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二度目の異世界で祝福を  作者: 美紗
21/34

21.

 この世界における魔石は、とても高価で貴重なエネルギー源だ。


 加工さえきちんとすれば、そのあたりで取れる燃料より遥かに長持ちするし、サイズも小さい。出力も高エネルギーなものが多く、大量に燃料を消費するものにはうってつけのエネルギー源である。


 便利だが、中々手に入り辛いという難点もある。魔物からごく稀に採集できるもので、加工にも専門の知識と腕が必要になる。

 その中でも魔力測定用の魔石は、上位魔物――竜種などの幻に近い存在からしか採集できず、例え採集できたとしても、細かく砕かれ多くのエネルギー源として利用されている。

 魔力測定用の魔石は魔力測定にしか使えず、何かのエネルギー源となることはない。その上砕かず、採集時の球体のまま加工することが必要であり、加工方法も特殊だ。その加工方法も外部に流出することはない。


 つまり簡単に言うと、魔力測定用の魔石は今ではほぼ手に入らない、とてつもなく高価で希少なものである。


 さらさらと流れていく魔石だった金粉を眺めながら、以前本で読んだ文章が頭の中を駆け巡っていった。


 誰も何も反応せず、しばし空白の時間が流れる。

 嫌な汗が背中を伝っていくのがわかる。


「……え?」


 間の抜けた大神官の声と共に、ようやく時間が流れ始め、理解不能な事態に直面した立会人たちは静かに、けれどとても動揺していた。


「まさか、これほどの魔力とは……」


 父様の声がやけに広間に響いた。


 皆、どういう反応を取ればよいのか分からなかったのだろう。父様の言葉を理解するや否や広間は歓声に包まれた。


 どうやら悪い雰囲気ではないと、ほっと胸をなでおろす。

 一様に表情が明るく、興奮しているので、きっとお咎めはないだろう。


「大変に素晴らしいことです!魔力量が測定値を振り切ってしまったようです。本当に素晴らしい‼」


 大神官が詰め寄ってきた。神殿の魔力測定石を粉々にしてしまったのに、そのことは意にも介していないくらいの興奮で、気持ち悪い。


「本当に聖女に相応しいお方だ。女神様があなたを今世に遣わしたのでしょう」


 潤む目でそう言われた時、周りの温度が少し下がった。


「娘は城で暮らしますよ。それが娘の希望です」


 さっと私の前に手を出した父様の、堅い声が響く。

 隣には皇后陛下がいらしてくれた。反対側に立つ母様は抱くように私の肩に手を置いた。


「ですが、お告げを受けた方ですし、この魔力量……まさに聖女でしょう。聖女となれば神殿に籍を置くのが道理です。きっと女神様もそうお望みなのでしょう。素晴らしい!」


 大神官の眼前には父様がいて、父様と話しているはずなのに、まったく視線が私から離れない。

 瞬きすらしていない血走った眼で見続けられるのは、気持ちが悪いことこの上ない。


「女神は、アイリスの思うがままに生きよ。そうおっしゃいましたよ」


 緊迫した場に相応しくない、柔らかな声が響く。助けは意外と早く、そして近くから訪れた。

 安心させてくれる笑顔を見せながら、そう私に話しかけてくれたのは、長兄であり皇太子である、ユリウス兄さまだった。


「ユリウス兄さま……」


 この緊迫していた空気に耐えられなかった私に、兄さまの笑顔は沁みたようで、自然と目に涙が集まってくる。


「アイリスは、どうしたい?」


 そう優しく話しかけてくれる兄さまの声に、零れ落ちそうになる涙をぐっとこらえた。


「私は、私は、このまま城で、家族と共に暮らしていきたいです」


 小さい声でそう言うのがやっとで、それ以上の言葉を言うと涙も共に零れてしまいそうで、黙り込んでしまった。


「もちろん、神殿に籍を置いていただいても、いつでもご両親に会えますよ!大丈夫です。城と同じような生活をしていただいて構いませんし、予算も十分に取ります。何も不自由はさせません。今と変わらない暮らしができますよ!」


 大神官は、興奮を抑えきれず、そうまくしたてるが、そうではないのだ。

 生活環境もそうだが、私はまだ、城から離れたくない。いずれ結婚して城から離れなければならない身なのだ。結婚すれば気軽に城に出入りできなくなる。

 お告げという祝福を受けた今、おそらく国外に嫁ぐことはないが、万一国外に嫁いだ場合、二度と城に戻ってこれないことだってあるのだ。

 絶対に、今神殿に行きたくなどない。でも、そう言うこともできず、言葉に詰まる。


「聞こえなかったのですか?アイリスは城で暮らしたいと言いましたよ。それが女神の意思に沿う事なのではないですか」


 ユリウス兄さまが先程の優しい声とは全く違う、ひどく冷たい声で大神官に言う。

 先程私に向けてくれた笑顔と同じ顔であるはずなのに、その横顔がひどく乾いて見えた。


 私を守ろうとしてくれる、両親と皇后陛下、ユリウス兄さまの行動にひどく安堵し、愛されているという幸福感と喜びが身体を満たしていった。

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