一度もないのだ。
なぜだ。
なぜだ。
なぜだなぜだなぜだ!
「ねえ、下根君」
「なんだよ幼馴染みの辰子。人がモノローグに浸ってる時に」
「あなたはリクエストの意味を間違えているわ」
「どういうことだよ? じゃあリクエストって何だっていうんだ?」
「リクエストとは……漢字で書くと『裏クエスト』……裏のクエストなの」
「漢字があったのかよ!」
「そうよ。クエストとは探求。リクエストとはつまり、裏を探求するということなの」
「裏を!? どういうことだよ!?」
辰子の話を聞き、俺は目からウロコがぼろぼろと落ちた。
そうか。そうだったのか。道理で俺のリクエストがいつまで経っても採用されなかったわけだ。
探求……。探求! 俺はひたすら探求を続けた。
そして遂に、わかったんだ!
「わかったよ、辰子!」
「わかったのね? 下根君!」
「ああ……。まずはスマートフォンの電源ボタンを3回、軽く押すんだ」
「ふんふん」
「奇数回押したに関わらず、待ち受け画面になる」
「不思議!」
「ここで音量ボタンを連打!」
「すると──?」
「見ろ! 画面に謎のリクエスト送信フォームが現れる!」
「凄い! 凄いよ!」
「この送信フォームからリクエストを送れば……」
『それでは曲に行きましょう。東京都のシモネタ王子さんからのリクエストで──』
かかった!
俺のリクエストを辰巳さんが叶えてくれた!
「よかったね! 下根君!」
ありがとう、辰子……。
この曲は辰巳さんに捧げる俺の最後の気持ちだ。
俺は辰子、おまえと結婚する!
「しねーよ」
深い……!
かくして俺の人生の探求は続いていくのだ。