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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第2章 砂漠の魔法国家で貴族するのに必要なのは、お金とかより魔力の様です。

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第39話 ヒューさん、怒る ~かなり英雄に対して辛辣な意見を持ってる親方さんに~

 ベッドの相談は、そこまで時間は掛からなかった。俺は。

 サイズが決まって、材質を決めて。英雄費があるので金額は気にしない。一応それ位の仕事はさっきしてきたし。


 詳しい事は分からないが、「寝ているだけで心身の状態を良くする木」を使って作る事にした。


 地球で(たと)えるなら、(ひのき)風呂みたいな物だろうか。ヒノキチオールがリラックスとか、そんなの。

 木の名前は聞いたが、忘れた。既に10種類以上の木の名前を聞いて、オーバーフローだ。


 ただ、その木のサンプルのキューブを出してくれたのだが、確かに森林の中にいる様な、安らぐ香りがした。

 この香り自体は数年で消えてしまうそうだが、効果は数十年変わらないのだそうだ。


 一方。

 女性陣は、さっきまでの遠慮だらけはどこへやら、随分と盛り上がっている。

 いや、女性陣と一括りは良くないな。主にアリアさんが、だ。今は天蓋の布地を選んでいるようだ。

 天蓋付きベッドは、地球では女子の『憧れ』止まりで、なかなか聞かない。同級生にも使ってる人はいなかったと思う。

 そこ行くと、この世界では天蓋が普通に選択肢に入るようだ。アリアさんはいかにも女子っぽく、キャーキャー言いながら選定している。


 一方フェリクシアさんはと言うと、廉価な物を、と連発していた。

 心配をしたフェリクシアさん担当の人が俺に確認に来たので、


「廉価発言は、全て無視して下さい」


 と俺から伝えて置いた。

 それからはある程度トントン拍子に進んだようで、フェリクシアさんも時間はさほど掛からなかった。


「さて、アリアさんはまだしばらく掛かりそう、かな?」

「あ、ごめんシューッヘ君。もし良ければ、もう少し色々考えたいんだけど……」

「良いよ、ベッドは一日の3分の1を過ごす大切な場所だからね。じっくり選んで」

「ありがとう!」


 と、そんなこんなで、ベッドでハマって一人脱落。

 次の、ヒューさん的に本丸であるリビングのテーブルである。

 リビングというか、多分これ女神様翻訳の限界だろう。2~30人集まれそうなホールをリビングとは言わんだろう。


 ともかく、リビングの机。椅子は後で考えるとして。


「ヒューさん。リビングの机ですけど、何を基準に選ぶべきです? 俺、経験ないんで、話を聞いてもイマイチ分からなくて」

「左様ですか。まずは、お気に召す木材から選ばれると良いかと思います。他には付加機能もございますが」


 と、その時だった。工房の奥の方で、大きな声で男達が「お疲れ様です!」と、声を揃えて言っている。

 誰か来るのかな、と思っていたら、向こうからこちらに、ドワーフの人が歩いてくる。

 頭にははちまきの様に細い紐みたいなのを巻き、腰には色々な道具が飛び出てるカバンを付けている。

 髪の毛ツンツンは、ドワーフの種族特性なんだろうか。ワントガルド宰相閣下も、あんな感じの髪型だった。


「おう、メリッサ! 今日はお客さんかいっ!」

「はい親方! 噂のノガゥア卿がご来店になられています」


 メリッサ、と呼ばれたのは兎人族のお姉さん。親方、はドワーフさん。親方か。一番偉いんだろうな。

 そうこう考えている内に、親方ドワーフさんが俺たちの元に来た。


「あんたがノガゥア卿か? 随分と若いもんだな。それで魔族軍を殲滅(せんめつ)出来るのかね」


 いきなりのご挨拶がそれか、と思わなくも無いが、英雄職の原義は『対魔族』である。間違った事は言っていない。


「お初にお目にかかります、親方さん。魔族とは出会った事が無いので何とも言えませんが」

「あぁそうか。まぁ魔族なんぞに出くわさない方が良いのは間違いないからな。すると英雄は無職か。役に立つのか?」


 ちょっと小馬鹿にする様に笑う親方さん。少々イラッとする。

 とは言え、俺はどう答えて良いやら分からず、苦笑いをして流した。


「それはそうと、ノガゥア卿は本日は何をご所望だ。あちらの女性のお連れさんは、ベッドか」

「ベッド2台、既にご成約です! 親方には、ノガゥア卿のリビングテーブルをお願いします!」


 うさぎのメリッサさんが、さっきまでとは打って変わって随分体育会系だ。職人系の縦社会なのかも。

 親方さんは、メリッサさんの言葉を聞くだに、俺の顔にじろりと、鋭い眼光を向けてきた。


「子爵様ともなると、屋敷での歓待が主体になるが、そこでどの程度自慢をしたいかだな。正直に教えてくれ」


 親方さんはそう言った。言葉とは裏腹に、随分機嫌の悪そうな表情だ。

 しかし……そう言われても、そもそも貴族の知り合い自体いない。なので自慢とか言われても、まるでピンと来ない。

 これからそういう人脈が出来るのかも知れないが、それでも自慢したいとはあまり思わないなぁ。


「まだ分からない事だらけですけど、あまり自慢をしようとは考えてないです」

「何ぃ?! 貴族様が自慢をせずに誰が自慢をするってんだよ。本心のところはどうなんだ、英雄さんよ」

「本心と言われても……実際俺には貴族の知り合いもいないですし、自慢自体、俺、したいと思わないですよ」

「はぁー呆れた貴族様だな。こちとら貴族同士の自慢合戦に乗っかって、高い代物を売りつけてるってのに、自慢しないのかい」


 ず、随分とぶっちゃける親方さんだな。高い代物を売りつけるって……

 普通の職人さんや商人は絶対言わなそうなセリフだ。


「でも、本当なんです、親方さん。ただ、こちらのヒューさんから、リビングテーブルは屋敷の顔だと言われて……」

「ヒュー? ん? うおっ、ヒュー閣下じゃないかっ! 随分久しいな、あれからどうなった。奥方は増えたか?」

「一体いつの話をしてるのだ、バルトリア殿。妻は逃げていって、増えずに減った。しがない老翁だ、今となっては」

「はははっ、人族の色恋は移ろいやすいな。で、ヒュー閣下がどういう風の吹き回しで、この若者に付いているんだ?」


 そこからは、ヒューさんとバルトリアさん? の、弾丸の様なトークが続いた。

 あまりにラリーが早いので、とても口を挟める隙が無い。しばらくトークをただ傍観するだけになった。


「ははっ、まぁヒュー閣下が『お付き』になっちまう様な相手がこの若いのだとすれば、よほど偉大なんだろうな、今はともかく」


 と、突然トークが止まった。ぼんやりしていて油断したが、親方の視線は俺に注がれていた。


「……あ、え? 俺の話?」

「おーいおい、この坊やは人の話もマトモに聞けないのか? ヒュー閣下、付く相手を間違えたんじゃないか?」

「シューッヘ様は少し気の弱いところがあられる。お主の勢いに気圧されておるのだよ、バルトリア殿」

「オレ程度に気圧されるようじゃ、ドラゴンの1体もマトモに倒せんだろう。英雄の名が泣くぞ」

「す、すいません」


 俺は思わず頭を下げた。ドラゴンってそんなに簡単に倒したりするの?


 しかし、これが大きな失敗だった。


「バルトリア殿。幾ら稀代の腕前を持つ最高栄誉の職人と言えど、シューッヘ様を愚弄するのはわたしが許さぬぞ」

「おおっと、こりゃ過保護も甚だしいな。シューッヘ様だか何だか知らないが、仕事しない英雄に何の価値がある?」


 う……厳しい発言だが、それ自体はごもっともだ。

 もっとも俺の場合、対魔族とか関係無い所、魔導水晶の辺りで、国にはそこそこ、今後も貢献出来るつもりでいるが。


「バルトリア殿。その発言、取り消されよ。英雄を如何に遇するかは諸国含めた国の問題であり、市民がとやかく言う話では無い」

「市民には発言権すらないって? そりゃあすまんなぁ、しかし俺たちの納める税金で食べているんだろ? 言う権利ぐらいあるだろう」

「一介の職人が、国家の重大事・重大人物であるシューッヘ様に対してその態度、到底許せるものでは無い。バルトリア。貴殿に対して貴族法に基づき懲罰を」


 話が随分ヤバい方向へ進んでいる、これはさすがに止めないと。


「ひ、ヒューさん、親方さん。俺の事を悪く言うのは、別に構わないです。それを理由に懲罰とかも、やめましょうよ」

「されどシューッヘ様、それでは……」

「親方さん。ヒューさんも随分腹を立てていますが、何故そこまで貴族を嫌うんですか? 訳があるなら、教えて下さい」

「訳だぁ? んなもん言うまでもねぇな。貴族の連中は、俺の工房で作った物を、粗末に扱う。それで理由は十分だ」


 なるほど。やはり、一流の職人さんともなると、自分の作品には誇りを持っている様だ。

 要は、俺がこの工房の家具を大切にすれば良い。

 けれど、今の時点でたとえ誓いを立てても、信じてはもらえないかも知れない。


 うーん……飽きない、喜んで使う、あとは職人さん方への感謝と敬意。この辺りが大事そうだな。


 多分、俺が何を言っても、今はまだ無駄だろう。今一番、家具の新調で喜んでいるのは、アリアさん。

 アリアさんから言ってもらって、何とかなれば良いんだが……


「ねぇアリアさん」

「えっ? シューッヘ君どうかした?」


 とアリアさんが店員さんからこちらへ、視線を向けてくれる。


「この工房の家具って、正直なところどう思う?」

「完成品に触れたりすることが出来ないから、あくまで見本とカタログを見た範囲だけど、凄いと思う!」

「親方さん。この人は俺の婚約者です。あなたが貴族嫌いだったとしても、何の罪も無く家具入れを楽しみにしている女性を、わざわざがっかりさせたりは、しませんよね?」


 俺は出来るだけ冷静な口調を心掛けつつ、親方のバルトリアさんに言葉を投げた。


「今のアリアさんの言葉は、決して打ち合わせとか口裏合わせとかしてないです。素の声です。

 あなたは職人さんとして、とても優秀かも知れません。ですが、家具を使う人、すなわち客を、無闇に怒らせて何か得がありますか?」


 俺は、説得半分、怒り半分、といったところだ。冷静でいようとしているのだが、どうしてもイライラが募る。


「オレの作る家具の良さが分からん連中に、オレの家具を使って欲しくない。それだけだ。

 あんたには、どうやら俺の家具の価値は分からなそうだ。だから客として見ていない。それだけの、単純な話だ」


 さすが職人、一歩も引かない。

 けれど俺にだって意地がある。


「作り手ほど全てが分かる訳ではないのは確かです。けれど、使って快適、見ていて気分が良い。それじゃダメですか?」

「まぁ……ダメという事は、無いな。素人には素人の見方ってものがあるだろうしな」

「俺が感じられるのは、その『素人の見方』の範疇でしか無いです。けど、家具を大切にする事は、誓っても良い。それ位の常識はあります」

「ほう、珍しい。貴族の常識となると、家具なんて魔法の的、って認識だからな。あんたは違うのかい?」

「的。なんと勿体ない……そりゃ例えば、足が折れた椅子とか、天板が割れたテーブルとかは、魔法云々でなく『使えない』ので処分するでしょうけど、使える家具を無駄にしたりはしませんよ」

「そうか。あんた、貴族として日が浅いから、というだけでも無さそうだな」


 と、バルトリア親方が近くのテーブルの上にあった板をこちらへ持ってきた。


「なぁあんた、この板どう思う?」


 そう言うと、俺に板を渡してきた。が、これが随分重い。見た感じは軽そうなのに、密度が高いのかずっしり感が凄い。


「どうと言われても困りますけど、見た目に反して随分重いですね。目が詰まってる感じですか?」

「ああ。リビングの机の天板は、こういった密な木材が必要だ。スカスカだとすぐ傷が入っちまう」

「なるほど」


 板をバルトリアさんに返す。少し機嫌が良くなったのか、目付きのキツさがやわらいでいる。


「貴族相手の商売となると、大方の貴族はオレに偉そうに指図をして、金に物を言わせてろくでもない材質で作らせやがる。見栄えばかりのな。

 あんたは、貴族にしては随分素直そうだ。家具職人なんぞと鼻で笑う貴族が多いが、あんたはどうも違うな」


 やっぱりそういう貴族は多いのね……

 専門職の人に素人が指図するより、アドバイスを聞いた方が絶対良いのに。


「職人さんを鼻で笑うってのが、むしろ俺には理解出来ないです。真似できない技術と腕前、それが職人さんですから、尊敬こそすれ馬鹿にしたりなんて到底」

「ほぉ? あんた存外本気でそう言ってるな。上辺だけ繕う連中はいるが、そこまで本気で言う貴族は珍しい」

「他の貴族さん達の事は分かりませんが、俺の元いた世界でも、家具は何十年単位で使いますよ、しっかりした、壊れない物なら。

 もっと言えば、職人さんの手作業のタンスとかになると、100年は平気で使いますよ」


 日本でも桐のタンスとかになると、孫子の代までずっと使うとか割と普通にあった。誇張でも何でも無い。


「元いた世界か。この国とは違う価値観を持ってるからこそ、そういう発言が出てくるのかも知れんな」


 ふと、今まで『不機嫌』を絵に描いたような調子だったバルトリア親方の眉が緩む。

 笑顔とまではとても言えないが、怒鳴りだしそうな顔つきでは無くなった。


「俺としては、折角ご縁があった家具職人さんが作ってくれるのであれば、凄く嬉しいですよ。

 家具を他人に自慢するつもりは無いですけど、やっぱり俺自身が気分良く使えて長持ちする、そんな家具なら、一番良いですし」


「ふむ。素人なりに良い心構えじゃねえか。家具は自慢する物じゃねえ、使ってこそだ。見栄えも含めてな」


 バルトリア親方の顔つきが、普通に戻った。

 もっともドワーフの『普通』の基準はワントガルド宰相閣下。あの人もそうだが、人族基準で見ると、随分不機嫌そうなんだが。


もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、

是非 評価 ポイント ブクマ コメントなど、私に分かる形で教えて下さい。


皆様からのフィードバックほどモチベーションが上がるものはございません。

どうかご協力のほど、よろしくお願い致しますm(__)m

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