1.今世こそ幸せを知りたいんです!
――ずっと、既視感があった。
アイリス・フォン・ヴェルローズ
それが私の今の名前。
自分で言うのもなんだけれど、絶世の美少女である。
白皙の肌に薄紅色の頬、少し釣り目気味だが、紫水晶の瞳に形の良い唇。なんといっても輝かんばかりのシルバーブロンド。
今はそのシルバーブロンドと花々が幾何学文様のように編み込まれているのを待っているところ。
いつもより時間のかかる丁寧な編み込みを、鏡の向こうで数人の侍女が鋭い目つきで見ている。
何かしたわけではないが、その鋭い目つきに縮こまってしまいそうな体を一生懸命に伸ばすのが今の私の役目だ。
ようやく編み込みが終わると、次は衣装チェンジ。この日のために仕立てた純白に銀をあしらった豪奢な衣装に着替える。
これまでより一層、裾が長く、地面につくドレスは今日からこの王国の正式な一員となる証でもある。
そう、今日は私の七歳の誕生日。
洗礼式を受けることで、公式にこの王国の王族・貴族となるのである。
「姫様、全ての準備が整いました。これより、中央神殿へご移動をお願い致します」
「行ってらっしゃいませ」
筆頭侍女の一言で、その場の侍女全員が頭を垂れた。
中には涙ぐんでいるのか声が掠れているものもいる。
私の目にも涙が浮かんでくるが、泣いては今日の侍女達の努力が水の泡だ。グッとお腹に力を入れ、何とか涙をこらえた。
「行ってくるわ」
そう、口にするのが精一杯だった。
筆頭侍女のみを連れて、馬車に乗り込む。
父様、母様は先に中央神殿で待機し、他の貴族をもてなしているのだろう。
正直に言うとこの晴れ姿を両親に一番はじめに見せたかったのだが、仕方ない。これがこの国の風習だ。
洗礼式は何と言っても、成人式・結婚式と並ぶ一大イベント。特に王族・貴族にとってはとても重い意味を成すものである。
――お告げや予言のようなものも、あったりするかもしれないらしいし。
極稀に、洗礼式の時にお告げがある――とされている、らしい。
最後のお告げは歴史書によるとおよそ百五十年前。もう、お告げを受けた者は当然この世にいない。
本当かどうかも分からない、お伽話や迷信のようなものだ。
――確か、お告げの内容は異常気象による飢饉。及び、世界的な食糧難よる他国からの侵略、だったはず。
お告げを受けた者は二十歳の若さで宰相に推されるような天才だったらしい。
お告げのおかげか本人の才能か、そのあたりは定かではないが、異常気象にも負けない穀物の発見とその後の外交により我が王国は広大な領土と巨万の富を築き、今日の大国としての繁栄がある、らしい。
――その前は……そう、疫病に関してだったはず。確か、五百年前。
未知の疫病に関してのお告げだったが、書類は殆ど残っていない。
そんなことをつらつら考えながら、馬車に揺られていた。