第54話 芋チーズをほおばりつつ、詐欺業者にイライラが募る今日この頃。
流行病にやられて寝込みました(;´д`) 取りあえず回復したのですが、ストックがぁぁぁ……(涙)。
アリアさんの『買い物』は、一切問題無いという結論に落ち着いた。
しかし、アリアさん自身がかなり傷ついている。あれだけヒューさんにはこっぴどく叱られてたし、無理もない。
俺は床に寝転がり天井を眺めながら、アリアさんの気持ちにどう寄り添えば良いのかと考えていた。
「ねぇシューッヘ君。あたしこれから先のノガゥア子爵家のお会計、どうしたら良いのかよく分からないの」
「子爵家の会計? つまり……家計のデカいヤツって感じ?」
「うーん……家計って考えれば考えるほど、頭と気持ちが付いていかなくて。何にしてもスケールが大きすぎて……」
アリアさん、少しは復活してきたのかな。現実の問題を考えるだけの余裕が出てきたようだ。
ただ、この問題は俺自身もマトモな回答を持っていない。貴族的な会計や貴族家の家計なんて、この世界に来るまでご縁が無かった話だ。
また言えば、物価すらも俺は分かっていない。リンゴ1つが銅貨何枚で買えて、とか。
通貨だけでも、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨。種類がありすぎて、何が何やら。
それに。
バルトリア工房の明細もヒューさんが持ってるから、凄い額と思われるその総額も、実は分かっていない。
まず俺の場合、この国の銅貨では何が買えて、銀貨だと……って、そんな『生活レベル』のお金周りから始めないとダメだな。
「俺も、申し訳ないけどお金に関しては答えを持ってないんだ。フェリクシアさんなら、ある程度分かる? こう、肌感覚的な」
「貴族の支出云々についてだけ言えば、私はあくまで『言われた物を揃える』立場であるから、あまり会計は気にしない。故に、会計の実感、というものもあまり無い。すまない」
うーん。こっちもあまり芳しくない返答。手詰まり感満載だ。まずは貴族的金銭以前の、物価の基礎問題が俺にはあるし。まずはそっちからかな。
そういや、腹減ってきたな。空こそまだ少し明るいけれど時間は随分経っているはずだ。
「ちょっとお金の話は横に置こう。フェリクシアさん、夕飯って、今日はこの家で食べられる?」
「そう言えばそんな時間か。時計が無いのは少々不便だな。手早く作れる物であれば、何品かは出せるが」
「あぁー非常にありがたい。こう、メンタルが宜しくない時に、誰かが何か作ってくれるのって、凄い助かる」
「まぁそんな言うほどの物を作れる用意は今日は無いが……まぁ、少し待っててくれ。あり合わせだが作ってこよう」
フェリクシアさんがそう言い残してキッチンへと消えていった。
「フェリクは、貴族に仕えた経験もあるのかな。それとも、王宮メイドとしての経験なのかしら」
「どうなんだろうね、俺も本人に聞いた事が無いから、詳細は分からないな」
フェリクシアさんは、メイド業に於いては常に自信満々な感じで動いているから、何だか万能な様に思ってしまう。
今日も、魔導冷庫はどうやら買ってないみたいだけど、食材はあるんだろう。野菜とかがメインかな、保冷が出来ないとなると。
しかし……普段アリアさんと一緒だとリラックス出来るんだが、今日はさっきの……ヒヤッとした話があったから、どうにも緊張する。
緊張……ちょっと違うかな。緊迫、か。大丈夫だろうかと、今でもヒヤヒヤ・ヒリヒリする感じが、あまり心地よくない。
心地よくないついでに、やはり俺自身がピリピリしているので、喉も乾いてきてしまった。
「ちょっとお茶でも淹れてもらってこようかな……」
「お茶? 冷たいお茶、あたし淹れてみる?」
「冷たいお茶を? 珍しいね」
そう。この世界では『お茶は熱いもの』である。砂漠の国で冷凍庫無しなんだから必然だ。
王宮のカフェではアイスティーが普通にあったが、冷凍庫から氷がいくらでも出てくる日本とは訳が違うのだ。
とは言え、今朝の危ない氷の一件もあったくらいで、この家でも氷自体は作る事が出来るのは分かった。
だったらアイスティーも作れるだろう。もっとも俺がやるとまた危険物作っちゃぅので、アリアさんに任せたい。
「アリアさんは、氷を魔法で作れるの?」
「うん。でもあたしの場合、シューッヘ君とは違って清潔な氷は作れないから、お茶に直接は入れられないのよ」
「周囲から水を集めて凍らせるタイプの魔法、ってこと?」
「そうなの。魔力自体を水に転換させるのは、あたしにはとても無理。イリアドームの時は、凄くびっくりした位だもん」
そうなの? 俺自身全然力む事も無く出来てる事だから、それがハードル高いみたいに言われてもあまりピンと来ない。
「じゃ、早速俺の奥さんに、お茶を淹れてもらおうかなー」
「ふふ、妻としてのお仕事ね、嬉しい」
にんまりしながらアリアさんもキッチンへと消えていく。
廊下の向こうのキッチン方面からは、遠く女子2名の明るい声が聞こえる。
ふー……少しでもアリアさんの自信復活に、何かしら貢献出来れば良いんだけどなぁ。
お茶を奥さんのアリアさんに振ってはみたものの、普通こういうのはメイドさんの仕事だろうし。
貴族の妻の仕事って何だ? やっぱり貴族同士の交流みたいな外交関係だろうか。
だとしたら、例えば庭先でパーティーとか? うーん、元々陰キャな俺には、正直言ってハードルが高い。
アリアさんを、妻として……と言うより、俺がアリアさんの旦那? 夫? パートナー? 実感無いが、伴侶として。それからこの国の住人として、当たり前の事が出来る様にならないといけない。
ジャガイモの値段、卵の値段。いやそもそも市場に、地球に似た作物があるのかすら知らないが、そう言った事からまずは学んでいかねばならない。
「お茶が入ったよー」
アリアさんがグラスに入ったお茶を両手に持って廊下から現れる。うん、お盆なりトレーなり欲しいかも知れない。
フェリクシアさんが魔導水晶鉱山の時にトレーを出していたので、あるはあるんだろうが、もっと気楽なのが欲しいな。アレ豪華そうだったし。
「はいどうぞ。もう少しで料理も出来るって」
「早っ。料理慣れしてる人ってそんなスピードで料理出来るものなの?」
「うーん、あたしも料理は手早く作っちゃう方だから、特別早いなって感覚はないかな」
そうなのか。まだ10分と経っていないだろうに料理が出来上がってしまうとは。
女子力の問題なのか、それとも魔法を中心にした料理器具の問題なのか、相当早い。
まだ魔導コンロ? 的な物も無いはずなので、全部魔法加熱とかでの調理なんだろう。
電子レンジ級とまでは行かないが、スピーディーさは凄いと思う。
アリアさんが持ってきてくれた、グラスに入ったお茶。ちょっと色が濃く見える。
グラスには、薄く霜が付いていてよく冷えていそうだ。
手に取り、口に含む。キンキンに冷えている訳ではないが、そこそこ良い感じだ。
俺の好みとしてはキンッキンに冷えたのが好きだが……
今日はあれこれアリアさんに注文付けるのはよしておこう。下手に地雷を踏む様な真似は、俺としては避けたい。
と、二口目を味わった時に、ふと違いに気付いた。
「あれ、このお茶、いつものとは違うね。茶葉が違うの?」
「ん? どーれ……あ、ほんとだ。何だか濃厚だね、ちょっと苦いかも」
この世界のお茶は、紅茶っぽいのが基本で、飲み方は一般的にはストレートだ。で、今飲んでるのも紅茶らしいんだが、濃い。
ミルクとかあると丁度良くミルクティーにって位の濃さだ。苦みが強いのが特徴だな。
「出来たぞ。まだコンロが無いので、火魔法で出来る範囲の、ある意味作戦行動中の食事の様になってしまったが」
フェリクシアさんが3枚の大きめなお皿を器用に持って、キッチンからホールへと来た。
俺には出来ない3枚持ちだけでも尊敬してしまう。
「芋チーズに、芋の即席ソース和え2種だ。まだ芋しか食材を揃えられなかったから、すまない」
「いや十分十分、チーズ美味そうじゃん」
「コンロ無いのに作れちゃうの? フェリクさすがねぇー」
「まぁ芋は、蒸すなり焼くなり、火さえ通れば食べられるから、魔法調理に向いているんだ」
と、言うわけで早速俺も着席する。アリアさんは横ね、と伝えて、俺とアリアさんは横並びに座る。
朝と同じ様に、俺とアリアさんの正面にフェリクシアさんの席。フェリクシアさんはまだ配膳の途中で、座っていない。
こっちへ来たなと思ったら、俺たちにフォークとナイフを配膳。この世界でもナイフは右側なのか。
それから一度フェリクシアさんはキッチンへ。それから程なく、ピッチャーに入った水とグラスを持ってきた。
「旦那様に奥方様、食べててくれていて構わないぞ?」
「いや、せっかくの初夕飯だし、元々俺自身『メイドさんだから』って理由で人を押しのけるのって好きじゃないから」
「そうか? メイドはメイド、ある意味影の働きをする者だから、そう気にされずとも良いんだが……」
「ま、いいじゃん? パーティーメンバーとしても、変に上下関係が付くよりはって、ん? そのカトラリーは?」
フェリクシアさんが着席しつつ自身のお皿の前に置いたのは、アリアさんとのデートの時に描いた、アレ。
Mで始まる地球原産のキャラクターが描かれて? もしくは焼き付けられて? いる。
おいおい、出来上がったら報告するとかそういう話はどうしたんだあの商人は。
「このセットは、何でも高名な画家の作品を持ち手に付けたものだそうだ。見れば見るほど味があるので、他のシリーズもあれば欲しかったな」
「フェリクシアさんその『高名な画家』って、俺だよ?」
「はっ? 旦那様はいつの間に、カトラリーにまで仕事の手を伸ばされるように?」
「いやいや、俺自身はアイデアを出して、その絵の原案をちょっと描いただけなんだよ。それで分け前とかは後日出来上がってから相談、って話だったんだけど……」
あの商人。ちょっと怪しげだなと思っていたら、案の定か。
完全オリキャラでは無い地球原産アイデアとは言え、この世界に真似できる人がいない以上勝手にあのイラストを使うのは、卑怯だ。
「つまり……旦那様の原案だけを拝借して勝手に商品化した、という事か?」
「そうだね、そうなる」
「それは、知らぬとは言え申し訳ない事をした。このカトラリーは処分しよう」
「いやいやいや、気に入ってくれたんなら使ってよ。出所が曰く付きだけど、イラスト自体は俺の作で間違いないし」
「そ、そうか? では、ありがたく使わせてもらう」
「はーい。しっかしあの商人、どうにかギャフンと言わせたいな。貴族特権でじゃなくて、商売人の括りで締め上げたい」
「あれ、シューッヘ君が怒りに沸いてる? 珍しいね、やっぱこのうさぎさん、凄く思い入れとかがあるの?」
「いや、地球産のアイデアでしか無いんだけど、約束と違うじゃんと思ってさ。アリアさんもいたでしょ? あの時の」
取りあえずあまり腹を立てていても、チーズは冷めるわ腹は満たされないわで良い事は無いので、ともかくチーズ芋から頂いた。
とろけたチーズが絶妙に美味い。こりゃチーズ自体が美味しいわ。地球時代に味わった、スーパーで売ってるとろける板チーズとは訳が違う。
「あ、そう言えば、あのデートの日となると、竜の靴もそろそろかな。2週間くらいって言ってたっけ?」
「そうね、2週間くらいでお屋敷に持っていくって言ってたわね。良かったわ、お屋敷がちょっとは整って」
「そだね。尋ねてきました、誰もいません、じゃどうしようもない」
と、続けて芋の和え物をフォークでグサリ。醤油ともまたちょっと違うんだが、系統として似た感じのタレがかかっている。
もう一つの和え物は、こちらは洋風的なのかな。何かハーブ類の様に細かく刻まれたのが振りかけられている。地球で言うパセリみたいな彩り。
そのハーブポテトも食べてみると、香りが口の中いっぱいに広がる美味しいものだった。いや本当にフェリクシアさんは料理上手いな。
「この世界ってハーブを結構使うんだね。これもだよね?」
と、かじりかけのジャガイモ系芋をフォークで指し示す。
「ああ、ハーブ類は香り付けに使う事が多いな。味わいとして乗せる場合もあるが、食材を選ぶかな」
「その辺りも心得てるんだ。メイドさんの基礎知識的な感じなの?」
「まぁメイドであれば、最低限の調理程度はこなせなければならないが、それぞれメイドによって作れる料理は異なる。まぁ普通の事だ、料理の手腕はメイドであろうが無かろうが得手不得手はある」
なるほど。取りあえずフェリクシアさんの芋料理はシンプルで美味い。しかも芋が食材なだけあって、結構ずっしり腹に来る。
「そう言えば旦那様、旦那様の世界での主食は何であったか? 可能であれば旦那様の舌に合わせたいと思うのだが」
「主食? 俺の国は圧倒的に米文化だったなぁ。全てのおかずが『米を美味しく食べるためにある』とまで言われる様な、米一辺倒の国だった」
「米か。小麦と違って多少難しいのが来たな……その米だが、主にそのまま食べたのか? それとも炒め物や濃い味のスープなどと共に食べたのか?」
「基本はそのまま、ご飯はご飯で食べるかな。時に炒飯とか、アレンジはするけど」
「チャアハン?」
「あぁえっと、卵と和えた白米を、塩こしょうして炒めたもの、で合ってるかな。そんな感じの」
「塩は分かるが、コショウとは?」
「あぁ、コショウも翻訳の壁に阻まれるか。ピリッとする香りの良いスパイスで、元々はこの位の小さな粒で、それを砕いて使う事が多いね」
「似たものだと、ペッパーの実が似通ってるな……」
「多分ドンピシャ同じ物じゃないかな。ペッパーで言葉が通るとすると、コショウの事をペッパーとも言ってたから、ペッパーとコショウは同じだと思う」
「ペッパーか……調味料類は多彩な方が良いので、またアイデアを頂けるとありがたい」
と、フェリクシアさんはいつの間にか皿を空にして立ち上がった。
俺もアリアさんもまだ半分位しか食べてないが、軍人さんだからか? 食事が早いな。
もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、
是非 評価 ポイント ブクマ コメントなど、私に分かる形で教えて下さい。
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どうかご協力のほど、よろしくお願い致しますm(__)m




