11.
パンがゆを食べ終え、食後のお茶を飲んでいると父様が戻ってきた。
父様は母様がすでにいることに少し驚いた様子だったが、私たちが揃って父様を見たことに安心したのか、ふわりと美しく笑った。
「さあ、もう少しで夜が明ける。そばにいたいのはわかるが、リコリスは一度部屋に戻った方がいいのではないかい。ここには私がついているよ」
「でも、もう少しだけここに居たいのです」
母様の言葉は大変うれしいが、そろそろ他の使用人たちが動き出す時間だ。
仮にも王妃が寝間着姿ではないが、部屋着姿でうろつくわけにはいかないだろう。
「母様。私は大丈夫です。一度眠りたいですし、母様のすべきことをなさってください」
でも、と言う母様を笑顔で押し切り、何とか部屋に戻らせた。
母様の侍女も部屋着姿なのを危惧していたのだろう。笑顔で母様を引きずっていった。
母様の気配が完全に消えてから、父様に向き直る。
「事情を説明してくれる方をお願いできませんか。父様もお忙しいでしょうし、公務にお戻りください」
「洗礼式を過ぎたからといって、急に大人にならないでくれ。どうしても外せない仕事以外は今日はここにいるつもりだよ」
父様は微笑むが、本当に多忙な国王だ。
私のために一日中ここにいて、公務を滞らせるわけにはいかないだろう。
もう一度言おうと、父様に向き直ると先に父様が言葉を続けた。
「それに、これまでの事情説明は私がする。他の者に任せられる内容ではない」
父様の顔は国王の顔をしていた。
・・・・・・・
情報量が多すぎて、頭痛がしてくる。
人払いをした父様から説明を受けた内容にめまいがする。
私が倒れた後の中央神殿は阿鼻叫喚だったらしい。
神殿中に光の粒が満ち、誰もが状況を理解できず、神官に説明を求め大混乱だったらしい。
神官も初めてのことで、納得のいく説明もできず、答えに窮していたようだった。
そのうちに頭の中に美しくも荘厳な声が響き、混迷を極めたそうだ。
祈り場へ飛び込んだ父様が見たのは、空中に浮かび、仰向けで寝ている私の姿だったらしい。
風もないのに髪やワンピースの裾がひらひら動いていて、見とれていたそうだ。
神殿、それも祈り場でおきている事態に困惑し、触れていいのかどうか迷っていると、背中を押すように強く風が吹き、私を横抱きにすると、ふわりと風が止み、光の粒も消えていったらしい。
意識のない私に健康診断が行われ、異常がなく眠っているだけだと確認された後、父様と神殿上層部による緊急会議が行われ、お告げがあったと断定された。
私の祝いのために集まった貴族たちは、昼前に神殿入りしていたはずだ。
会議が終わり箝口令が敷かれ、今日のことを口外しないという神殿契約を結ぶまで神殿の外には出してもらえなかったらしい。
食事は出してもらえ、ソファに座って待つだけだったようだが、拘束時間の長さに申し訳なくなってしまった。
それよりも問題なのはお告げという言葉だ。
お告げとは、きっと、いや間違いなく、例のお告げのことなのだろう。
女神さまは祝福と言っていたが、私たちの言葉で言えばお告げに当たるのだろう。
そう、歴史的に名を残し、お告げを受けた者の言葉には王以上の重要性があるとみなされる、あのお告げのことだろう。
――ああ、めまいがする。それでなくてもまだ何が何か分からないのに。
まだ起きて間もないのだ。
女神様にお会いしたことも、前世とやらの記憶も消化できていないし、納得していない。
その上お告げを受けたと言われても混乱を極めるばかりで、何から考えていいのかすら分からないし、そもそも頭も十分に働いていない。
とにかく、一人になりたかった。
そうは言ってもきっと今の父様は一人にはしてくださらないだろう。
どうやって父様を説得しようか。
今、一番に考えることは一人にしてもらう方法だった。




