16.
――ああ、お茶がおいしい。
なんて、現実逃避をしたくなる。
今、私は国賓をもてなすような貴賓室のベッドにいる。自室より、豪華で華美な室内は目に痛い。
いつも護衛は扉の外で待機しているのに、扉の内側にも二人追加されている。
なぜ自室ではなく、貴賓室のベッドでお茶を飲んでいるのか。
思い出すたびに頭が痛く、申し訳なくなる。
完全に自業自得であるのだが、私の自由はまた狭まってしまった。
そう、私は魔法を使ったのだ。使えてしまった。
――想像をはるかに超える威力で。
私は灰銀の時にたまに見て憧れた、そして今世では見慣れた光景。ろうそくに火を灯そうとしたのだ。
ただ、私はろうそくに火を灯そうとした。それだけなのだ。
洗礼式を終えた者なら誰でもできるくらいの超初級魔法、もちろん呪文が必要なものでもない。
――それを私は見事に失敗した。
ぽっと指先から小さい火が出るところを想像しただけなのだ。
まさかあんな、炎の塊になるとは考えもしなかった。
私の指先から出た、隕石のような炎の塊は、私の身長を優に超える大きさだった。
その炎の塊は自室の壁、扉のすぐ横を焼き焦がし、壁に貫通する事こそなかったが、とても部屋で養生できるような有様ではなくなってしまった。
爆発音にも似た音を聞いて飛び込んできた護衛達に敵襲と間違われ、王城中が一時、厳戒態勢となってしまったことも申し訳なさを倍増させる。
おそらく魔力量は多いだろうことも分かっていて、誘惑に負けてしまった私が全面的に悪いので、今の待遇になんの文句も言えない。
父様や母様は初めて魔法を使えるようになった私も気持ちもわかるのか、何とも言えない顔をしており、叱られることこそなかったものの、魔力測定が終わり、訓練が終わるまでは自己判断で魔法を使わないことをきつく、それはもうきつく約束させられた。
でもまさか、こっそり魔法が使えるかどうかを確認しようとして、弱めの火を想像したのに、こんな大事になるとは思わないではないか。
魔法が使えた、という事実に喜べる状況ではなく、周囲に迷惑をかけただけという事実にひたすらへこむ。
本当に誰にも怪我がなくてよかった。正面からあの炎の塊にぶつかられたら、命だって危うかっただろう。
「うん。その魔力量はきっと国民のためになるよ」
父様にはそう言って褒められたが、顔は困惑に満ちていたように思う。
叱ることもできず、かといって全力で褒めるわけにもいかない、未知数の愛娘。さて。
という父様の心情がありありとわかる顔をしていた。
結果、私は自室の修繕が終わるまで貴賓室に監禁、もとい、部屋を移すことになったのである。
今の私は王女に加え、お告げを受けた国を左右する、もしかすると世界を左右するかもしれない重要人物。それに加えいつ暴発するか分からない危険物、という肩書も増えた気がする。
大人びてはいるが、まだ七歳の女の子であるので、魔法に対する自制もきかないし、感情次第で魔力爆発を起こしてしまうのでは、という大人の気持ちもわかるし、前科もできてしまったため、文句も言えない。
もう、大人しく、お茶を飲んでゆっくりするしかなくなってしまった。
聞くところによると、私の近くに王城魔法師団による万一の対処のためのローテーションも組まれている、らしい。
申し訳なさが三倍にも、四倍にもなってきた。
美味しかったはずのお茶も冷めてきたせいか、非常に苦く感じてきてしまった。
「姫様のせいではございませんよ。洗礼式を受けた者は皆、一刻も早く魔法を使ってみたいものですもの。魔力測定を行えなかったとはいえ、魔法を使ってみたいという気持ちを咎められる大人はおりません。皆、姫様がお告げを受けたということに驚き、魔力測定を後回しにして、姫様にその説明を行わなかったのです。これは不幸な事故ですよ。これからは気を付けていきましょうね。それに、魔力量が多いのは誇るべきことで、落ち込むことではございませんよ」
筆頭侍女はそう言って慰めてくれたし、他の者たちも困惑と驚きはあれど、私のことを一切責めなかった。
でも私の心にはただ二人、同室にいた侍女と女官の恐怖に彩られた顔が焼き付いていた。




