31.
「趣味ですか……」
お見合いか!
かつての世界で結婚のために会う際の定番の質問だったはずだ。
それは置いておいて。
ほぼ王城から出たことのない、私の趣味とは何だろう。
刺繍はよく挿すけれど、花嫁修業というか、貴族の淑女教育の一環だし、決して好きというわけではない。
お茶は好きだけれど、生活の一部であるし、お茶会だって社交が多いため、仕事という意識のほうが強い。
ダンスもするし、ヴァイオリンやピアノは弾くけれど、それだって貴族教育の一環だ。
え、私って趣味のない面白みのない人間なの?
どう答えようかと悩み、ふと目を上げると、目の前には絶望に染まったラクテス男爵令嬢の顔が見えた。
「も、申し訳ありません! プライベートに立ち入ったことをお聞きいたしました。どうぞ、お忘れください」
涙目で懇願する、ラクテス男爵令嬢。
考え込んでいたせいで、不自然な間が空いてしまったのを、答えたくないと判断してしまったようだ。
私の機嫌を損ねたと思ったのだろう。
「大丈夫です、ラクテス男爵令嬢。その、少し考え込んでしまっただけなのです。正直に言いますと、私、趣味らしい趣味が思いつかなくて…… あの、皆様の趣味を伺っても良いですか」
明らかにホッとしているラクテス男爵令嬢。
「あの、私の趣味は喫茶店巡りです。季節毎に変わる、スイーツの中でお気に入りを探すのが好きなのです。その、家にはパティシエがおりませんので…… でも、いろんな方の色々な味を楽しむことができるので楽しいです」
「まあ、それは楽しそう。自分で発見する楽しみがあるのですね。私も甘いものは好きです。ぜひ今度お勧めを教えてほしいわ」
右隣に座る、栗色の髪の子爵令嬢がすかさず答えてくれた。本当にありがとう。
「私は刺繍です。刺繍をしていると無心になれるので、好きなんです。それに何日もかけて完成させた刺繍にはとても達成感があります。今日のハンカチは最近一番の自信作なんです」
そうしてラクテス男爵令嬢が見せてくれたハンカチは、確かに自信作と言えるほどの、素晴らしい出来だった。
赤い薔薇を中心とした色とりどりの花による、花束は絵に書いたような緻密さで、課題以上には刺繍をしない私にもどれだけ難しかったのか分かるほどのものだった。
他にも、本が好き、お茶が好きという令嬢や、なんと騎士と打ち合うことが好きという令嬢までいた。流石に騎士と打ち合うというのは褒められた事ではないので、こっそりと、他の方には秘密にしてくださいねという約束付きで教えてもらった。
それからは意外と同年代で盛り上がった。
どこそこの侯爵子爵がかっこいいとか、いつかあの眉目秀麗な伯爵子息とダンスを踊ってみたいとか、女の子の憧れと夢をぎゅっと凝縮させたような話で盛り上がった。
私は専ら聞く専門だったけれど、兄様方にもそれぞれファンがいると教えてもらった。
上位貴族は王子妃を狙っているようだったが、ここにいるのは下級貴族ばかりなので、アイドルについて話しているような、そんな雰囲気だった。
兄様たちのプライベートについても少しだけ聞かれたけれど、とても喜んでもらえたと思う。
まずい話はきっとしていないはずだ。一応妹として、王族の一員として、イメージアップに努めていた、はずだ。
前半のたどたどしい会話はどこかへ飛んでいき、後半はとてもとても楽しかった。あっという間に時間が過ぎ、もっと話したい、と思うようになった。
きっとまた、このテーブルの皆でお茶会をしましょうね、と言うととても喜んでもらえ、日にち未定のお茶会の約束を取り付けた。
誰も私を誘ってはくれなかったが、下級貴族の令嬢からはとてもじゃないが、王女を誘えないのかと後で気づいた。
私が言い出さなければ、今後、彼女たちと会う機会も親しく話す機会もないのかもしれないと思うと、あのときぽろりと本音が出た自分を褒め称えたかった。
・・・・・・・
今日は明日に控えた、彼女たちとのお茶会の準備中だ。
そう、初めてのお茶会で仲良くなったあの子達とだ。
今回は初めてのお茶会であるし、堅苦しいものにしたくはないので、前回同じテーブルについた五名のみを招待してある。
東の東屋で、一卓だけの小さなお茶会だ。
小さいお茶会だけれど、初めての主催なので少々緊張しているが、侍女たちには練習です、と言い切られてしまった。
基本的には王城でのお茶会は皇后や王妃の名で行われる。未婚の者たちのみの場では第一王女の名で行われるそうだが、段々と手伝いはしていかなくてはならないし、名前は第一王女の名でも、私が準備を担当することも将来的には出てくるらしい。
それに嫁いたあとは女主人として主催する側になるのは確実らしく、お茶会の取り回しについて学ぶのは必須のようだ。
とは言っても、今回は本当に小規模なものだし、初めてなので基本的には侍女が準備はすべてやってくれる。
むしろ私に確認の取り方やお茶やお菓子の選び方を教えれくれたりしている分、手間はかかっているだろう。
喜んでくれるかな、楽しいお茶会になるといいなと選ぶのはとても楽しかった。
王城で王女の名で開かれるものではあるが、来るのは下級貴族の令嬢たちである。
おもてなしの心は大事だが最高級の物で揃えるのは諦める事になった。招待される側に合わせなければならないそうだ。
汚してはならない、と気にしすぎながらのお茶会は確かに楽しくないだろうし、楽しさを優先しよう。
さあ、明日は楽しいお茶会。うきうきわくわくしながらベッドに入る私を、微笑ましく見守る侍女の皆。
少し恥ずかしいけれど、楽しみなのは本当だし、うきうきわくわくを我慢するのも違うな、と思ったので良いのだ。
ああ、明日が楽しみ。今日は眠れるかなと思ったが、きっと一日中テンションが高かったので体は疲れていたのだろう。思ったよりも早く眠気がやってきた。
眠気に抗うことなく、ゆっくりと瞼を閉じる。早く、明日になりますように。楽しい一日に、なりますように。




