25.
思いの外夜会の準備に時間がかかってしまった。
入浴自体は朝したが、行事が多かったのと、嫌な汗を沢山流したので、軽く入浴することになった。
とは言っても髪を乾かしている暇はないので、本当に一瞬湯船に浸かっていただけだ。
急なことだったのに湯の用意をしていた侍女たちの優秀さには、驚くばかりだ。
軽くだが施していた化粧を落とし、肌のお手入れをする。
時間が無いため、侍女たちの行動がいつもよりキビキビしていてとても早い。
いつもはお話や優雅さを優先させていたのだな、と感じる。
それでも私に触れる際は細心の注意を払っているあたりが、さすが、プロ。王女付きの侍女たち、本当に有能だった。
予定外に予定外が重なり、さらに入浴という元々なかったスケジュールが追加されたにも関わらず、私にお茶の時間まで作ってくれた。
五分という短い時間だったが、それでも落ち着く効果はあったし、何より侍女たちの心遣いが本当に嬉しくて、緊張もほぐれていった。
・・・・・・・
元々、夜会の入場も父様と行う予定だったが、急遽ユリウス兄様に変更となったと伝えられたのは、入場する扉の前、入場の直前だった。
どんな話し合いがこの短い間にあったのかはわからないが、もう決定事項として伝えられたし、話し合う時間も無い。
ユリウス兄様のことは好きだし、急な変更ということ以外に不満も無いので、了承の意を伝え、扉が開くのを待つ。
「アイリス・フォン・ベルローズ王女殿下とユリウス・フォン・ベルローズ皇太子殿下のご入場です」
声とともに扉が開いた。私の初めての夜会という戦場の幕開けだった。
・・・・・・・
もう貼り付けた笑顔が顔にくっつきそうだ。
入場して三十分にも満たないだろうに、もう音を上げたくなってきた。
ひっきりなしに続く挨拶の波。はじめの方はまだ顔見知りもいたので、まだ気楽に挨拶も受けられたが、段々と見たことのある顔は減り、知らない人ばかりになっていた。
もちろん王族の教育の一環として、貴族名簿だけは叩き込んであるが、そこに顔は描かれていない。
顔と名前を一致する間も無いまま、挨拶は終わり、また次の者に移っていく。正直、もう訳がわからない。
その上、段々と嫌に目がギラついている者たちも見受けられ、ちょっと怖い。
反皇太子派とも言うのだろうか、現皇太子であるユリウス兄様が王になっては困る者たちなのだろうが、あからさまに皇太子を差し置いて、私に挨拶を述べる者もいてヒヤヒヤする。
そのたびにヒヤヒヤしながらユリウス兄様に話を持っていく私の身にもなってほしいものだ。
そんな失礼な態度をされても笑顔が崩れないユリウス兄様はさすがとしかい言いようがない。
例え数百年に一度と言われる祝福を受けた者とはいえ、皇太子である自分をないがしろにされたら、気分を害しても良さそうなものなのに、笑顔が崩れないどころが態度に余裕があるなんて、本当にすごい。
幸いなことに私をないがしろにする者は今のところいないので、なんとか笑顔を貼り付けてはいるが、少々引きつってきたような気もする。
隣りにいる完璧な対応をするユリウス兄様のおかげでなんとか笑顔を保っていられる。
初めての夜会で失敗をしないためにも、失言をして言質を取られないためにも気をはりすぎていたのが良くなかったのだろう。
今回は時間の制限もあるし、初対面の者ばかりなので、初回のご挨拶のみで込み入った話は一切無い。
その単調な会話にも飽きてしまったのだろう。
七歳の体には今日のスケジュールは厳しかったのか、段々と頭がボーッとしてきた。




