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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第2章 砂漠の魔法国家で貴族するのに必要なのは、お金とかより魔力の様です。

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第38話 う、う、う、う、うさ耳!!

 ヒューさんの熱量はよく分かった。家具に関しての思い入れが、常人のそれではない。

 相当熱っぽく語ったヒューさん。材質が、木の乾燥が、艶が、触れた温かみがと、何項目あるんだろうと思えるチェック項目を浪々と言っていた。


 うーん。


 正直俺の中には、そこまでのこだわりはない。家具は使えればそれで良いんだが……

 ヒューさん曰く、リビングに関しては特に、こだわるべきなんだそうだ。貴族として誰かを招いた時に恥をかくから、と。

 貴族社会の色々な事は俺には分からないが、確かに、リビングに人を呼ぶであろう事は間違いないので、そこは従う事にした。


「でもヒューさん、このお店に無い物となると、オーダーですか? 俺、オーダーの物って持った事が無くて、現品が無いのって結構不安です」


 これが俺の正直な気持ち。と言うか、平均的日本人な俺だから、オーダー家具なんて正直よく分からない。

 日本の家にあった家具だって、そもそも俺が買ってきた物でも無いし。リビングとかの家具なんて、俺には縁遠い物だ。


「注文家具がご不安、というのは分かります。ただ、信用出来る店であれば、思い描いていた物より素晴らしい物を収めてくれるものです」

「な、なるほど」


 相変わらずヒューさんの熱量が下がらない。家具となるとここまで熱くなる人なのかこの人。


「あ、あのノガゥア卿。宜しければですが、本店に出向かれますか?」


 と、横から先ほどのペコペコさんが差し挟んでくる。


「俺は本店の場所も知らないので、出向きようもないですよ」

「本店には、店内の転移魔法陣が繫がっていますので、すぐ行って頂けます」


 ほう。この世界の高級店は、そういう仕組みで繫がっているものなのか。

 転移魔法陣ってすごいな。まぁ俺の屋敷にも、地下と行き来する転移魔法陣、あるけど。


「魔法陣の定員は何名だ?」

「最大5名にございます」


 ヒューさんの問いかけに、ペコペコさんはペコペコしながら答えた。

 どこまで卑屈な程に腰が低いのやら……これはこれで、不信感を持ちそうなほどだ。


「丁度我々で5名ですが、シューッヘ様、全員で出向きますか?」

「ええ、そのつもりですけど……何か支障がありますか?」

「いえ支障と言うほどの事はございませんが……メイドの使う物は、もう少し廉価な物でも宜しいかと」


 メイドさん軽視……とまでは言わないが、まぁ俺の屋敷で『仕事をする』訳だから、豪勢な家具は確かに要らないかも知れない。

 ただ、俺はフェリクシアさんをパーティーメンバーとして見ている。だから、俺やアリアさんと同等か、少し下ぐらいの物はせめて買うつもりだ。


「廉価な物と高価な物と、ヒューさんの講義でもまだ俺摑めていないので、やっぱり全員で観に行きましょう」

「左様ですか、かしこまりました。店番、転移魔法陣は何処にあるか」

「こちらにございます、どうぞ」


 ヒューさんはあくまで偉そうに振る舞っている。

 元々ヒューさんが傲慢な態度を取る人ではないのが分かっているので、ある意味『貴族の威厳』の為、とかなんだろう。


 ペコペコな店番さんに案内されて、室内のボックスブースみたいな所に至る。

 地球流に言えば……広めの試着室、と言った感じだ。5人が優々入れる位には大きい。


 店番さんが扉を開けると、そこには床に淡く光る円形の魔法陣があった。その魔法陣に、接続されている配線みたいなのもある。


「ではシューッヘ様お入りを。我々も、窮屈で申し訳ありませんが、同道致します」


 窮屈……という程では無い。

 だが、確かに三方が壁なので、そこに密集してみると、少々息苦しい感じはある。


「皆さんお入りになられましたか? では魔法陣を駆動させます。リラックスしていて下さいませ」


 そんな言葉が聞こえたな、と思ったら、一瞬目の前が白くなって、次に見えたのは、店内と言うより応接室という感じだった。


「バルトリア家具工房へようこそ、ノガゥア子爵」


 スッと目の前に現れたのは、赤髪の女性だった。少し小柄で、髪はくせっ毛、それをカチューシャで押さえている。

 赤毛に合わせた訳でもないのだろうが、赤色のアイドル衣装みたいな、装飾過多な感じの服を着ている。

 年齢は……アリアさんと同じ位だろうか。派手だが上品さも兼ね備えた、明るそうな雰囲気の店員さんである。


「今日はノガゥア家邸宅に入れる家具を吟味しに参った。バルトリア工房長はおいでか?」

「只今工房長は、家具の仕上げをしている最中でございまして、少しお時間を頂きます」

「そうか。家具については初心者であらせられるシューッヘ様に、案内をしてもらいたいのだが」

「かしこまりました。お連れ様もご一緒に、どうぞこちらへ」


 赤毛の女性の後ろを付いていく。

 ん? 後ろ向いたその女性、カチューシャで押さえられてるのは……耳? うさ耳??


「あの、ヒューさん」

「何でしょう、シューッヘ様」


 と、俺はヒューさんに耳打ちする様に話した。


(あの赤毛の店員さんって、うさぎみたいな耳がありますけど、獣人、って括りの方ですか?)

(そう言えばシューッヘ様の周りには、獣人がおりませんでしたな。左様です、獣人でございます)


「獣人の中でも、兎人族(とびとぞく)と呼ばれます。初めてですか? ノガゥア卿」


 俺はギョッとした。ヒューさんとのやりとりは、本当に注意して小声でしたつもりだった。

 けれど、その内容は完全に、兎人族と自称した目の前の店員さんに筒抜けになっていた。


「す、すいません。こそこそ噂話みたいな言い方をしてしまって」

「いえ。兎人族の都市生活者は少ないので、色々と、見られたり話されたりには慣れておりますので」


 ちょっと振り返って微笑むその顔からは、苦労の色とか俺の言葉への嫌気などは感じられなかった。

 営業スマイルが板に付いているだけかも知れないが、それにしても聞こえてしまって、少し気まずい。


「兎人族は、人族と比べて耳が良いので、聞くつもりで無くても耳に入ってしまいます」


 と、兎人族の店員さんが少し苦笑いをしながら教えてくれた。


「そこまで聞き取れるとなると、我々は隠し事が出来ませんな」


 ヒューさんが開き直ったようにハッキリと口にした。

 まぁ確かにそうなんだが……こそこそ話しても筒抜け、というのは、交渉する時とかに不利そうだな。


 兎人族のお姉さんの後を付いて応接室っぽい部屋を出る。

 とそこには、相当に広い工房があり、左手の方には完成品と思われる家具がたくさん、右手は何十人規模の人々が、汗を流して働いている。


「ここが、当工房の作業場兼納品検査場になります」


 ほえー……広い。納品検査場というからには、この左手に一杯ある家具は全部、売れた物なんだろう。

 工房はどれだけの広さがあるのやら、端まで見通そうにも端の方にある家具が何なのか分からない程に広い。

 作業場の方も、色々な部品を作っている人やニスとかかな、塗っている人もいる。


 因みに、普通の人もいるし、ドワーフらしき人もいる。少し獣っぽい獣人の人も、奥の方で大きな板にカンナを掛けている。

 この国は亜人差別がない、と聞いていたが、確かにこれだけ多様な人々が、家具作り、という点で団結している様にすら思える。


「ノガゥア卿は、この度はどういった家具をお探しですか?」

「あ、っと。リビングに置くテーブル・椅子のセットと、ベッドが3台。これだけは最低限必要です」

「最低限、と仰いますと、もう少し増える事もあり得ますか?」

「うーんと、全部をオーダー家具にしなくても良いんじゃ無いかとは思ってるので、その辺りはまだ流動的です」

「左様ですか。当工房ではそれ程数は無いものの、既製品レベルの品物もご用意はございます。後ほど是非ご覧下さい」


 ニコッと、うさ耳をカチューシャで後ろに倒した店員さんが笑顔をくれる。

 たとえ営業スマイルと分かってはいても、いやうさ耳だよ? 地球出身者として、盛り上がらない訳がない。


「オーダーをするにしても、俺全然知識が無いんで、何か参考になる様なサンプル? ってありますか?」


「サンプル、ございますよ。初めてのオーダーをなさるお客様は、大抵はノガゥア卿と同じく戸惑われます。

 ですので、ご安心なさって下さい。必ずノガゥア卿のお好みに合う家具と引き合わせてご覧に入れます」


 うさ耳店員さんは少し力強くそう言うと、俺を左手側の納品検査場の方にガイドしてくれた。

 所狭しと、テーブルから椅子から、鏡台やらチェストやら、中には宝箱風の箱まである。家具なのかそれ。


「もう少し奥まで参ります。当工房では、シンプルな見本に『足し算』する事を基本に、お客様のご意見を取り入れます」


 スタスタと進む。俺もそれに合わせて進む。ヒューさん達は少し下がって付いてきてくれている。

 そうか、俺の意見が基本で、かつもしかすると全てなのかも知れない。いやもっとも、俺は使う人の意見を聞く気でいるんだけれど。


 随分奥まで進んだ。山ほどあった家具はもう背中で、目の前には種類別に分かれて、家具が置いてある。

 その中で、俺たちはベッドが並ぶコーナーに案内された。デカいベッドが4つも並んでいる。


「まず、こちらがベッドのサンプルです。基本となる大きさが4種類、これを土台に、様々なパーツやオプションを追加していきます」


 そう示されたベッドは、日本サイズのダブル手前位から上に大きくなり、最大の物は他の3つより一回り、四辺全てが大きい四角形だ。


「このベッドサイズって、何か呼び方とかありますか? 下から何番目とかだと、混乱しそうで」

「はい、サイズの記載はそれぞれ、『小型』 『中型』 『中大型』 『大型』と呼んでおります」

「なるほど……ねぇアリアさん、アリアさんはベッド、どの位のサイズが欲しい?」

「えっ! あたし?!」


 俺の話の振りが突然過ぎたのか、アリアさんがちょっと上ずった様な、びっくりした声を上げた。


「うん。俺自身のは、まぁその……色々考えて中大型か大型にしようと思うんだ、主寝室だし。でも、アリアさんに必要なサイズって分からなくて」

「失礼ですがノガゥア卿、こちらのお嬢様は……?」


 うさ耳店員さんが小首をかしげる様にして俺の目を見てくる。うさ耳、うさ耳……

 うむむ。見つめてはダメだ、見つめては……


「えっと、こちらは俺の……恋人、です」

「シューッヘ様、そこは堂々と『婚約者』くらい申し上げて頂かねば実態にそぐいませぬぞ」

「あ、はい、すいません……こ、婚約者です」

「あぁ左様でしたか! まだ同室という訳で無いとしても、近い将来同室になられますね!」


 うさ耳さんは、服のポケットから小さなメモを取り出して、何やら書いている。

 近い将来同室に、か……そうだよな、いつまでも宙ぶらりんにしておく訳には、行かないよな。


「ライフステージを考えますと、ご成婚後10年20年と経ちますと、別室の方が良いと仰る方が多いです」

「そういうものなんですか……?」


 皆揃って、愛情が冷めてしまうのか? それはそれで随分悲しいな。

 永続する愛情、ってそれ自体が妄想的な夢なのだろうか。


「はい。ご家庭によっては、もっと短い場合もございます。その期間ばかりは、それぞれご夫婦のお考え次第です。

 ただ、どんなに大きなベッドでも男性は、二人で寝ると疲れが取れない、と仰る方がとても多いのです」


「へぇ、そういうものなんですか」


 なんだ。愛が恋がという以前の、もっと『ベッドの機能』に沿った問題だった。


「はい。新婚のご気分でもって、大きくて素敵なベッドを1つだけお求めになられ、後になって困る……

 そんな男性、というのは、当店ではアドバイス差し上げるのでまず無いですが、他の家具店ではよく聞く話です」


 なるほど……含蓄が深いと言うか、男性心理が追求されている感じがする。

 ヒューさんはどうだったんだろう。聞いてみよう。


「因みにヒューさんは、奥さん方とは同じベッドでしたか?」

「わたしですか? 正妻との新婚当初は、一つのベッドでしたな」

「え? 新婚時代だけ?」

「ええ。店の者が言うように、同じベッドで寝ると疲れが取れぬのです」


 そうなのか。俺自身他人と同じベッドで寝た事など無いので、疲れ云々はまるで分からなかった。

 この店、もしかすると凄くお客さん思いの親切なお店なのかも知れない。


「じゃあ、俺のベッドは一番大きい『大型』にしよう。アリアさんのは、どうしたい?」


 とアリアさんに目をやる。明らかに戸惑って、迷っている様子だ。


「アリアさん、遠慮しなくても良いからね。アリアさんも大型にする?」

「ううん! そんなそんなっ! あたし一人だったら、小型でも大きい位よ」

「そう? じゃアリアさんのベッドは『中型』で」

「えぇー、今小型って言ったのにぃ……」


 アリアさんが眉毛をカタカナのハの字にして、どうして、と言いたげな表情をする。


「アリアさんにも、ゆっくりごろんと休める場所を作りたいんだ。腕を横に伸ばせないベッドよりは、伸ばせる方が良いと思ってさ」

「でもあたしは、その……まだシューッヘ君の家の、居候みたいなものだよ? そんなに豪勢にしてもらって、バチが当たらないかなぁ……」


 アリアさんは、分かりやすく戸惑っている。

 まあそりゃそうか。ここの店の『中型』は、日本基準のダブル+αって感じだ。ダブルより横が広い。

 寝返りを打つにしても、よっぽどゴロゴロと転がれる。


 ベッドは一度買ったらそうは買い換えない買い物だから、狭くて後悔、というのだけは避けたい。


「ベッドの台数は3台との事ですが、もう1台はそちらのメイド服の方用ですか?」

「はい。ノガゥア邸のメイドさんではあるんですが、部下とかでは無くて、大切なパーティーメンバーです」

「なるほど。単に機能性のみですと既製品クラスでもと思いましたが、大事なお仲間様となると、オーダーの方が良いですね」

「ちょ、ちょっと待ってくれノガゥア卿」


 俺とうさ耳さんの間に、手を差し込んでくる。フェリクシアさんである。


「ん? フェリクシアさん、どうしたん?」

「私に気を遣ってくれるのはありがたいが、私は板の上でも十分寝られる。ベッドに金を掛ける必要は無い」

「寝られるのと、くつろいで寝られるのは別でしょ? フェリクシアさんも俺の仲間なんだから」

「う、うむん……」


 フェリクシアさんがなんか変な声を出しているが、ここは譲らない。大切な仲間なんだから、相応に遇する。


 しかも、俺とアリアさんは仕事とかはあって無い様なものだが、フェリクシアさんは、俺やアリアさんが在宅な限り、常に仕事だ。

 そうしたら、せめて寝る時位ゆったりとしてもらいたいと思うのは、俺として出来るせめてもの待遇だ。


「フェリクシアさんのは、小型でも良い? メイド室控え室がそこまで広くないから、大きいと圧迫感」

「大丈夫っっ! 肩幅あれば十分に休めるので! もっと小さくてもっ」

「それは却下。じゃこちらのメイドさん用のは、小型サイズでお願いします」

「かしこまりました。それでは、ノガゥア卿はわたくしが、他の方にもプランナーを付けますので、よくお話しをなさって下さい」


 俺たちは、近くにあるテーブル&椅子を勧められ、ベッド毎に分かれて座った。


いつもありがとうございます。ご評価、本当にとてもありがたいです。

より一層頑張りますので、是非この機に「ブックマーク」といいねのご検討をお願い致しますm(__)m

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