19.
話し合いがひと段落したので、父様は政務に戻っていった。
午後のお茶を母様と飲んでいると、皇后陛下の侍女が時間が取れたので、と先触れに来た。
昨日は寝てしまったいたし、政務の合間を縫って来ていただけるのは、申し訳ないがありがたい。
まぁ個人的な心配だけではないのでしょうけれど。
皇后陛下だって私の事をきっと心配してくれている。
でも、目覚めてから二日連続の訪問にはきっと別の意図もあるだろう。
そう、例えば私がお告げを受けた者であり、国の重要人物になったから、とか。
万一にも皇后陛下の息子であり、皇太子である長兄にケチをつけて欲しくはないのだろう。それ以上にできれば立場を確実なものにしたいという思いもあるのかもしれない。
私としても貴族間の対立に私たち家族が利用されるのも嫌だし、今のところ私たち家族の中で王位を狙っている者はいない、はずだ。
長兄は為政者としてとても優秀だと思うし、国民の人気も高い。
次兄は語学に堪能で、国外を一人で旅するのが夢らしい。王位継承権第二位のため、未だその夢は果たされていないが、諸周辺国とのやりとりを一手に任されている。
三兄は騎士として王立騎士団長を目指しているし、それ以下の兄弟となると歳が離れているので難しいだろう。
それでも、母親としては王太子の地盤を盤石にしたいのだろう、折々に皇后陛下からこっそりとお願いめいた事を言われるのは兄弟姉妹、皆慣れていた。
これまでは遠回しなお願いのみだったが今回からはそうはいかないだろう。
きっと私の発言力はこれまでの比ではない。
洗礼式も受けていない王女とは違い、洗礼式を受け王家の一員となった王女であるし、何よりも稀代のお告げを受けた者だ。どれだけの発言力があるのかはまだまだ定かではないが、重く受け止められた場合、王位継承権にまで絡む可能性だって捨てきれない。
これからはより一層、発言に気を付けなければ、と気を引き締めた。
・・・・・・・
結論から言うと、皇后陛下のお見舞いは大変にためになった。本当にありがたかった。
父様や母様、周りの者たちからは隠されていたことを教えていただけたのだ。
母様が実家に呼び出されて、しぶしぶ出て行った時は皇后陛下と二人ということに緊張したが、結果的にはとても助かった。
私の周りの者たちは私に気遣って、意図的に情報を伏せていたらしい。
お告げを受けた者が生まれた影響は凄まじく、王女でありながら王位継承権を持たせるべきと主張する者もいるし、時代の王を選ばせるべきだとか、聖女として神殿の最高権力を持たせるべきだとか、そういった主張をする輩がいるという事を教えてくださった。
先程、父様に注意されたとおり、神殿が私の身柄を預かろうとしていたらしい。
父様はさらっと忠告しただけだったが、皇后陛下はもっと詳しく教えてくださった。
神殿側は詳しい条件を付けて、私の身柄を預かろうとしていたらしい。
曰く、最高神官と同等の待遇を与える、とか。
曰く、通常時の住まいは中央神殿の中にあるが、いつでも王城に行くことは可能だ、とか。
曰く、本来は下級神官が身の回りの世話をするのだが、特例として数年間は侍女を連れてきてもよい、とか。
とにかくそういった事――神殿側にとっては最大限の譲歩、以上の待遇を約束すると申し出てきたらしい。
正直、引いた。
あのお高く留まっていた神殿がこうまで下手に出るものか、とも思ったが、一番の衝撃はこれが最初の交渉内容だった、という事だ。
王城側が何度も断った結果、最終的に、というのならまあ、納得できないこともないのかもしれないのだが、これが初手。つまり、これ以上のことを条件として、と言われる可能性もまだ高いのだ。
どうやって断ろうか悩んでしまう。
私が断り文句を考えようと、頭を抱えていたら、皇后陛下にとても優しく微笑まれた。
「あなたが、王城で暮らしたい、と直接言えば解決しますよ」
・・・・・・・
それからも皇后陛下は私の現状を細かに教えてくれた。
目の色を変えているのは神殿だけではないこと。
魔法訓練に励み、魔術師の称号を持つものと同等かそれ以上の火球を出したことにより、魔塔にも興味を持たれていること。
その他、縁談が国内外を問わず山積みなこと。もちろん贈り物の量も凄まじく、数部屋が贈り物に支配され、確認作業で大忙しなこと。
一目、私の姿を見ようと入城できる貴族たちが押し寄せていること。
そのため、今は居所も深く隠されているらしい。
魔力測定の後のお披露目までは私を隠し通す予定のようだ。
そうは言ってもその魔力測定の場すら決まっていないのに、大丈夫なのか、と思っていたのを皇后陛下はお見通しだったよう。
「国王陛下の魔力測定とお披露目の案に了承されたでしょう。あれで大丈夫ですよ」
またしても自分の発言力に驚くとともに、これからは色々と言質を取られないようにしなければならないと反省した。




