28.
「あそこの離島が売り出してあったろう。昔は観光地として栄えていたから、景色は良いだろう。そこに別荘を建てたらいいだろう」
「いえ、それよりも、バッカス地方の古城が良いのでは。とても素敵なのですよ」
「そんなかさばって、たまにしか使えないものより、毎日でも使える実用的な物がいいのではないでしょうか。先日、鉱山でアメジストの大きいものがでましたよね。それを加工させましょう」
ある、夕食での会話の一節である。本日の議題、というか話題は私の洗礼式を終えた祝いの品についてだ。
「そういえばアイリス、祝いの品は何がいいかい」
本日の夕食はとても和やかだったはずだが、父様のこの一言で様相は一変、会議の体をなしている。
予定外の事態が多く続き、のびのびになっていたが、どうやら祝っていただけるらしい。
それにしても、規模がおかしい。
洗礼式があり通常の誕生日より多少特別にしても明らかに規模がおかしい。
これまでも誕生日プレゼントはもらってきたが、当日に父様の名前で部屋に届くのみ、それと会えれば祝いの言葉とケーキくらいのものだった。
洗礼式を終えた今、家族の晩餐に参加する資格を得たからといってこの変わりようはないだろう。
だって、昨年の誕生日は筆記用具一式だったのだ。もちろん超のつく高級品であるのだろうが。
これまでは父様と母様からの誕生日プレゼントはあれど、それ以外の家族からは特に何もなかったのだ。
それが、どうだろう。明らかに参加人数と規模がおかしい気がする。
洗礼式でのプレゼントは全力でするもの、という私の知らないしきたりでもあるのだろうか、ふと母様と三兄を見ると、明らかに引いていた。
やはり、離島や城は王族といえど、洗礼式後のプレゼントにする規模のものではなかったようだ。
――ああ、今日にここ第二王妃殿下がおられなくて良かった。
第二王妃とその子達は今日の夕食会には不参加だ。
実家の夜会に参加するためだ。父様は例え王妃の実家の夜会といえど、頻繁に参加するわけではないらしい。
第二王妃との仲も悪くはない。ただ、少し距離があるという感じは否めない。
実家が多少、野心あふれる方々なのである。
王妃になるだけあって、それぞれの実家も、隣国王家、公爵家と名だたる名家だが、皇后の実家が隣国王家で、実家の夜会にはめったに参加できない。
それなのに第二、第三王妃の夜会ばかり参加もできないそうだ。
第三王妃である母様も建前上は公爵家の息女だが、家格をあわせるための養子縁組を行った。
実際の母様は伯爵家の生まれで、結婚が決まるまでは伯爵家息女として育った。
隣国の王族として育った皇后とは、考え方も、育ち方も全く違う。
皇后は王族として、家族以外に傅かれて育ったが、貴族といえど伯爵家、中位貴族として育った母様は未だに上位貴族から礼を受けることに慣れないような育ち方をしたのだ。
考え方もお金の使い方に関しても相容れないことは多くあるだろう。
――でも、きっとこの件に関しては、母様の感覚が正しい、ような、気がする。
「あの、私、そんなに大きな物はいりません。管理できないです」
意を決してそう言うと、父様と皇后、ユリウスは顔を見合わせた。
「でしたら、やはり宝石ですね。早速、手配します」
「ユリウス兄様、宝石も結構です!ええと、私ではまだ、負けてしまいます」
すぐに部屋から出て行きそうなユリウスを、なんとか留めおくことに成功したようだ。
不本意そうではあるが、座り直してくれた。
「だがアイリス、私達はこれまで、あまりにお前に対して、色々なことができていない。償い、というわけではないが、これまでできなかった分もしてやりたいんだよ」
どうも認識に齟齬がある気がしてならない。
これまでの誕生日プレゼントになんの不満もないのだし、穏便にしてもらいたい。
というかそんな愛情は正直、重いし何より慣れない。
どうにかしてこの無茶苦茶な会話に穏便な終着点を見つけなくてはならない。
「あ、では、銀細工がほしいです!銀細工に小ぶりなアメジストがついているアクセサリーを一式、お願いできますか」
「アイリス、でも、それでは……」
「ユリウス!アイリスがそう望むのです。良いではありませんか。リコリス様もそれでいかがでしょう」
「え、ええ。ありがたいことですわ」
かさばらないし、特別なもので、丁度いいもの、という素晴らしいプレゼントをねだったつもりだったのに、部屋の空気は否定的だった。
やはり、城や離島に比べたら少額すぎるのがいけないのだろうか。
母様の顔もやはり少し強ばっているように見える。
それでも、私の気持ちを慮り、決定してくれた皇后には感謝しかない。
皇后は、いつも私の意図を汲んでくれる。本当にありがたい限りである。城を提案していた方とはとても思えない。
アクセサリーのデザインを決め、揃いの洋服を仕立てる事になり、楽しい夕食は終わった。
その日私は母様がなぜ無理をして笑っていたのか、それを尋ねるのを忘れてしまった。




