第九夜 夢で
「おはよう」
夢で久しぶりにさやひーに出会った。
「あの話どうする? どんなぬいぐるみが良いかな」
さやひーはこたつに向かって体育座りをしていた。顔は膝にうずくまれていた。その姿はまるで昔の自分を見ているようだった。
「クマちゃんとかどう?」
手元にクマのぬいぐるみを持ち、見せた。ここは夢であって、脳内世界である。想像したものは簡単に手元に出せる。
「うさちゃんが良いかな?」
うさぎのぬいぐるみを見せた。しかし、何も反応がない。
ポツリと声が響く。
「私さ……。あの時はずっと一緒に居たいって言ったけど、私が生まれたのはさやを守るためであって、さやから出ても良いのかなと思って。確かに夢で会える機会は減ったけど、いつかは、こうしてたまに会えるし」
うずくめていた顔を起こすも目を合わせず、ぼそぼそと話すさやひー。
そうだよね。さやひーが私の中で生まれたのは私を助けるためで、私から出てしまったら私を助けてくれる者は私の中に居なくなる。次、私が再び落ち込んでしまったらどうなるのだろうか。
でも、ぬいぐるみとしてさやひーが出てくれれば私はさやひーとずっと話せて、ずっと一緒に居ることができる。前者は緊急事態に駆けつけるさやひーだが、後者は常時サポートしてもらい、心を安定させてくれるさやひーなのではないか。
「私、さやひーがぬいぐるみになって、ずっと一緒に話すことができるようになったら、きっとすごく楽しいし、私が言うのも変だけど、ずっと私を助けることができるんじゃないかな」
少しの間。
「は、ほんとだ」
私の思いが伝わったと思った。
「でしょ」
さやひーと目が合う。
少し茶色い瞳が綺麗だった。
「じゃあ」
私の持っていたクマのぬいぐるみをさやひーが指さす。
「クマちゃんが良いな」
笑顔で
「わかった」
と私は大きくうなずいた。
「先輩!」
「吉野さんおはよ~」
「おはようございます」
先輩は、パタンと呼んでいた本を閉じてあいさつをした。
「どうやら、決まったみたいだね」
「はい、このクマちゃんのぬいぐるみに決まりました」
「そっか。良いと思うよ」
先輩は読んでいた本を閉じた。
スペースを作るために、机を動かし始めた先輩。私も先輩を手伝う。
「二人で話し合ったのかな?」
先輩が突然問いかけた。
「はい……? どうして」
「ふふ、まじないをかけといたのだよ、二人が夢で会えますように、と」
「先輩まじないもできるんですか!?」
「お、図星かな? ふふ、たまたまだよ~」
先輩と一緒に机を動かしていくと教室の真ん中に十分なスペースができた。
「よし、じゃあ始めよっか」
「はい!」
明日、最終話あげます。