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あなたと私の不思議なこうかん日記  作者: なおぽん
第二章 ふたつの旅支度
8/10

第八夜 これからの選択肢

「ふむふむということは」

 先輩は腕を組みながら首を小さくうなずかせた。

 私たちは、そんな先輩を前にして二人で手をつなぎながら椅子に座っていた。

「ここに居るのは君が苦しかった時に助けてくれた……言わば救世主というわけか」

 なぜか白衣を着ている先輩。まるで女医のようにもう一人の彼女、さやひーをまじまじと見ていた。

 どこから持ってきたのだろうか、その白衣は。

「今は見えてるけど魔法が解けたら見えなくなるのよね。きっと」

「見えなくなるんですかね」

 見えなくなるという言葉に体が反応し、彼女を握る手が少し強くなった。

「たぶん。この教室にいる間は大丈夫そうだけど」

 先輩は四隅をチラッと見た。そこには小さな置物があった。

「あれは」

「ここの魔法が解けないようにしてくれる置物。まあ、それは良いんだ。この後二人はどうしたいか、だ」

「どうしたいか?」

 さやひーが答えた。

「選択肢としては二つある」

 その後、先輩の口から話された選択肢は、いち、さやひーとはこの場限りで「ばいばい」して、元通り私の体に戻る。しかし、夢についての話から推測するに、さやひーはさやひーを必要としている時が来なければ、もう出てきてくれないだろう、と先輩は話した。に、別の個体(人形)にさやひーを移し、人のようにしてしまう。これは、どうやら魔導書にやり方が書いていたらしい。こちらも、欠点があって人形を等身大の物にすることでまるで人のようにふるまうことができるが、戸籍がない以上、社会で暮らしていくのは難しいだろう。そして、顔についても全く同じものにしてしまったら、それは不気味で、同じ場所には住めないだろうという話だった。つまり、離れ離れになってしまう、と先輩は話した。

「なるほど」

「うん」

 私はさやひーの思いを聞きたいと思った。

「さやひーはどうしたい?」

「私は……」

 とても悩んでいるようだった。

「私はね」

「まって吉野さん」

 先輩の声に口が閉じる。

「さやひーはあなたの思いから生まれた。もし、さやひー自身の思いを聞きたいならあなたは何も言っちゃダメ」

「そうですね」

 さやひーの手にぎゅっと力が入る。

「私は……」

 言葉に詰まっているようだった。私はつい言葉が出てきてしまいそうになる口をぎゅっと抑える。さやひーの願いを聞けるチャンスなのだ。我慢しよう。

「私は……先輩の言う通り、さやの思いを尊重したい。でも、私の思いもいいなら。私はさやとずっと一緒にいたい。ずっと話していたい、それ以上は望まないから」

「さやひー! 私も一緒にいたいと思ってた!」

 「ありがとう」と私たちは見つめ合う。

「そっか、それなら……二番が良いかな」

 私たちは先輩の言葉に軽く相槌を打った。

「でもちょっと工夫しようか」

「工夫?」

「そうそう人形って言っても小さめの物にするのが良いんじゃないかな? そうすれば持ち歩けてずっと一緒にいれるんじゃないかなと思って」

「確かに! さやひーはどう?」

「うん、ありかもね」

 握っていた手を離し少し考えたさやひー。

「じゃあ、吉野さん、彼女が移りたい人形を今度持ってきて欲しい。そして……あ、もう時間も時間だ。今日はお開きにしよう。悲しいだろうけど、今日は2人、お別れだね」

 さやひーが手を握り返してきた。

 私も手をきゅっと握った。

「じゃあ、また会おうね」

「うん」

 私たちは見つめ合った。

「泣けるね」

 先輩が泣き出した。

 

 先輩が魔法陣に向かって指を指す。

「ここから外に出たら、彼女はフッと消えちゃうよ」

「分かりました。ありがとうございます」

 魔法陣の上に立った。

 まだ教室の中にいるさやひーを前にして出会った時と同じように抱き合おうとした。

「えっ」

 さやひーの方から抱きつかれた。

「私も寂しかったんだ。最近、会えなくなってたから」

 驚きながらも、さやひーがそうしたように腕を彼女の背中に回す。

 ぎゅっとさやひーに密着した。

 体温が感じられた。

 息遣いが感じられた。

 鼓動を感じられた。

 さやひーはそこに居た。


 今までありがとう。そして、これからもよろしくね。


 手を離し私は教室から出た。さやひーはまるで最初から、そこにはいなかったかのように、音もなく消えていった。

 最後に私から離れた手が寂しそうにこちらへ伸ばされていた。


 先輩は魔法陣を書いた紙を拾うと机に置いた。四隅に置いていた置物も拾い上げて、机に置いた。気づくと先輩は白衣から私服になっていた。

「先輩、今日はありがとうございました」

「うん、まさかこんなことになるとは思わなかったけどねー。へへ」

 コトンと置物を置く音が教室に響く。

「上手くいけば良いけど」

「そうですね」

「さ、もう教室から出ないと怒られちゃうよー」

「はい!」

 机を元に戻しながら、さやひーの口から発せられた寂しいという言葉を思い出した。

 やっぱ私に似ているな。

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