第28話 女神様、作戦を授与してくれるの回 ~いっそこれは丸投げとも言う件~
『あんたは抱え込み過ぎなのよ、シューッヘくん。分かる?』
その声は、俺が今まさに希求していた御声だった。
「女神様、この状況を何とかして下さい。お願いします、捧げ物だったら何でもしますので、どうかっ」
俺の魂からの叫び。きっとフェリクシアさんに女神様の御声は聞こえてないから、奇妙な事をしている様に見えるだろう。
けれど、声に出さずにはいられなかった。心に思うだけで通じると分かっていても、声が溢れた。
『私が言ったこと忘れた? 大きいのは教えてあげないけど、小さいのだったら教えてあげるって言ったじゃない』
そ、そう言えば、俺の部屋で女神様とお話しした時に、女神様そんな事を言ってたっけ。
『今回発掘できるのは、大体10キロ位かしらね。昔の基準で中くらい。今の基準なら、記録に残る大きさよ?』
「そんなに大きな物が埋まってたんですか?」
『大きくないわよ、中くらいだって言ってるでしょ? 分かる? 「中くらいだから、女神様が【教えてくれた】」のよ、<場所>とか<掘り方>とか逐一』
俺はハッとした。
そうか、全て女神様からの御神託、女神様の御業扱いすれば、誰が何をしたとか、全部伏せても不自然は無い。
『気付いたみたいね。国王には私から直接、夢で神託を下ろすわ。jまぁ……気休めかもだけどね。多少はマシになるでしょう』
「も、勿論何の問題もありませんっ。このご恩は」
『いいわよそんな堅苦しい恩だのなんだのなんて。私は気まぐれなの。単に気まぐれで、魔導水晶を授けただけ。良い?』
「はい、気まぐれ女神様で押し通します!!」
『分かったなら良いわ。一筋縄じゃいかないわ国王だけど、あんまりひとりで抱え込まないようにね』
スーッと雰囲気が遠ざかる。変な言い方だが、女神様フェードアウトって、気配とも違う、雰囲気である。
気休め……という一言だけは気になった。でも、女神様のバックアップがあるなら、とにかく不安は無い!
「アリアさん!」
「うん、これなら大丈夫だね!」
「あ、あの……お二方とも何をなさっているのですか」
俺はフェリクシアさんに、女神様との対話について話した。
対話が自由に出来ることから今日頂いた話まで全部を話すのには、そこそこ時間が掛かった。
「なるほど、女神様の奇跡、または御業としてしまう訳ですね。そうすれば、もはや誰も功労者はいない、と」
「うん。フェリクシアさんの事だけを隠すのは難しいけれど、女神様との対話は、俺・ヒューさん・アリアさんの3人だけの特権だから、決してバレない。
しかも、事が女神様の事だから、たとえ国王陛下でも、『女神様の御業をお信じにならないのですか』と言ってしまえる。これなら、大丈夫だよ!」
「しかしノガゥア卿、そうするとあなた様の功績もまた、薄らぐか消えるかしてしまいます。それで本当に宜しいのですか」
「俺としては、別に功績とか名誉が欲しくて魔導水晶を掘る訳じゃ無いんだ。英雄費分くらいは働こう、って、それだけ」
「野心をお持ちではないのですね、ノガゥア卿は」
「あーどうなんだろ。正直『子爵』だけでおなかいっぱいだからなぁ。まだ屋敷の整備すら出来てないし。のんびり生きたいよ、俺としては」
と、初めてフェリクシアさんがクスクスと笑ってくれた。
フェリクシアさんの微笑みは、アルファであった時代から含めて、これが初めてだ。
「じゃシューッヘ君、どういう風に口裏合わせる? ここ掘れって指示された、みたいにしちゃう?」
「そうだね、突然女神様の御声がして、それに従って掘ったら出てきました、ってシナリオにしよう」
「どんな魔法を、とか聞かれたらどうする? ワーム魔法の事とか、もしかするとメイドさん経由で漏れてるかも」
「あ、そっか。そしたら、大まかな場所の指図があって、ワーム魔法で探知して、掘った。これならどうだろ?」
「あの……ワーム魔法とは?」
「あぁごめん、フェリクシアさんに説明してなかったっけ。俺のオリジナル魔法で、マギ・ビューで見ると、ワームに見える魔法なんだ」
「ワ、ワームですか……」
フェリクシアさんがちょっと仰け反る様に俺から距離を取る。
ワーム、確かに気味の悪い生き物って感じだけど、この世界でのワームへの嫌悪は、地球のG野郎以上かも知れない。
「あのねフェリク、ホントにワームなの。半透明なだけで。超気持ち悪いから、興味持っちゃ絶対ダメよ」
「ワームは、私もとても苦手ですので、正直申し上げばそれを操られるノガゥア卿にすら、ちょっと嫌悪感が……」
「ガーン、俺の魔法の姿で俺嫌われる危機?!」
俺は敢えて大げさにショックを受けてる様を演じた。うん、演技だよ? 傷ついてはいないよ、ホントだよ?
「ともかく、俺の魔法で探知して、アリアさんの魔法で粗々掘って、ヒューさんが仕上げに取り出した。メイドさんはお茶を用意してた。どうだ!」
「あたしは、それ良いシナリオだと思う。あくまでシューッヘ君はフェリクシアさんの事をメイドとして扱ってた、って筋書きね」
「そうそう。今日はトライアル雇用、お試し雇用だから、何が出来るのか見る為にもメイド業に専任、ってね」
「ノガゥア卿。あの国王陛下を、それで誤魔化すことが出来るでしょうか。私としては、一抹の不安を感じます」
「まぁ、厳しいツッコミが入る様であれば、女神様の御神託に全て丸投げするつもり。寝てみて頂ければ分かりますの一点張りで、逃げる」
「あぁ……夢枕? と言うんでしたか? 寝ないと頂けない御神託ですと、その場を言い逃れる事は出来ますね」
これで陛下への報告対策も問題無いと思う。
そう言えば女神様の御声は作業中のヒューさんのところまで届いていただろうか。
常識で考えれば、声が届く距離では無い。けれど女神様を常識で測っても意味が無い。
少し時間も経ったことだし、様子を観に行くか。
「ねぇ二人とも、方針は決まったし、ヒューさんが掘り当てたのを持って、そろそろ帰ろっか」
「そうね。今何時か分からないけど、意外と時間経ってそうだね、日の高さから行くと」
「では私は、パラソルを片付け次第、ヒュー閣下の元へ参ります」
「あ、私も手伝うー」
二人はパラソルをガチャガチャし始めたので、俺は俺で立ち上がってヒューさんの方へ足を向けた。
と……ヒューさんの所に辿り着いてみると、ヒューさんはまだ穴に向かって構えていた。
「あれヒューさん、もしかして手こずってます? ヒューさんならきっとすぐだろうと思ったんですが」
別に煽ってる訳でも、馬鹿にしている訳でも無い。ヒューさんの実力を考えれば、リアルにすぐ終わると踏んでいた。
「シューッヘ様の、本番での強さにほとほと困っております。とんでもない大きさがあり、取り出せる状態にするのが困難でございます」
「あれ? と……女神様の御声は、さすがにここまでは届かなかったですか?」
「それは気付きもしませんでした。女神様から何かお言葉がありましたか」
「うーん、これは話すと長いと言うか、あまり話す内容ではない事も含まれていると言うか……とにかく、掘り出した後で話します」
俺がヒューさんの裏に周り、穴の中を見た。垂直に、さっきより更に横幅を取って掘られた穴には日の光が届いて底まで見える。
穴の底には、透明でキラキラと光る魔導水晶があった。地球時代のクラスター水晶として考えても、極めて大きい部類に入る。
ただ、見えている部分は下手すると上部3分の2位で、残り3分の1程度はまだ埋まっている。クラスターの付け根部分がまだ露出していない。
「ヒューさん、いっそこの、既に露出してる部分を物理的にバキッと、もいじゃえば良いんじゃ無いですか?」
「それは大変もったいのうございます。1つの塊の魔導水晶の方が、同じ重量で2つの物より、遙かに使える用途が広がりますので」
「とは言っても……まだこれ『魔導水晶の底』が見えてないのかな。あっ、アリアさんの掘削魔法でもう少し荒っぽく土を削りますか?」
「その方が良さそうです。わたしの土魔法ではどけられる土の量が少なく、魔導水晶の下側の土を取り除けません」
「分かりました、アリアさーん! また掘削魔法お願い!」
さっきパラソルが立ってた所に声を飛ばす。はーい、とアリアさんの元気な声が返ってくる。
アリアさんは、フェリクシアさんに何やら声を掛けていた様子で、フェリクシアさんをそのままにこちらへ走ってきた。
「シューッヘ君、また掘る? スクリュー・スパイラルの刃って粗いから心配だけど」
「アリア、先ほども言ったが、魔法で魔導水晶を傷つける事は決して出来ぬので、どれだけ粗いものでも魔法の力であれば大丈夫だ」
「そっか。なら、ガッツリ力入れちゃえば良いわね」
アリアさんとヒューさんの会話で、魔導水晶の魔法耐性が分かってくる。
まぁ、魔法要素自体の結晶だし、魔力を吸う特性もあるのだから、魔法で掛かる限りは魔導水晶は無敵、か。
魔導水晶で盾とか作ったら、良い対魔法装備になりそうだと思う。いや、今回のが総重量10キロで、これが最近での類い稀になるらしいので、盾では素材の無駄遣いが激しいか。
いずれにしても、ここで俺が出来るのは単に見守る事だけである。
アリアさんが、スクリュー・スパイラルを繰り出す。
今度はさっきより本気度が高いのか、ヒューさんが広げた穴を超える幅の土が一気に左右に、土中から吐き出される。
殆どアニメでも見ているかの様な光景だ。堅い大地にこれだけスピーディーに穴を開ける重機など、技術立国な地球にも無いだろう。
見ている間にどんどん掘り進んで、アリアさんは半身がもう穴の中だ。ここの土は堅そうだから心配はしていないが、崩れたら掘り出してあげるにしても腰をやられそうである。
「おっと! 下掘れたわ、コロンって転がったわよ!」
「おぉアリア! よくぞ魔法のみで採掘したものだ、後はわたしに任せなさい!」
その穴からアリアさんが飛び出し、ヒューさんが代わりに、今度は上半身からダイブしている。
言葉の息の荒さから、ヒューさんすらも興奮している様であるのが分かる。
古代で言えば中くらいだが、どうも今だと相当デカい模様なので、価値の分かるヒューさんにすれば、興奮しないではいられない程なのだろう。
「よし摑んだっ、足を引いてわたしごと引き上げるのだ!」
俺とアリアさんは揃って顔を見合わせたが、ヒューさんの体重+10キロを女性に引かせる訳にはいかない。
パッとヒューさんの、穴から出てる足に飛びついて、腰を下げてグッと引いた。
「良い感じだ、そのまま一気に引いて、引き上げよ!!」
ヒューさんの気合いが凄い。声からでもビンビン伝わってくる気合いの乗りようだ。
俺も更に足を踏ん張って、後ろに反りながらヒューさんの足を引く。ズズッとヒューさんが上がってきて、俺も少し下がって、それを繰り返し……
ヒューさんのローブの後ろ頭が見えたと思ったら、その頭のサイズを超える結晶を持った魔導水晶が日の光に晒された。
キラキラと輝くそれは地球の水晶結晶と本当にそっくりだった。にしてもサイズがデカいが。
「ふぅー、何とも心臓に悪い引き物だ、っと、シューッヘ様でしたか?!」
「へっ?」
「いや失礼致しました、アリアが引いていたものと思っており……」
立ち上がるやすぐに片膝を折り、俺の方へ向く。
「乱暴な言葉遣い、何分歴史的発掘の為興奮もしており……何卒ご容赦頂きたく」
「ご容赦も何も、ヒューさんの方が人生の大先輩なんですから、普通に俺をこき使って構わないですよ」
「い、いやいやそう言う訳には……ただいずれにしても、シューッヘ様のお陰様にて、この通りですな」
ヒューさんが視線を向ける先には、魔導水晶が鎮座している。
形状は、ある意味葉っぱ型。横長で、縦横比が1:3位。水晶クラスターと見ると、針状の結晶が少なめかな、という感じだ。
よく全体を眺めると、ヒューさんが手こずった下側は、水晶同様の感じで白っぽく濁った『土台』になっている。
その厚みは全体の5分の1位かなぁ。あまり横に針状結晶みたいに広がってはいないので、引っかかりもなくスムースに引き上げが出来た。
色は紛れもなく透明。即ち魔力満タン。良いね。
で、幅は……俺の手のひら横に並べると丁度良いサイズ感。これで10キロって、結構比重が重いのね。
「うん。俺の仕事完了」
「いえシューッヘ様、肝心のお仕事がまだ残っております」
「えっ?」
「国王陛下への御報告にございます」
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