第七夜 夢について
ここに来てから眠っている時に、やたらと夢を見るようになった。内容はほとんど覚えていない。でも、確実に分かるのは、その夢にさやひーがいないということだ。この夢は、まるで私からさやひーを忘れさせようとしているようだった。
一年も一緒に居たさやひーは私の一部を超え、一人の人として認識していたのだろう。そのため、さやひーに会えない今は少しさびしい。
心の支えを失ったように。
でも、私はあの時より強くなっていた。
再び自死の道を歩もうとは思わなかった。いや、思うことはあった。しかし、思ってもあの時みたいに、自死に惹かれる気持ちは浮かばなかった。
もう、さやひーには迷惑をかけたくないから。
***
放課後、私はサークル室に向かった。
「久しぶりだね」
お嬢様サークルの先輩が扉を開けるなり、声をかけてきた。
先輩の久しぶりという言葉に引っかかった。さやひーはサークルには顔を出していなかったのだろうか。
「久しぶりです」
「君とは……久しぶりということだよ」
君……。もしかして、先輩は私の身に起きていたことに気付たのか。
確かに、さやひーは私の一部とはいえ、性格は全然違ったし、外の世界で私と同じ交友関係を持っていれば、少しづつでもバレてしまう危険性があった。ついにバレてしまったのだろうか。
しかし、みやちゃんにはさやひーがドストライクでバレる気もなかったのは唯一の不思議だった。逆に今の私がみやちゃんに関係を持てば持つほど危ない気がする。
「それって……」
「っていうのは冗談で、この前はありがとうね。古本巡りに付き合ってくれて。その時に買った魔導書? に生物の真の姿を見せる魔法があって、ほら足元、紙に魔法陣書いてみたんだ。ちなみにさっきのセリフは私のオリジナル」
よかった。バレてはいないようだった。それより、お嬢様要素はどこにいったんだろう。
「魔導書とか好きなんですか?」
「そりゃもちろん、魔法かっこいいじゃん。そして、お嬢様とも切っても切れない縁があるんだよ。ささ、ここに座って、話そ……う?」
「……」
肩が少し重たくなった。ちょうど女性の手が肩にのった程度の重さだった。
呼吸をする声が耳元に聞こえる。
「あれ? うん? あ、おはよう。さや」
なつかしい声が聞こえた。
真っ白な世界でのみ聞いていた彼女の声だ。
声のする方に顔を向けると、所々透明なさやひーがいた。
「ふ、ふたり⁉ いる……?」
「お、おはよう。さやひー!」
先輩とは裏腹に、喜びに満ちた声が出てしまった。
「え、ふ、ふたりいるんだけど」
「さやひー最近どうしてたの?」
「ずっと君の中に居たよ」
「居てくれたんだね」
顔が熱くなってきた。
「会えて嬉しい。あのね、私、さやひーがしていたみたいに夢で会える。そうなのかなって思っていたのに、会えなくて……私、寂しかった」
「ごめんね、さや。私がそんなことを思わせていたらダメだね」
「そんなことないよ」
涙が溢れた。たったの数日ぶりだというのに。心の寂しさは大きかった。でも、嬉しさはその数倍大きかった。
「ど、どういうこと?」
さやひーは私の心の支えになっていた。今ここに居るのもさやひーのおかげ。
だから、そんなこと言わないで。
「さやひーは私の支え、だから、だから、そんなこと言わないで」
溢れる感情で声がはっきり出ない。
「分かった」
暖かさに体が包まれる。
もう、離したくない。
「え、だから、どうなってるの!」