18.
「姫様、朝でございます」
筆頭侍女の声にゆっくりと瞼を押し上げる。
昨日はうだうだと悩んだ末に、寝落ちてしまったらしい。
夕飯も食べず、両親に就寝の挨拶をすることもなく眠ってしまったようだ。
まだ明るい時間の記憶しかないことだし、夕方にもなっていない時間から寝ていたのであろう。寝過ぎの頭がずきずきと痛む。
水分不足もあったのだろう。寝覚めのための、少しぬるい紅茶をゆっくりと飲み終わる頃には、頭痛も少しマシになっていた。
「本日もベッドの上で過ごしていただきますが、姫様のご体調がよろしければ軽く湯あみをし、お着換えいたしましょうね」
朝食の準備をしながら、筆頭侍女のマーサが今日の予定を告げていく。
「昨日は姫様が眠ってしまわれてから国王陛下と皇后陛下、第三王妃様がいらっしゃいましたよ」
眠ってしまってから皇后陛下もいらしてくださったらしい。
せっかく来てくださったのに眠っていて悪いことをしてしまった。
幸いなことに母達の関係性は今のところ良好だし、私自身も皇后陛下のことは大好きだ。
でもまさか昨日、目が覚めて、当日のうちに来てくださるとは思ってもみなかった。
国王陛下である父様同様、皇后陛下も大変に多忙でなかなか個人的にお話しする機会もないのだ。
「皇后陛下は姫様のお好きな花をお見舞いにくださいましたよ」
そう言われて花瓶を見ると少ないながらも存在感を見せる赤い大ぶりなリコリスと、通常の花束より割合の多いかすみ草が目に入った。
母様と同じ名を持つリコリスも、白くて可憐なかすみ草も私の大好きな花だ。
自室ではない貴賓室ではあるが、自分の好きな花があるだけで安らげる。
これは皇后陛下にしっかりとお礼を伝えなくては。
私の花を見る表情を見た侍女たちが、私が寝ていても見やすい位置にあるテーブルに、花瓶を移してくれた。
朝食は昨日と同じパンがゆ。ただし昨日よりしっかりと甘みがついているし、量も多い。
果物も量は少ないが添えられていて少しテンションが上がる。
食後のミルクティーまではちみつがたっぷり使われている贅沢仕様だ。
ほくほくしながら紅茶を飲み終え、横になりながら侍医の到着を待つ。
あんなに寝ていたのにまだ寝足りなかったのか、侍医が到着するころにはうとうとしてしまっていた。
・・・・・・・
診察の結果、体力と筋力が落ちている以外特に異状はないようなので、湯あみできることになった。
いつもより念入りに洗ってほしかったのが本音だが、体力的にそれは却下されてしまったのが悔しい。
それでも髪も肌もべたべたする気がしていたので湯あみできることは大変にうれしい。
この後は父様と母様がいらしてくださるらしい。
今後のこと――魔力測定や私の今後の役割等について話し合っていくらしい。
予定が合えば、皇后陛下も交えての話になるとのことで、少し緊張する。
・・・・・・・
「おはよう。少し顔色が良くなったな」
昼前に少し顔色の悪い父様が母様と共にやってきた。
両親が来る前に侍従が来て、四人がベッドサイドに座って話ができるよう、テーブルと椅子を移動させていったのに私はベッドに寝たままでいいらしい。
両親が座っているのに私だけ寝たままなのは何ともいたたまれないが、寝たままでと心配顔の両親に強く言われれば、拒否もできなかった。
昨日みたいに寝てしまわないように気を付けなければ。
・・・・・・・
話し合いはそう中身の濃いものではなかった。
まだ決まっていないことが多すぎて、何から手を付けていいのか分からない状態らしい。
何せ百五十年ぶりのお告げを受けた者で、かつての文献等もあまりない。
その上、細かいところは個人対応なのだから、この混乱具合は当然といったところか。
それでも、私自身が王女であることによって貴族間での諍いがない分マシだと父様が零していた。
目下の課題は魔力測定についてらしい。
個人的にはもうこの場でちゃちゃっとやってほしいくらいなのだが、神殿が横やりを入れたそうだ。
本来は洗礼式の後、神殿にて行う事であるから神殿で行う事が正しいと言ってきたらしい。
王城側では警護の面もあることだし、王女かつお告げを受けた者である重要性を考えるとむやみに王城外に出すわけにはいかないので、王城でお披露目を行い魔力測定を行うべきだ、と真っ向から意見が対立しているそうだ。
「お前に聞かせることではないのかもしれないが、はじめ神殿はお告げを受けた者は神殿の管轄であると主張し、身柄の引き渡しを求めてきたのだ。今後はより一層、身の回りに気をつけなさい」
という父様の言葉には――身柄が引き渡されることはないとわかっていても、血の気が引いた。
結局のところ、王城としては魔力測定については王城で行い、大神官を招く方向にしたいようなので、了承しておいた。
もう一度、中央神殿を見たい、できれば平民街側からとは思ったが政治的な意図が絡みに絡んでいる今、迂闊なことはできないので、今回はあきらめざるを得ないだろう。




