第五夜 真っ白な空間で
新しい章の話です。
約一年、久しぶりに戻った家は、なつかしさを覚えるのと同時に不思議と安心できた。
***
ここに来て七日が経った。
飽きることもなく私は七日間、用意された布団の上でゴロゴロし、ほとんどの日を睡眠に費やした。気分のいい日には横になるだけではなく、積まれた本に目を通し、一日に最低は一回ここに来てくれる陽のさやと話していた。
陽のさやと呼ぶのも何かパッとしないのでこれからは、日の光のように温かい存在と言うことでさやと日を混ぜたさやひーと呼ぶことにしよう。そのさやひーと話す時間はとても楽しく一日の一番の楽しみになっていた、しかしさやひーがここに来られるのはオモテの吉野さやが寝ている時だけであって、それは日中に来ることはあまりなく、だいたいが夜に来ることを意味している、そのセイか昼夜の逆転した生活が当然のようになっていた。まあ、ここでは真っ白な世界が広がり、一日の変化が無いため、そんなことは気にならなくなっていた。
時計が一時を回ったころさやひーは現れた。「っ」「あ、起こしちゃった?」「うんうん、大丈夫睡眠はいっぱい取ったから」「そっか」「ね、少し話さない?」「いいよ」。
布団から起き上がり、もう一人の私に向かい合うように座る。少し話さないと言った手前、話のきっかけを宙に探す。でも、真っ白な空間だけのここでは、きっかけになるものなどあまりなかった。そして、探している間にさやひーの口が開いた。
「今日は何していたの?」
私は。
「いつも通りベッドでゴロゴロしていたよ」
「そっか」
軽くついた息とともにそう言い、少し寂しそうな顔をさやひーは見せた。
「私は大学で勉強してサークル行って、通販ポチポチして……今日は寝たかな」
「そっか、大学は楽しい?」
「う~ん、まあまあかな。でもサークルの先輩は面白いかも」
「あ、先輩、面白いよね」
楽しそうに相槌を打つさやひー。
「お嬢様サークルについては今だに何なのか、しっかりと理解できてないけど」
その言葉に「あは」と笑った。私も入った時は今のさやひーと同じで、サークルについて何なのか考えていたことを思い出した。
でも。
「そのうち何となくわかるよ」
それは今の私にも言えることなのだろう。どうして生きているのか、そのうち何となくわかるよ、と。
そっぽを一点に見つめていたさやひーは私の言葉でこちらに向いた。
「そっか」
さやひーの「そっか」の「か」の母音が「ぁー」と間延びした。
「眠くなってきちゃった」
「あ、ごめんね。寝よっか」
「うん」
疲れていたであろうさやひーにお話に付き合ってくれたことにお礼を言いつつ、さやひーの布団を敷いた。
私のすぐ隣につけた。
いつも布団に入り向き合って眠っていた。
「おやすみ」
「おやすみ」
あぁ今日も幸せだ。
***
数日前からテレビが壊れていた。
今日さやひーに合ったら報告しておこうと思っては何日も報告し忘れていた。ただただ忘れていただけかもしれないが、疲れているさやひーにそれ以上、何かをさせるのは気が引けた。
「さやひー、こっちに来ても休めてるのかな」
その日、さやひーがこちらに来ても話す時間が作れなかった。それは、さやひーが来た途端に眠ってしまったからだ。
朝。珍しく早い時間に起きると、見覚えのある日記が机にあった。
○〈昨日はすぐ眠っちゃってごめんね。そろそろテストがあって勉強していたら寝落ちしちゃって、何か話しておきたいこととかあった?〉
ノートを開くと交換日記だった。
ここに来て一ヵ月経っていた。でも、あの数日の交換日記の生活は記憶に新しく、胸が高まる自分がいた。
○〈おはよう。あ、いやこれを見る時はこんばんは、か。伝えたいことは、テレビが少し前から壊れていて、直し方知っていたら教えて欲しいな〉
○〈こんばんは、とおはよう。あ、ほんとだ壊れてた。直しておいたから、明日テレビつけてみて〉
○〈おはよう。直ってたよ、疲れてる中ありがとう〉
○〈もしかして、私が疲れているからって言うの遠慮した? 全然言ってくれて大丈夫だったよ〉
○〈少し遠慮してたかも。ありがとう〉
第四話のあとがきで続きを見たいと意気込んだものの、なかなか書けなかった! この先もまだ書けてないのでぼちぼち書いていきます。