表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

○○な童話シリーズ

全力を尽くした金太郎

作者: 卜部ひびき

ボイコネライブ大賞に懲りずに応募してます。

 時は平安時代。

 関東の足柄の地にて、一人の男がこの世に生を受けた。


 男の名は、金太郎


 父は亡く、母の手一つで育てられた金太郎は、優しく力持ちな子に育っていった。


 足柄山を己が遊び場と定めた金太郎は、山を、川を、森を縦横無尽に駆け回った。

 そこで金太郎に出会いがあった。

 足柄山の動物たちである。

 リス、ウサギ、トリ、キツネ、タヌキ、オコジョ、ムササビ、オオカミなど


 金太郎は、そのもふもふに感動した。そう、金太郎はもふもふ愛好家として目覚めたのである。


 当初オオカミだけは、孤高のオオカミだけは簡単にはもふらせてくれなかったが、金太郎の剛力は動物たちにも分かる域に達し、オオカミは金太郎を上位の存在と認めた。


 金太郎は愛すべきもふもふたちが相食むことを避けるべく対策を考えた。

 幸い完全な肉食のみのもふもふがいないこともあり、もふもふたちの肉の代わりに蛇や川魚を与え、もふもふたちの間で争いが起きないようにした。

 この過程で、金太郎は自分に動物を意思路通する能力があることに気がついた。

 金太郎はもふもふたちと楽しい日々を過ごした。


魚:僕たちだって生きているのに

蛇:俺たちはエサ扱いかよ……


 ……金太郎には聞こえなかった声もあった……


 金太郎はもふもふたちと楽しい日々に、緊張が走った。

 それは唐突に現れた。クマである。二本ツキノワグマであった。


 クマ相手ではオオカミですら流石に単騎では抗し得ない。緊迫するもふもふたち。

 大事な友(もふもふ)を救うべく、クマに立ち塞がる金太郎


オオカミ:金太郎、無茶だ、いくら君でも!

金太郎:大丈夫だ、こいつはニホンツキノワグマ、その体調は大きくても一メートルを少し超える程度、ヒグマの三メートル、ア○アシラの六メートルに比べればどうということはない


 金太郎がパワーだけの男と誰が言った?

 武のみならず知においても、金太郎は鄙には稀なる(田舎では珍しい)才を持ち努力している。生き物の生態にも詳しい。

 

 雄叫びをあげてクマと組み合う金太郎。

 しかし金太郎も未だ体が出来上がっていない子供である。勝敗は中々決しなかった。

 しかし遂に金太郎はクマの体を地面に叩き付けた。金太郎の勝利である。

 単純な力ならば勝利は危うかったかもしれないが、金太郎は戦いながら自分の力を確実に伝えるすべや、相手の力を利用して叩き返すすべを学んでいった。この学びが、のちの鬼退治で大きな意味を持ってくる。


 また、勝因はもう一つある。それはクマもまたもふもふだったのだ。つまり金太郎はもふもふを堪能することで戦いながら回復していたのだった。


 クマは金太郎の軍門に降った。そして他のもふもふに危害を加えないことを誓約した。金太郎はそんなクマに川魚の漁場を教えた。


 

 クマとの戦いを経て金太郎は己の力の効率的な使い方を知りたいという渇望を覚えた。武への渇望を覚えた。

 金太郎の日課に、もふもふ堪能の他にクマとの実践形式の訓練が加わった。

 また、住まいのある集落にて所蔵されている多くない書物の閲覧を請い、学べるかぎりの文武について貪欲に学んでいった。


 そんなある日のこと、母に同行を求められた金太郎は集落の広場を訪れた。そこで待つのは一人の翁。その全身に纏う強者の気配から只者でないことはわかり、気品のある所作から貴族と思われてもいるが、その素性は不明である。今は半隠居ながら集落の鍛治師をしている。


金太郎:じいちゃん!


 気軽に呼びかける金太郎。

 もちろん実の祖父ではないが、孫同然に世話をしてるこの翁を金太郎は慕っており、この翁もその気軽さを許した。


翁:受け取れ、金太郎。お前の母からの贈り物だ


 それは(まさかり)であった。しかし、ただの鉞ではなかった。

 業物と一目でわかる輝きを持つ刃。柄につかわれている木からは清廉な気配すら感じる、只者ではない鉞だった。

 元々母は普通の鉞を渡すつもりだったが、金太郎から非凡な才を感じた翁が特別に用意した。母から貰う対価は変えていない。すなわち差額は翁の持ち出しである。

 これで金太郎の才が花開けばよし、このまま埋もれるなら我が見る目のなさと割り切っている。


翁:それから己が武を鍛えようとしているな? 己が知を伸ばそうとしているな? わしの元に通え。実演して見せることはできぬが武を伝えることはできる。 知を伸ばす書物も蔵書しておる。


 その才を磨くすべも用意してくれた。


 金太郎は翁の元で学び、それを山々にて実践することを繰り返した。クマはもはや模擬戦の相手にもならなくなってしまったが、それでもそのもふもふは、他のもふもふたち同様に金太郎を癒やし続けた


 金太郎は母と翁より贈られた無銘(・・)の鉞を振って己を鍛えた。千の回数だっただろうか、万の回数だっただろうか、その振られた数は。

 この地には既に金太郎以上の強者がいなくなって久しい。

 その時点で鍛えることをやめてしまっても金太郎を誰も責められないだろう。

 しかし金太郎はまだ見ぬ強者が必ず現れると思い、信じ、夢み、渇望して鉞を振るい続けた。

 そしてその執念は遂に金太郎を一つの極地に至らせた。

 それからすぐだった。「朝家の守護」源頼光(みなもとのよりみつ)が金太郎の元を訪ねたのは。

  金太郎の成長を待ち構えていたかのようにであったが、ある意味その通り、頼光は極地に至った金太郎の強者の気配に引かれて、この地を訪ねたのであった。


 頼光は己が部下と金太郎に模擬戦をさせたが、誰一人金太郎に勝つことはできなかった。

 また、武に偏重しておらず、智謀もあることを金太郎は示した。


 頼光は金太郎を部下に誘った。京の都に共に来るよう誘った。

 母は金太郎を武将にすることを欲した。母のことを気にせず京に行くよう金太郎に求めた。翁はこの場には現れなかった。だが、翁もきっと同じ意見だと母は金太郎に語った。


 母を置いて行くという不孝はできないと考えていた金太郎は、その、この地に留まる理由そのものから京に行くよう求められた。

 金太郎も己が武を試したかった。まだ見ぬ強者に会いたかった。

 こうして金太郎は頼光の部下となり坂田金時(さかたのきんとき)と名を改めて京へ行った。


 頼光の率いる武士団の一員になった金時は、瞬く間に頼光四天王の一人に数えられた。

 その卓越した武のみならず、兵法・文・和歌にも精通した知、鄙にて育った(田舎者)とは思えないほどの洗練された所作、全てが光り、藤原家の護衛につくことを許されるほどであった。


 また、金時のもう一つの個性も京の貴族たちに愛された。それはもふもふ好きであった。

 京には足柄山にいたようなもふもふたちはいなかったが、代わりにイヌとネコがいた。

 筋骨隆々にして所作優美な美丈夫である金時がネコをもふもふしているそのギャップ溢れる姿にハートを撃ち抜かれた女官は多かった。

 

 ある日のこと

金時:どこにいるにゃー、でてくるにゃー


 ネコを探す金時


女の声:かわいい! もふもふ! かわいい! もふもふ!


 声の方に金時が向かうと、そこには探していた子ネコと、それをまさしくネコ可愛がりする女官がいた。


金時:見つけた!

女:え!? だれ!? いや、違うのこれは!?

金時:捕まえていただきありがとうございます。

女:あわわ、あわわ


 何やら様子のおかしい女官を怪しみながらも近づく金時、しかし女官は一層暴れる。このままではネコに逃げられると迫り、そして……


 ドン!


 気がつくと金時は女官を壁際に追い詰めて、顔の横に手をドンとついていた。ネコを抱いたままの女官は俯くが、金時は残る手で女官のアゴをくいとあげ、優しく声をかける。


金時:ネコを渡していただけますか?

女:ひゃ、ひゃい……

金時:ありがとうございます、ではこれにて。


 金時は天皇の居室へ向かった。そう、この子は天皇の子ネコ、その名も「命婦の御許」天皇の居室に自由に出入りできる高貴な身分を与えられたネコなのである。

 それを探すことを依頼された金時も低くない官位が与えられていることは想像に難くない。


女:な、なによ、あの男、顔の火照りが止まらない。口止めも忘れた。命婦の御許も初めて抱っこできた。いろんなことがありすぎ! すぐに枕草子に書かなきゃ!


 なんと! 女官は清少納言だったのである。

 しかもなにやらラブコメ展開的なものまで……

 壁ドンとアゴくいで落ちるなんてどんなツンデレチョロインだ……


 さらに後日


清少納言:待ちなさい!

金時:はい? おや、あなたは……

清少納言:この前のこと、言いふらさなかったのね? クールぶった女官がもふもふしているとか。

金時:可愛らしい女官がかわいいもふもふをもふもふしているところを見ただけですよ?

清少納言:か!? かわいい!? あ、あと、壁際で私にあんなことして、せ、責任取りなさいよ! 私と文を交わしなさい! 私が誰かは知っているのでしょう!?


 金時は察した。これは翁が言っていた、|行為を素直に示せない女性ツンデレだなと。


金時:はい、中宮定子様に使えるお方ですよね。

清少納言:そうよ! 文の件、約束よ!


 完全に落ちてる、しつこいようだが壁ドンとアゴくいで落ちるなんてどんなツンデレチョロインだ……

 

 またある日のこと

 また命婦の御許ことミモっちゃんを探していた金時はある女官とすれ違った。

 カラスの濡れた羽のように美しい黒髪。絹のように滑らかで長い。

 前髪は目を隠すほど伸びている。

 長身て起伏に富んだ体型。まごう事なき美女である。


 しかし金時は任務優先。すぐ目の前にミモっちゃんを見つけ、抱っこにて捕獲。


女官:かわいい…… もふもふしたい……


 金時は難聴系主人公にあらず、ミモっちゃんを抱いて女官に近づく。


金時:(白々しい声で)わー、ミモっちゃんをつかまえてくれてありがとうございますー


 言いつつ女官にミモっちゃんを抱かせる。


女官:み、ミモったん?

金時:(ミモったん? かわいい! 採用!)はい、ミモったん。この子の名前です。捕まえてくれたお礼に、存分にもふもふしてください

女官:もふもふ、もふもふ、ももふふ、もももふもふもふふふも……


 ………………


女官:はわわわわわ、すみません、すみません

金時:いえ、いいんですよ、気持ち、わかります。私もお内裏様に連れて行く前にもふもふ堪能しています。

女官:え!? この子、命婦の御許……さま?

金時:はい、ミモっちゃんです、いいえ、ミモったんです。

女官:あ、あの、ありがとうございます。

金時:いえ、もふもふしたくてうずうずしている姿が可愛くて…… 余計なお世話でしたでしょうか

女官:いえ、ありがとうございます……

金時:では、これにて失礼します

女官:ぽー


…………


女官:ぽー


 同僚が声をかけるまで、女官は固まってた。

 同僚から金時の名を聞き、女官はその思いを爆発させた。

 ……筆に……


 金時様の素晴らしさをみんなにわかってもらうには美丈夫なだけではだめね、血筋が必要ね、お母様孝行も素晴らしいわ、その要素も取り入れましょう。お母様似の人を好きになるとか、あ、たくさんの人から慕われて……

 

 こうしてできたのが「源氏物語」である。

 デジャブがあるが、あえて言おう、、そう、この女官は紫式部だったのである。


 枕草子にも源氏物語にも「命婦の御許」の記載があるのがその証拠である。


 余談だが、もし紫式部が筆ではなく、清少納言の半分でも金時にアピールしていたら、金時の妻になっていたと言われている。清少納言はツンを出しすぎ、結局別の無骨な、悪い意味で無骨な男と婚姻し、のちに離婚する。金時との再婚を目論んだが果たせず、結局定子との百合の道を進んだという。



 さて、金時は何もラブコメばっかりしてたわけではない。ちゃんと仕事している。

 その最大の仕事について言及しよう。


 ある時、京の若者や姫君が次々と神隠しに遭う事件が起きた。「怪異」の発生である。

 「怪異」が起きると陰陽師に対処を聞く、当代の常識である。

 原因究明のため、頼光は金時以下四天王四人を伴って「陰陽寮」に赴いた。出迎えたのは時の長官、安倍晴明。

 御年八十とも言われる生きた伝説、と翁からも聞いていた金時だが、


 ……見た目、俺より若くね? …………


 九尾の狐の子とも言われる安倍晴明、まるで他の古代文明の遺物(石仮面)を被り人ならざるものになったか、大陸の高地の秘術(波紋の呼吸)を学んだかのような、老いを一切感じない姿だった。


 ……翁の言にたがいは無し……か、あべの、はるあきら! ……


 そして隣に立つ者は……いやお方は…… 武人なら知らぬものはいない。八幡大菩薩。一目で分かった。その神気、気が付かないはずがない。


 自分が何者かに気がついたことに気がついき、気を良くした神は、厳かに口を開く。


神:大江山の酒呑童子の仕業である。奴を倒せば怪異は鎮まる。


渡辺綱(わたなべのつな):おっしゃー! そいつんちいって、油撒いて火矢放とうぜ! 皆殺しよー!


神:モメントオー(待てい!)、酒呑童子、奴の力を抑えないと、如何なお前らといえど抗し得ぬ。この神酒を飲ませるのだ!


 頼光たちは作戦を考えた。

 朝廷に従う者以外の異なる一派、別の思想、信仰を持つ一派に変装しようと。これならば鬼たちの警戒心を解けるはず。


 作戦は的中し、鬼たちに受け入れられる頼光たち。鬼の中には以前に渡辺綱と戦った茨木童子もいたが、全く気が付かない。


 いよいよ新酒を開ける。

 鬼が飲んでも人が飲んでも最高の味である。

 しかし、鬼の力を強力に抑えることができる。


酒呑童子:うむ、失礼、今日の酒宴はここまでとしよう。寝床は用意させる、ごゆっくりされよ。

頼光:ご厚意に感謝します。


 鬼たちが眠り込んだことを確認した一行は、酒呑童子の寝室に向かう。

 確かによく寝ている。これならいけると思った一行は、上司に手柄を譲った。

 頼光は三段階まで溜められる己が剣技を最大まで溜め、。放った。抜刀初撃が必ず会心撃になる、かの家に伝わる奥義も発動している。

 さらに睡眠時の初撃は二倍ダメージ、この世界の狩人の常識である。


 なので碓井貞光(うすいさだみつ)がこう叫んでしまったことは責められまい。


碓井貞光:やったか!


………………


 最強の回復魔法(生存フラグ)を受けた酒呑童子は無傷で起き上がった。

 そしてその咆哮で部下を叩き起こした。

 夥しい数の鬼に囲まれる一行。


 まず動いたのは茨木童子だった。

茨木童子:腕のお礼、させてもらうぜ

渡辺綱:お前、覚えていたのか


 変装が解けた渡辺綱に気がつき、因縁の戦いを挑む茨木童子。


 ならばと再び、かつて茨木童子の腕を切り落とした剣技を繰り出す渡辺綱。

 必殺の一撃はしかし


 ゴン!


 鈍い音と共に跳ね返された。


茨木童子:知らないのか? 鬼に一度見せた技は通じない。これはもはや常識だぞ


 ……渡辺綱は死を覚悟した……


卜部季武(うらべのすえたけ):刹那・五月雨打ち!

碓井貞光:ぬぅーん! 巨高極拳!


 二人は迫りくる雑兵どもを近づけないように遠近それぞれの利点を生かした連携で戦線を維持した。


 酒呑童子と相対するは、頼光と金時


頼光:奥義を放つ、援護しろ

金時:りょ、上司


 金時の援護により生じた隙に、頼光は最大奥義を放つ。

 それは図らずも弟子である渡辺綱が差し違える覚悟で茨木童子に同じ技を放った、ほんの少し後だった(・・・・・・・・・)


渡辺綱:神気鬼烈斬!

…………

頼光:神気鬼烈斬!


 茨木童子は渡辺綱の一撃で完全に退治された。死を覚悟した渡辺綱の覚悟の勝利である

 ……だが、頼光は……


 ゴン!


 先ほど茨木童子の体から響いた音と同じ音がしゅてんどうじから響いた。


酒呑童子:聞こえてなかったのか? 鬼に一度見せた技は聞かない

頼光:馬鹿な! お前には(・・・・)初めて見せた!

酒呑童子:茨木童子のおかげだ。 あいつの受けた記憶、それを我は譲り受けた! さぁ、わが最愛の手下たち。 頼光一味は万策尽きた! 鏖殺せよ!


……


頼光:だが、それでも、負けるわけには! いかない!

金時:上司、どうします、戦線の維持も限界です。次が最後の一撃になるでしょう。どう叩き込むか

頼光:お※※※※り※※る、※※え※※※る※だ、※ま※※※※の※※ら、※ま※※!

金時:!


酒呑童子:ははは、今ならまだお前らを手下にしてやるぞ、ははは! それともやるか? どっちがくる? ははは!


頼光:うぉぉぉ


 突撃する頼光


酒呑童子:やはりお前か、お前だよな、お前しかできないよな。でもな


 酒呑童子がその棍棒を振る。

 頼光は棍棒にその大きな剣を叩きつける。


 ギン!

 空間が軋むような音を立てて、棍棒が砕け散る。

 対して頼光の剣は変わりなく輝いている


酒呑童子:おみごと! でもなぁ!


 酒呑童子の爪が頼光の体を貫く。


酒呑童子:はぁっはっはっは、勝った! 頼光一行、他愛なし!


…………


頼光:それは……どうかな…… 清和源氏に伝わる格言だ、敵が勝ち誇った時、そいつは既に、敗北している! お前はもう、動けない! いけぇ!!金時!!!

酒呑童子:窮したか! 知っているぞ、 坂田金時、きこりぶぜいが。何なら薪割り担当に雇ってやろうか!


 母を孝行した、誇りある薪割りを侮辱されようとも、金時は冷静であった。同時に熱く闘志を燃やしもしていた。


 ……すこし思ってた。寝ているとはいえ、上司の一撃では殺せないかも、と……

 ……すこし予感してた。つなくん(渡辺綱)がほぼ同時に同じ技打ちそうと、そして鬼は近くの鬼が受けた技も学習しちゃうかも、と……

 ……やればよかった、言えばよかった……もう、しなかった後悔はしたくない、後悔するなら、やって後悔してやる!


 愛鉞を強く握る。

金時:我が愛鉞・滅尽岩断斧(・・・・・)! お前の魂! 全て俺に預けろ! おぉぉぉ!!!

 坂田金時が最終奥義! ・・・・

 

 踏み込んだ足、腰の回転、腕の振り、全てが理想的だ、そう、あの時のように……


 …………

 遠く足柄の地で、死の床につきながら翁は微笑む。


翁:そうか、あの技を使うか。金太郎よ。ふふ、酒呑童子め、金太郎にあの技を使わせた時点でお前の負けだ。わしの弟子を見くびった報いだ


 …………

 時は戻って足柄山にいた頃


金太郎:ただいま

母:おかえり金太郎、翁様が、帰ったらすぐ来るようにって

金太郎:じーちゃんが? さすがにくたびれたんだけどなんだろう?


翁:金太郎、お前、今日、成し遂げたな?

金太郎:じいちゃんほんと何もんだよ、よく知っているな。

翁:もうすぐお前は新たな活躍の地に向かう、鉞をよこせ、手入れしてやろう

…………

翁:わしはお前の才を認めていた、だが、同時に期待はずれに終わるかもとも思っていた。名をつけることによってそれ以上育たなくなる、という話もある。だからお前にこの鉞は無銘を伝えた

金太郎:銘があるの?

翁:……だがお前はわしの期待を大きく超えていった。今日、正にな。お前はこの鉞の銘を背負うにふさわしいとわしが認めた。この滅尽岩断斧(めつじんがんだんふ)の名。予想したわけではないが、今日のお前の偉業にふさわしい銘だ。

金太郎:見てたの!?

翁:目で見てはいない、だが、確かに見たよ(・・・)、見事だった。

金太郎:そっか、ありがとう……

翁:今日のお前の技、名はついているのか?

金太郎:いや、夢中でやっただけで何も……

翁:では、それも名付けてやろう、その名は……


…………


金時:坂田金時が最終奥義! 薪割り山麓断!

酒呑童子:がぁぁぁぁ!!!! き、、、こ、、、り、、、ぶ、、、ぜいがぁぁぁ!!!

金時:うがぁぁぁぁ!!!!


 金時の放つ膨大なエネルギー、それを抑える酒呑童子のエネルギー、それが光に変換され大江山の鬼の拠点から、京の都からも見えるほどの光の柱が立ち上る。

 拮抗しているかと思われた彼我の力比べは……

 ダン!

 力強い音で酒呑童子の首が両断されるという結果を持って、決着がついた。


金時:…………

 残心する金時、酒呑童子の死を確認し、そして……

 ピキピキピキ

 鉞の柄に無数の細かい亀裂が入る、そして程なく砕ける。

 刃が地に落ちる、と思う間もなく、澄んだ音を立てて刃がくだけ散る……


…………

翁:見事だ金太郎。薪割り山麓断、箱根山麓を両断した日を今でも思い出す。お前の断ったあとに湖ができてな、いまでは芦ノ湖と呼ばれているよ。いい冥土の土産だ。ありがとう。

翁:そして我が心血を注ぎ込んだ鉞よ、お前の主人の晴れ姿を見ながら、共に冥府に旅たつとするか……


 かつて出雲の刀鍛冶として、長じて京の都で名刀を作っていた伝説の鍛冶屋は、隠居先の僻地で最高の仕事をし、晴れやかに冥府へ旅立っていった……


…………


 愛鉞が魂全てを預けてくれたことをその死をもって認識した金時は一筋の涙を流した。

 彼も感じていた。我が師匠にして愛する「じいちゃん」の死を。


金時:ありがとう、さよなら、じいちゃん、相棒……

頼光:敵将、酒呑童子、討ち取ったり! これより残敵掃討する!

金時:ど、どうしました上司? というか大丈夫?

頼光:命に別状はないが全然大丈夫じゃない。とりあえず利き腕は動かない、この場の俺は戦力にならん、でも敵味方の士気のコントロールくらいはできる。今こそ好機ぞ!

金時:うぃー、てか素手なんですけど

頼光:俺の剣を持て! お前の才なら容易く扱えるだろう

金時:りょ、じゃ、給料分の働きはしますかね


 斯くして大江山の鬼退治は成った。

 金時の一撃は京の都からも見えたこと、光の柱に続いて轟音が聞こえたこと、これらから、金時は「雷公」の異名で称えられた。


 後に女官と結婚し、その子らのうち、一人は頼光の嫡男と結婚し、もう一人は頼光の兄弟、三男の嫡男と結婚した。


 頼光の諱を「らいこう」と読まれたこともあり金時の功績の多くが頼光のものと誤解されていることに憂い、この書を認める、我が祖父の偉業を風化させないため。


 源義※(風化して読めない)著



………………


 今年の初めに見つかったこの書により、坂田金時・金太郎の功績が大きく見直された。

 著者は判読不能だが、おそらく義国だと推測される。

 すなわち、源頼朝も足利尊氏も徳川家康も金太郎の血をひいていることになる。

 それにより…………


 某通信会社のCM撮影

 金太郎役の役者がブイブイ言わせていた。


 いままで、微妙な配役で微妙に不遇だったのが一転である。

 ここで俳優をもっとイケメンに変えるのは流石に可哀想と配役は変わっていない。


 桃太郎役も浦島太郎役も、「今年一年は我慢してやる」と大人の対応である。


<全力をつくした金太郎 完>




A「悪いけどこっちのほうが面白い、前作はただの史実だった」

B「ごめん、いろんな人に叱咤叱咤激励叱咤された」

A「わかっているならしのごのいわない、言いたいことは一つだけ」

B「そうだね」

AB「「お読みいただき、ありがとうございました! よかったら評価頂けると嬉しいです!」」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ