23.
正餐を終えると小休止をはさみ、国民へのお披露目がある。
こちらは貴族へではなく、平民へのお披露目となる。平民の中でも権力のあるものや、抽選で選ばれた者が特別に城内への立ち入りを許可され、直接王族を見ることのできる貴重な機会となっているらしい。
城内とはいっても、王城内への立ち入りはできず、中庭に集まり、隣接するバルコニーから王族が出てくるのを待つ、というものである。
特別なパレード等を除き、年に一度の王族への挨拶の際にも王族を見ることはできるが、ごく少数なうえ、一部の権力者や御用商人しか入ることは許されない。
平民が抽選で選ばれるというのはこの度初の試みらしく、いつもより警備も厳重だが、それ以上に熱気に包まれているらしい。
王族という価値がある上、数百年に一度のお告げを受けた者という付加価値にはとてつもない魅力があるようで、貴族の中にもなんとかして国民へのお披露目に参加したいという要望があったらしい。
本日行われる夜会は上位から中位の貴族しか招待されていないし、招待されていたとしても私と話したり、関係を繋いだりする時間はないだろう。
いくら洗礼式を終えたと言っても、私はまだ七歳。社交界でデビューすらしていないのだ。
本来なら、夜会の出席権はないのだが、今日は主役なので、いつもより夜会の開始時刻を一時間前倒しした上で、一時間のみの参加ということになったらしい。
「でも、その前に魔力のお披露目」
今日、一番緊張するのは魔力測定でも、国民へのお披露目でも、夜会への参加でもない。
本来は洗礼式の後、魔力測定を終え、祝いに来てくださった方々に御礼の意として魔力のお披露目というものがある。
これは持っている魔力を打ち出すだけなので、魔力測定を終えた者ならば誰でも、当たり前のようにできることらしい。
先週私が放ってしまった火球も魔力のお披露目の時に見せるようなものらしいが、規模が大きすぎた上、まだ魔力測定を終えていなかったため、環境の用意ができななかったことがよろしくなかったのである。
今回は室内で貴族にお披露目するのは危険、と判断されたので、国民へのお披露目の際に空に向かって火球を打ち出す予定になっている。
父様には「できれば、この間と同じくらいにしてほしい」と言われているが、あれ以来、魔力を使わないよう注意を払っていたし、あのときは無意識だったので魔力量の調節ができるかどうかは賭だ。
ドキドキしながらその時を待つ。
隣にいる父様が優しく手を握ってくれる。
反対の皇后陛下は優しく、笑んでくれた。
残念ながら母様は少し離れたところにいるが、権力闘争の火種にならないための対応だ。諦める他ない。
「大丈夫だよ。女神様も仰っただろう。アイリス、お前の思うがままにやりなさい。前と同じようにといってしまったが皇后に怒られてしまってね。まだ魔力訓練もしていない七歳の子になんてことを求めるんだ、と。それで反省したよ。洗礼式からまだ二週間、目覚めてからはまだ一週間だ。周りの変化に圧倒されているはずのお前に、大丈夫そうだからと無理を言った。悪かったね。どのような結果になっても大丈夫だ。お前は私の大事な娘で、私達の大事な家族だ」
皇后陛下の柔らかな手が、泣きそうな私の頬を包む。
「もう、国王陛下ったら。今、言ってしまうと泣いてしまうでしょう。せっかくの可愛いお顔なのに、泣き顔を晒させるおつもりですか。ああ、アイリス。泣かないで」
そう言って目に浮かぶ涙をハンカチでそっと拭ってくれた。
なんとか涙を飲み込んだ後、出番が来た。
父様と皇后陛下のおかげで緊張は取れた。少し目は赤いかもしれないが、遠目にはきっと見えないだろう。
それにしても目覚めて以降、皇后陛下はこれまでためらっていた甘やかしをしてくれているように思う。
これまでは優しく、娘のように接してくれていたものの、どこか一線を画していたように感じていたが、洗礼式後はその壁を感じない。
喜んでいいのか、ただの勘違いなのか。嬉しいには違いない。今はとりあえず、目の前の事に集中しよう。
父様のエスコートを受け、ゆっくりと光あふれるバルコニーに歩き出した。
・・・・・・・
急に光の中に出たので、眩しくて目が開けられない。
光に慣れてきて目を開けると、バルコニーに一段高い部分があることに気づいた。
父様がその一段高いところに私を連れて行く。
足元に気をつけながら上り、前を向くと視界を埋め尽くさんばかりの人がいて、一斉に歓声を上げた。
歓声に圧倒されそうになりながらも、背中を支えてくれる父様に勇気付けられなんとか背筋を伸ばす。
私を祝福しに来てくれた方々だ。精一杯の笑顔でありがとうを伝えよう。
ゆっくりと手を振ると、大きすぎると思っていた歓声は更に大きくなった。
嬉しくて作り笑いではない、心からの笑顔がこぼれた。
ふと横を見ると、家族にしかわからないほどだが、父様がイライラしているのが分かった。
理由がわからないので、驚いて皇后陛下の方を見ると、こちらは完璧な作り笑顔である。
でもその緊張は私に向けられたものではないので、不思議に思いながらも、笑顔を絶やさないよう頑張った。
歓声が一通り落ち着いた後は、今日一番の緊張の瞬間、魔力のお披露目だ。
直前になり、父様からは規模に対する要望の撤回を受けたが、私の脳裏には前回、火球を打ち出した際の侍女と女官の顔が映っている。
目の前の皆にもあの顔をされたらどうしようという思いもある。
でも、父様に苦言を呈してくれた皇后陛下を始め、変わらぬ愛を注いでくれた家族が私にはいる。
このお披露目で何があっても、きっと父様も母様も変わらないだろう。
緊張するし、正直怖い。でも、もうやるしかないのだ。
震える指に気づかませんよう。そして、この場に集まってくれて、祝福してくれてありがとう、そんな願いを込めて魔力を打ち出した。




