34.
「王女殿下、いかがなさいました?」
はっと我に返ると、心配顔の令嬢が目の前にいた。
どうやら考え込んでしまっていたようだ。
それでも持ち上げていたティーカップを落とさなかったのは、厳しい令嬢教育の賜物だろう。
意識してほほえみながら、何でもないと返事をすると周りの空気が緩んだような気がした。
何の話をしていたのか全くわからないので、素知らぬ顔をして一口マドレーヌかじった。
ほわほわとした甘みと食感を堪能しながら周囲の話に聞き耳を立てる。
そう、今は私の数少ない社交の場、お茶会の最中なのだ。
数少ない城外への外出、それも女たちの戦場と言われるお茶会でぼうっとしていたのが侍女たちにバレたらあとで叱られるのは想像に固くない。
どうやらここでもまた、恋バナに花を咲かせているようだ。
だが、以前の令嬢たちと少し違う気がするのは気のせいだろうか。
「ディオル子爵領の鉱山、最近新しい鉱脈が発見されたようですよ」
「まあ、確か子爵の御子息はお二人いらっしゃいましたよね」
「ええ。ですが、長男はすでに婚姻されています。確か次男が仲の良い男爵令嬢と婚約していたはずですわ」
「婚約でしたら、アリですわね」
「少し鉱山が隣の領地に近くありませんか? それに大きさも小さいようですし」
「おっしゃるとおりですね。伯爵家からでは流石に難しいですね」
「同じ子爵家の方なら良縁ですね」
お茶を楽しむフリをして、斜め後ろのテーブルの会話に耳をそばだてた結果がこれである。
さすが高位貴族の令嬢ばかりというべきであろうか。恋バナと言えども見目や個人の性格の話は余り出ていない。聞こえるのはどこの派閥なのか、事業はうまく行っているのか、当主の直系なのか、そういったことばかりである。
(世知辛いというべきか、さすがというべきか)
まだ十代半ばの令嬢たちが美味しいお菓子とお茶を頂きながら、キャッキャウフフと話す内容ではないと思う。
(でもきっと、婚姻は彼女たちにとっては大事な仕事で、今後の自分と家を左右する大事な決断なのだろう。そこに彼女たち個人の好みや幸せはあるのだろうか)
「私、先日アリュシオン様をお見かけしましたのよ」
他のテーブルからはそんな声が聞こえてきた。
こちらは純粋に見た目の話をしているのだろう、羨ましいという声も聞こえてくる。
純粋に恋バナをしているようで少し嬉しくなる。
十歳前後の子たちだから、婚姻に関してはまだ遠い未来のことなのだろう。
遠いとは言っても、この国の女性の適齢期は十代後半で二十歳までには婚姻を結ぶ、もしくは婚約をするのが望ましいとされている。
幼い頃から婚約者がいる場合もあるのだが、大抵は十五歳前後で婚約、二十歳までに結婚という形を取ることが多い。
実際は幼い頃から決まった相手がいることが多いのだが、婚約という形を取るのは案外、ギリギリなのである。
より良い家と縁を繋ぐためなのだろうが、少し紅茶が渋くなったような気がした。
・・・・・・・
「姫様、本日のお茶会は少し、お疲れでしたか」
ブラシを持つマリーにニコリと微笑まれる。
ここでなんでもない、と返すとお説教コースなのは間違いないので、少しとだけ返した。
あとは憂い顔でいれば深くは訪ねて来ないはず。
「何か至らぬことなどおありでしたか」
予想は大いに外れ、いつもは空気を読んでくれる優秀な侍女は、迫力の漲る笑顔で迫ってきたのだった。




