第一夜 私の身に起きていること
時々編集しております(編集をし始めると新しい話が出る予兆だったりします)
私は私の“本当の”お父さんを知らない。
この“本当の”というのは、私の生みの親という意味で、精子と卵子だったら精子の方、つまり、わたしの体に流れる血はその方の遺伝子を汲み取っていて、筋肉もその方の遺伝子、次の子を産み育てるかもしれない子宮もその方の遺伝子、今動かしている目も、手も、舌も、舌を覆っている唾液も、全てその方の遺伝子が半分入っている。そう、そしてその方と言っている人は、わたしにとって顔も名前も声質も知らないアンノウンさんなのである。それはとっても不気味なことではないのだろうか。
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「さっちゃん、今日はサークル?」「そうだけど」「私も参加して良いかな」「来る? 全然大丈夫だよ」「十八時だっけ?」「うん」と朝の大学へ行くバスを降りて教室に向かう途中、友達とそんな会話をしていたことを思い出す。来るのかと思いスマホを開くと、もう十八時を過ぎていて、友達は部屋の前に居ると連絡。あら、そうなのかとスマホをしまい歩き出した。
サークルがある部屋の前に近づくと中の声が少しづつ聞こえてきた。「ご出身はどこでございますの」「千葉で……ございますわ」「あら、そうなのですね。わたくしは福島でございますわ。珍しいですわね千葉は、この部にも一人おられますが貴方とその方ぐらいでしょうか、あまりこの大学では見たことがないですわ」「へへ」「あら、来ましたわね。遅かったですわね」扉を開くといつも通りの先輩と心なしか助けを求めているような友達が二人でお話をしていた。私は先輩に向かってスカートを両手で少し上げ挨拶をし、遅れた理由について話した。「少し講義が長引きましてね。遅れてしまいましたわ」そう言うと友達は救いがないような顔になり少しうつむく。「この方は私の友達でございまして、今日初めて来られたと思うのですが、この部活のことはもうご説明になりましたか」「あら、そうでしたわ、ここにはあなた以外来ないものですから、つい興奮してしまい説明がおろそかになっていましたわ」。その言葉とともに先輩は私の友達の方に体を向け、このサークルについて話し始めた。「この集まりはお嬢様部と言ってですね、名前の通りお嬢様っぽいことをしていますの、例えばこのようにお嬢様言葉で話をするとかですわね。あ、部といっても人が少ないのでフォーマルではサークルですわね」「はぁ」。少々圧倒されている友達にフォローを入れる。「まあ、難しいことは考えなくていいよ。あ、考えなくていいでございますよ」「そうでございますよ、さっさっ、難しいことは考えずに、一緒にお嬢様について探求していきましょう」
その後はまあ、いつも通りサークルは続き、最後に「ごきげんよう」と云って終わった。友達はまあまあ疲れていて、大丈夫って訊くと「ちょっと疲れた」と返事。普段私と二人だから先輩テンション上がっていたんだよって言うと、「うん」と返事。でもどうして急にサークルに来たいだなんて言ったんだろう。それについて彼女と一緒に帰っている間に尋ねたが、うやむやにされて結局何もわからないまま家に着いてしまった。
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三日前から少し不思議なことが起こっていた。
最近の私は家に帰ろうと玄関を開けた瞬間からの記憶がすっかりないのであった。玄関を開けて、まばたきをすると次の朝になっていて、机の上には一冊のノートがある。そのノートにはこの記憶のない夜のことがきっちりと書いてあって、そりゃあ不気味だなぁと思いながらも、毎朝楽しみに確認している私もいた。
○〈私は夜ご飯に昨日作ったカレーを食べました。その後は好きな音楽を聴きながら積んでいたゲームを消費しました。あ、進めたゲームのストーリー書いとかなくちゃですね。主人公のつゆは長い冒険の末、ついに妹を見つけました。見つけた後はその妹と冒険をともにするのですが、その妹は様子がおかしいようで……というところで眠くなったのでセーブしました。この先はこの彼女は本当に妹なのかという謎を解明するパートに入りそうです。では、おやすみ〉