2.
――カラーン、カラーン……
中央神殿に到着し正面入り口に立った瞬間、鐘が鳴り響いた。
少しだけ聞こえていたざわめきが、鐘の音と同時に引いていく。
私の鼓動はざわめきとは正反対にドコドコとうるさくなっていった。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ」
そう唱えるのに、心臓は少しも落ち着いてはくれなかった。
――カラーン、カラーン……
自分の歳と同じ数だけ鳴る鐘の音がひどく長く聞こえる。
たった七回しか鳴らないのに、三十分にも一時間にも思えた。
――カラーン、カラーン……
この日のために何日も、何時間も練習を重ねた。
慣れないヒールに四苦八苦しながらまっすぐにあるく練習、はじめは小鹿みたいにプルプル震えて立つのも一苦労だった。
裾の着くドレスを裁く練習、何度も裾を踏みつけて痣になった。
淑女の礼の練習ではドレスの持ち上げすぎで腱鞘炎になりかけた。
まだたった七年の人生だが、これまでの人生で一番頑張ったと断言できる。
――カラーン。
だから、大丈夫。
七回目の鐘が鳴り終わるのと同時に、女性神官たちの手により閉ざされていたドアが開いていく。
ドアが開き切ると、ゆっくりと前に進む。
震える身体を何とか動かし、立ち止まってゆっくりと、できるだけ優雅に淑女の礼をする。
淑女の礼の終わりは拍手を受けて、と教師に言われていたのだが、拍手がおこらない。
何か間違ってしまった! と焦るが思い当たることはない。
ついに足が震えだした。
(攣る。絶対に攣る! もうむり)
そう思いゆっくりと身体を起こし、前を向いた。
(父様! どうしたらいいの)
そう思い目が合った父を凝視すると、はっと思い出したかのように拍手を始めた。
拍手の波は段々と周囲に伝播してしていき、神殿のロビーは拍手に包まれた。
父様と母様に挟まれてロビー内をゆっくりと進んでいく。
笑顔を絶やさず、優雅に、なんて七歳児の身体にはとても無理難題である。
それでもなんとか洗礼を受ける礼拝堂の前までたどり着いた。
くるりと向きを変え、父様と母様に合わせて再度、淑女の礼を行う。
今度は両親に合わせればいいので、身体を起こすタイミングも完璧だ。
「とても、きれいだ」
礼拝堂への扉が閉まりきる直前、なんとか耳に届くくらいの、本当に小さな声が降ってきて、ひどく泣きそうになってしまった。