第31話 国王陛下の秘密の目 ~俺の考え、たやすく破られるの巻~
「とは言えヒューさん、王様に約束も無しで突撃って、それはそれでナシなのでは?」
さっきの近衛兵長さんの頑固な態度は微妙に思ったが、ヒューさんのアポなし突撃も、相手が相手だけにちょっと良くないようにも思えてならない。
「いらっしゃらなければ、下がれば良いだけの話にございます。事は一大事、何より陛下のお耳に入れる事こそ先決です」
な、なるほど。ヒューさんはヒューさんで、また別方向に頑固な一面があるようだ。王様第一、と言うか。
いやただ、とにかく突撃して行っていなければ帰るから良い、というのは、それはそれで違う気がするんだが……文化性の違いかな?
まぁ、ヒューさんがする事なんだから、この国の文化として間違った事をしているという訳でもあるまい。
「ヒュー閣……そのお手の上の物はなんでございますか」
謁見の間の前に立つ2名の近衛兵さんの片方が言う。
「見た事ないか? これが大物の魔導水晶だ」
「なんと! そ、それは私らは見なかった事にしなければいけませんね……」
「そうだな。掘り出した者以外で陛下より先に見物したなどとなれば、なかなか厳しい事になるやもしれん。黙っておく方が良かろう。通してくれ」
ヒューさんの言葉に、謁見の間の扉が開かれる。
これでいきなり王様座ってたとかだと面白いん
「来たか」
ぎゃっ! 居た!!
俺は思わず後ろに飛び退いて、閉じかけのドアに激突し、更にその扉で強制的に謁見の間に押し込まれ、足を取られて顔面からダイブする所までが、俺の初動になった。
顔を上げると、既に王様の前まで進んでいるヒューさんがいた。良かった、ヒューさん突き飛ばして魔導水晶に何かあったらシャレにならん。
「お、王様、お久しぶりです。あ、あの前にこんな感じで話す様にと言われたのでそうしてますが大丈夫ですか……」
最初の、王様、までは良かったが、先の授爵の時の迫力がふと思い出されてしまい、言葉を紡ぐに従って言葉尻が消え入る様になってしまった。
ひんやりした石の床からは急いで立った。にしても既に『噓の報告』の件で心臓がドキドキする。こんな調子で、貫き通せるのだろうか。
「大丈夫も何も、ワシがそうせよと命じた事だ。さすがに1月も経たずに忘れる程、耄碌はしておらんぞ?」
「し、失礼しました。えーと……王様、いつからここに?」
ちょっと何から言えば良いのか正直分からなくなってきたので、思いついた先頭の言葉を出した。
「まぁ……ああそうだ、アジャストはシューッヘか、それともヒューか? よくもあの規模の魔法を、短期間に2度も使えたものだな」
「いずれのアジャストも、全てシューッヘ様のなさった事にございます、陛下」
「ううむ、アジャストの告知音の調整も、なかなか絶妙であった。僅かにだがハッキリとそれと分かる音だったぞ」
「シューッヘ様」
「あ、はい。えーと、く、工夫しました」
い、いかん。相変わらず緊張が先に立ってしまって、言葉がまともに出てこない。
「アレを『工夫』の一言で済ませてしまう辺りが、英雄の才覚なのであろうな。ヒューはアジャストは行けるのか?」
「わたしでも、継続状態での発動は不可能にございます。シューッヘ様の計測値から推し量る限り、アジャストは発動すら出来ないはずなのですが」
「あ、それは女神様の仰るに、俺の数値基準は7,000年前のものなんだそうです。だから現在とは違う、と」
「何? 7,000年もの昔の数値が測れるのか、シューッヘのマギからは」
と、王様の目が見開かれる。
「シューッヘ、研究局の連中からすれば、お前を解剖してでも調べたいと思う研究者は、ひとりふたりでは無かろうよ」
「か、解剖ですかぁ」
思わず顔が歪んでしまう。自分が開きにされ、切り刻まれるのを想像するのはあまり気分の良いものではない。
「あそこの連中は、何でも切って開いてバラバラに刻めば分かる、と思い込んでおるからな。魔導水晶同様、崩さぬからこそ高い価値のある物もあると言うのに」
「あ、そ、そうですそれです、その魔導水晶の話でお伺いしました、王様」
「ふむ。まずは報告を聞こうか」
王様が少しリラックスしたのか、頬杖を付いて斜めに傾いたので、俺は色々考えながら話し始めることにした。
「えーと……採掘作業の冒頭でアジャストを、肌感覚ですが5分ほど使いました。まさか初日に成果物が得られるとは思っていなかったので、長期間の作業環境の改善目的です。
それで、そこから……俺が100号坑道と決め打ちして馬車を付けてもらったんですが、そこで女神様からのお告げがありました」
「ほう、サンタ=ペルナ様からか」
「はい。大体の範囲でしたが、この辺りを『掘る』ように、と。それに従って、パーティーメンバーのアリアさんが主軸、ヒューさんがサブで掘削系魔法を用い、発見したのがコレです」
「うむ、論理は通っているな。メイド服の人間が山から離れた途端に、山全体から煙が上がった話が完全にすっ飛ばされている事以外は」
「?!」
俺は思わずむせた。や、やらかした……! むせる事自体が完全に肯定の意味だし、そこまで見ていた様な事まで言われて「そんなことないです」はあり得ない。
一体どうやって知った?! スパイか何かが、それこそ馬車の底部にでも貼り付いていた? 分からない。望遠鏡では見えないはずだ、地平線の向こうだったから。
なのに何故露呈してる! これでは、フェリクシアさんの事を話さずに切り上げる事は不可能だ、マズい、マズいマズいマズいマズい……
「焦っておるようだな。ワシに隠し事をするならば、もっと用意周到にせねばならなかったな」
「お、王様。こ、この処罰はどうか俺だけに。ヒューさんもアリアさんもフェリクシアさんも関係無いです、俺が噓を吐きました、俺を処罰するだけにして下さいっ」
もうこうなったら他のメンバーを助ける事しか出来ない。俺自身はまな板の鯉だ。
「陛下。シューッヘ様はこう申されておりますが、全てはわたしが仕立てた話にございます故、処罰はこの老害をお斬りにな」
「ヒューさんは俺とメンバーを助けようと噓を言っています。悪いのは、俺です。どうか処罰は俺だけに」
俺はもうがっくりうなだれ床に言葉を投げる事しか出来ず、王様の顔が見られなかった。
いや、うなだれて、ではないな。怖くて、だ。このままギロチン行きでも不思議は無い。いや斬首かこの国は。ギロチンは人権的死刑だとか習ったなそう言えば……
「うーむ。お前達の『仲間をかばう気持ち』は分からぬでも無いが、ワシはそこまで暇でも無い。まずはこちらから種を明かしてやろうか」
種明かし、というフレーズに、俺はふと、怖々ながら顔を上げた。王様の顔は、決して怒気も孕んでいなければ、怖い目すらもしていなかった。
王様が、手を前に少し出し、とても早口に何かを言った。そして、玉座に座したまま天井の方を、斜め上を見上げる感じで、じっと見ている。何を見ているんだろう……
「その場所からでは見えぬ。特別に許すから、玉座の脇まで上がってこい」
言葉そのままに捉えても良いのか迷った。実際ヒューさんは動いていない。
けれど、王様は「暇は無い」と仰ってるのだから、時間を使わせられる事がお嫌いなんだろう。
どのみち斬首か牢屋か、良くて追放か爵位剥奪か。処罰は何であれ、俺が受けるのだから、俺は陛下のお言葉に従ってみよう。
「では王様、失礼します」
俺がそそくさという感じで、陛下の前にある5段の小さなステップを上がる。目の前には、陛下の足先がある。もし蹴られても、我慢だ。
「シューッヘ、ワシの視線の先を見よ」
「えっ、って、えーー?!」
そこにあったのは、都合6枚のディスプレイの様な表示。ステータスウィンドウの様な、単色の青っぽい地に白で描画されている。
映っている映像が、左2枚はどこか分からないが城と城下町が映っている。その一つ右はまさにここだ、ローリスを上空から眺めた物に間違いない。
「さっきまで見ておったのは、これだ」
と、陛下が指差す先には、100番坑道を斜め上から見ている様な、そんな映像が映し出されていた。
「王様……これは一体」
「イリアドームというものがあるだろう。アレの役割を知っているか?」
「一度だけ入った事がある、という程度で、それ以外は殆ど何も知りません」
陛下は、俺が知らない事を確認したのだろう、特に意外性もない様子でただ頷いた。
「国防の要、防諜の砦と言わせてあるが、実際は諜報の要でもある。遙か上空に魔法で鏡を設置し、それを拡大した映像がこれらだ。
これは『イリアドーム遠距離魔法監視機構』と言うのが正式名だが、それを知るのはイリアドームの中心で勤める者たちと、後は宰相くらいなものか。
無論シューッヘがこれらでワシから見られておる事を知らぬのは想定内の話でな、ワシがここに居続けたても、これで現地を見ておったから、暇もせんで済んだ訳だ。
また、そもそもの話だが、別段シューッヘが噓を吐いた事を責める為に言った話でも無い。パーティーとしてその長が、身を挺して仲間を守る事は咎める事も出来ぬでな」
王様は……理解があるっぽい。陛下の口からパーティーという言葉が、別の意味ではなく出てくるとは正直思わなかった。それ位、ちょっと似合わない雰囲気だ。
「国王に噓の報告をした件については、英雄殿はまだよく分かっておらずした事、という事にしておく。子細を問う事も、特にするつもりは無い。
だが、王としての関心事は、一体どのようにして『坑道の手前』に焦点を絞り、そしてこれだけの大型魔導水晶を見つけられたか、である。
仮に他の者でも再現出来るものであったとすれば、我が国は新たな、そして巨大な貿易商品として、新規の魔導水晶を扱う事が出来るようになる。これは非常に大きい」
なるほど。再現性、か。やはり陛下には『掘り出すまでの事』を秘密にはしておけなさそうだ。
もっとも、それを開示する事で、吐いてしまった・バレてしまった噓を不問に伏してもらえるのであれば。
ノガゥア家専売特許にはし損ねたが、やむを得まい。
「王様、マギビューの魔法でご覧になっていて下さい。今、魔導水晶を探知するのに使った魔法をここで使います」
「うむ、実際の魔法が見られるのであれば、その再現性如何を考えるにも良い。やってくれ。[マギ・ビュー]」
陛下が静かにマギ・ビューを行使なさった。これでワームが見える様になっているはずだ。
俺は、さすがに陛下に近すぎると思ったので少し離れて、いつもワントガルド宰相が立っていた辺りまでズレた。
もし万が一魔法が膨らんで発生しても、ここまで離れれば大丈夫なのは、ヒューさんの件で間違いない。安全だ。
では、行くか。俺の側のネタばらし、ノガゥア家の優位性の放棄……残念ではある。が、仕方ない。
「[マジック・ドレイン]」
俺が唱えた直後、王様が突然前のめりになった。そこまでは良かったが、僅かに遅延があってすぐに、俺は激しくむせかえった。
丁度、息を吸いきった所にしゃっくりが攻めてきた時の様に、明らかに吸い過ぎた時と同じ感覚で、胸がパンパンな感じに突然なった。
その上、この苦しさは更に強まり続け、俺はゴホゴホと激しく咳き込みつつ、陛下にはすいませんと、言葉になりづらい言葉を投げつつだ。
「ま、[マギ・ダウン]!!」
咳き込みつつ何とかストップコードを口に出来た。直ちに魔法が解除されたのか、胸から息が吐き出せるようになった。
ふう、と息を吐き、何とか整うまで少しの時間を要した。はたと気付き陛下のご様子を伺うと、少し渋い顔をなさっている。
「王様。今のが俺のオリジナル魔法です。地球時代に原案があり、この世界で言う属性とかも、俺自身よく分かってはいません」
「枠外魔法の類か、あるいは魔導線の特別強化魔法に類するべきか……いずれにしても、魔導水晶に選択的に食らいつき離れぬ。これなら探知も可能であろうな」
「はい、実際そうでした。細かいお話しを申し上げますと……」
俺は、実際にフェリクシアさんが爆破に失敗したところからの着想、雨の水と山体濾過器説、そして手前を探知したのはそもそもついでだった事などを伝えた。
「3,000年の昔では、あくまで山体からの発掘であった、という伝承は残っている。ひたすら掘るのに突き進んだ、という程度の記載でしかないのだがな」
「俺の予想では、下方向の……山の中の下とかには、もっとたくさんあるのではないかと思っています」
「それ自体は朗報とも言えようが、坑道内は狭く下に向けて掘るだけの余裕があるかは疑問だ。お前さんが選んだ100番坑道の様に、入口が崩れている所も多い」
「えーと……もし王様が、俺の魔法を複製なさりたいとかで、必要であれば出来る事は何でもしますが」
「魔法自体のコピーは、それが多少の変化要素であっても難しいのだ。魔法自体が完全にオリジナルともなれば、模倣も分析も果てしなく困難。良かったな、鉱山利権を独占出来るぞ?」
「よ、良かったんですかねぇ。叙爵式の時の貴族さん達を考えると、少し気の毒にも思えてきますが」
俺はあの場面では、黙っていた事で難を逃れた。口が災いを呼ぶ典型的な場面だった。
とは言っても、前例が無いとか、そういう話は事実なんだろう。無論陛下が即、無慈悲に打ち首にした訳でも無い。
けれど、女神様の後ろ盾があったり、元世界のアイデアが魔法力で再現出来たりと、そこはチート級の俺である。鉱山を所有する前提が、比較にもならない。
「シューッヘ。お前さんはこの魔導水晶が欲しいかね」
陛下がちょっと試すような口調で言った。
もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、
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