第26話 確率は何分の一? 地球時代の運まで全て凝縮した結果 ~正直これからが不安だが~
方針は決まった。縦に掘るのであれば、はしごなどを用意しないと掘った人が取り残される。故に今日は作業無しだ。
縦に穴を掘るにしても、多分俺の考えるとおりだとすると、スコップで足りるとは思えない。安定して掘れる掘削魔法が必要だ。
そう、俺が思い描いてるのは、地下深くに魔導水晶が眠っている可能性。
目の前の、395本にもなる『水平』方向の穴に、みんなそれが当然だと思っていたのだろう。山に対して突っ込んでいくように掘るものだと。
しかし、前に誰かが言ってた。当時のアルファさんだっけ、違うかも。
『魔導水晶は、自然に溜まった魔力が結晶化したもの』
そんな発言を、誰かがしてた。誰だっけなぁ、まぁ良いかひとまずは。
自然に溜まるとなると、そもそも魔力ってどういう流れの中にある物なのか、という事を考える必要がある。
例えば、地球で言う石油の様に「地層に『ある』もの」なのか、または井戸水の様に「地下水脈という源流からの支線」なのか。
俺は考えた。もしかするとだが、この山自体が何らかの吸収要素で、自然にある魔力を取り込んでいるのかも知れない。
さっきフェリクシアさんが爆破魔法みたいなのを使った時、山全体から煙みたいなのが立ち上がってた。
それは逆に考えれば、山の土なのか魔法的構造なのか、それが密ではなく、魔法もまた通す可能性があるって事だ。
で、山体に入ってきた魔力が、山の内部で何かしらに引っかかって止まる。するとそこに更に集まる。それで結晶化する。
その考えがもし正しかったとすると、魔力の全体的な流れは「上から下」で、雨水の流れと一致する。
雨水が山の中をどう移動するかとなると、山の上部から下方向へと染み込んでいき、最終は地下水脈という源流に繫がる。
ただ、その途中で引っかかって魔力がそこに溜まって魔導水晶が出来た、という仮説に従うと、寧ろこの「山の下」には、とんでもない量の魔導水晶が眠ってる可能性がある。
3,000年前の人たちは、もしかすると気付いていたかも知れない。けれど、山の中にトンネルを通して、更にそこに縦穴を掘る、というのは危険過ぎたのだろう。
俺も、ただ闇雲に縦穴掘りをするのであれば、途方もない「下手な鉄砲」を射たないといけないので、やりたいとは思えない。
だが俺には、マジック・ドレインがある。
坑道内部まで入れれば容易にこの仮説が試せるのだが、残念ながら今は坑道は開いていない。これは明日にでも掘削魔法で何とかしよう。分厚くないそうなので。
それか、坑道入口ギリギリの位置でマジック・ドレインを使っても良いのかも知れない。射程範囲が分かっていないが、もし近くにあればそれめがけて掘る事を第一にも出来る。
よぉし、物は試しだ、やってみるか。
「シューッヘ君、何か思いついたのね。もし良かったら教えて?」
「うん。まだ俺の中でも仮説なんだけど……」
砂漠の地面に山の図、雲と雨、矢印を書いていく。
「仮に、魔力を含む雨があったとして、山の中を通っていくルートはこの矢印に沿っていくと思うんだ。フェリクシアさんの魔法で煙も出てたし、何かが入りうるとも思う」
「ふんふん、そうね。入ってくるとしたら上から、流れは下方向よね」
「うん。すると、結局地下に全部移動していく。3,000年前掘ってた穴は、この図で行くとこの辺り。その更に下に、もし魔力を堰き止める何かがあれば、そこに大物が眠ってる可能性がある」
「だとすると、昔の人はなんで縦には掘らなかったのかしら。掘らないでくれていたから残ってる、って事なら、万々歳なんだけど……」
「正直、今の段階じゃ何も分からない。実は坑道に縦穴がボコボコ下方向に掘られてる、とかもあるかも知れない、知らないだけで。でもそれはそれで好都合だよ」
「なんで? もう掘られちゃってたら、取るもの無くない?」
「掘削がされていた当時から、3,000年経ってる。その3,000年分の結晶体、というのも存在すると思う。もっと古代からのだけでは無くて」
「あ、そっか。昨日今日掘られた訳じゃ無いから、もし当時その地下のが掘り当てられてても、更にその下、があり得る訳だ。シューッヘ君やるじゃん!」
俺の背中をポーンと、アリアさんがはたいた。パーンと良い音が鳴る。
「うん、へへ。褒められるとやっぱり嬉しいや……たださ、もしも手近にあればそれに超した事はないから、試しに坑道入口付近でワーム魔法で探知してみようと思って」
「あ……あの魔法使うんだー、ちょっとごめん近寄りたくない」
「うん、それは仕方ないと思う。あの見た目を好きだって女子はいないと思うから。俺だけで探知だけは出来るし、気軽に出来るから、やってみようと思ってさ」
「頑張って! あたしは近寄れないけど。うー思い出しただけで鳥肌立っちゃう」
「ホントに苦手なんだね、ごめんね昨日は。じゃ、行ってくるよ」
俺は立ち上がり、山のふもとに向かった。
さぁ、いっちょやってみますか。
俺は崩れて塞がった入口の手前の地面に手を付いた。
「[マジック・ドレイン]!」
意識を自分の魔力に集中する。凄く速いスピードで水の中を進んでいる様な、泳いでいる様な。そんな感覚がある。
ビュー系の魔法も使っていないのであくまで「ワームが魔力を届けてくれたら分かる」、という話。試すだけなら何度でも可能だ。
意識して下の方へ。空いてる右手も、俺の後ろ側の地面に置いて、更にマジック・ドレインを唱えた。
と、その瞬間だった。突然心臓がドクッと大きな拍動をして、むせた。いきなり胸をドンと強く叩かれた様な感じである。
それと同時に、今までちょっと疲れを感じていたその疲れが、瞬時に吹き飛んで目が冴えた。
流れはまだ止まっていない、右手からどんどん流れ込んでくる!
「アリアさん! ワームは今止めたっ、もしかすると当たりかも知れないっ! この辺りを掘って欲しい!!」
「はーい今行く!」
すぐにアリアさんが駆けつけてくれて、俺が地面に付いている右手の辺りをじっと見た。
「この下に、魔導水晶があるの?」
「俺もまだ分からない。あるとしたら、ヒューさんが見せてくれてた欠片よりかなり大きいはず」
「掘削魔法で掘るけど、魔導水晶を欠いたりしないかしら」
「魔導水晶自体が魔力そのものだから、運が良ければ魔法は吸収されると思う。運が悪くて魔導水晶砕いちゃっても、それはそれで成果として言えるから全然OK、思い切りやっちゃって!」
「分かった、ここね?」
アリアさんが俺の右手の上に両手をかざす。指先で三角を作っている。多分その三角が魔法の範囲なんだろう。
そのまま手を置いておくのは、ドリルの下に手を入れてるようなものなので、俺はマーキングしていた右手を引き寄せた。
「じゃあ行くわよ、[スクリュー・スパイラル]!!」
さっきまで俺が右手を置いていた位置に、正確に「穴」が空き始める。結構なスピードだ。肩幅ぐらいの、意外と幅のある穴だ。
さすが掘削魔法と言うだけあって、穴が空く際に出る土砂は、綺麗に左右に押しのけられていく。便利だな。
ただここからは、長く掛かるか短く済むかは全く分からない。運次第だ。
「アリアさん、今日は試し掘りだから無理はしないでね」
「あ、うん……今、固い何かで引っかかっちゃってるけど、岩よねきっと。こんなに浅くにあったら苦労しないもん」
「ちょ、ちょっと待って。一応確かめるから」
綺麗に丸穴が空いている。ただ掘削魔法が優秀で、既に穴の底は見えない深さになっている。
ワーム魔法はアリアさんの前では禁忌だから、んーっと……魔法要素としての魔力を流すか。
俺はその穴に少し手を入れて、奥底に向けて、細い一本の線を思い浮かべて魔法要素を流した。
魔法要素を流していると、その範囲は何となくだが「ここまで流れてる」というのは分かる。
要素ではなく魔法にするとより見やすく分かりやすいのだが、魔導水晶が魔力を吸収はしても、魔法になった状態を吸収するかは不明だ。
となると、ちょっと手間でも、魔法要素を細く流してみて、それにヒットするかどうかを……って、吸い込まれるぞ?!
「アリアさん、いきなり当たり引いたみたいだ、魔力が吸われる」
「えっ、本当に、本気で言ってるの?!」
「マジも大マジ」
俺は魔法要素の放出を止めた。あると分かればそれで良い。魔法要素をただ流しても、正確な位置までは俺では摑めない。
「アリアさん、もう少し広範囲に穴の広さを広げられる? スコップが使える位にしたいんだ」
「広さね。大丈夫、出来るわよ!」
アリアさんが穴の両脇に手を付いて、もう一度[スクリュー・スパイラル]を唱えた。
すると今ある穴の周囲が掘られていく。さすがに掘った土砂は穴の中に入ってしまうが。
「ちょっとスコップ持ってくる、ヒューさーん!」
俺は馬車に駆け出した。
「どうされましたか、坑道前で何やらなさっていたようですが」
「まさかの初回当たりを引けたかも知れません。まだ確定じゃないんですけど、スコップを。魔力を吸う何かがあるのは間違いないです」
「な、なんと! 魔力を吸うのは、自然物では魔導水晶特有の現象でございます。即ち、シューッヘ様。当たり確定でございますぞ!」
「おぉ、おぉぉ!、マジかーっ! す、スコップを! 掘った土砂をどけたりしないと!」
「シューッヘ様のお手を煩わすまでもございません。土の扱いには土魔法が有効でございます。わたしが参ります」
「ヒューさんありがとう! お願いします!」
俺はヒューさんと共に急いで穴に向けて駆けていった。興奮が凄くて、ダッシュ2本で息が上がるのも気にならない。
「アリアよ、穴の中はどうなっておる?」
「あ、ヒューさん。採掘魔法の刃が通らない固い何かがあって、今はその周りまで広げて掘ってます。でも、また刃が止まったわ」
「もし魔導水晶であれば、魔法でそれを傷つける事は不可能と言われている。ここからはわたしに任せなさい、アリア」
「はい。お願いします」
アリアさんが下がって、その場所にヒューさんが座る。何やら唱えているが、早すぎて聞き取れない。
魔法は成立したようで、さっきの通気口のデカいバージョンの様に、土砂が天地左右の方に強制的にどけられていく。
ものの数十秒くらいか、そこでヒューさんが立ち上がった。
「……まさに奇跡でございますな。ご覧下さいシューッヘ様、既に目視出来る範囲です」
「暗くてよく見えない……光を照らしても大丈夫ですか?」
「魔導水晶は魔法で壊すことが出来ない物ですので、どのように照らして頂いても大丈夫です」
「じゃあ。[エンライト]!」
穴に手を入れて、照明魔法エンライトを使う。俺のエンライトは無駄にまぶしいのだが……
「穴の底に、キラキラした結晶が……やった、魔導水晶だ、やったー!!」
俺は飛び上がった。王様すら半ば期待してないようなこの廃坑から、見事にお宝を掘り出せた!
「少しお時間を頂きますが、掘り出しはこのヒューにお任せ頂きたい。魔導水晶は物理的には脆い所があるため、魔法のみで掘らなければいけません」
俺は頷いて、アリアさんのところに歩んだ。
「アリアさん、俺やったよ、王様からの無理難題、初回クリアだ!」
「良かったねシューッヘ君、あたしも嬉しい、シューッヘ君の喜んでる様が、凄く嬉しい!」
俺はアリアさんの手を摑んだ。そのまま上下にブンブンと振ってしまう。
頭の中が超ハッピーなので、身体がウズウズして動いてないと落ち着かない!
「フェリクにも教えてあげましょ? 彼女の魔法、ヒントになったんでしょ?」
「そうだね、フェリクシアさんの所に行こう!」
俺は駆けて馬車の方へ向かった。突然の俺のダッシュに、アリアさんがちょっと取り残されてしまった。
「シューッヘ君、無茶苦茶元気ね。これも魔導水晶の効果?」
「分からない、でももしかするとそうかも知れない。あ、フェリクシアさんっ!!」
俺が大声で呼んだものだから、フェリクシアさんがとてもびっくりした顔でフリーズしている。
「ちょっとシューッヘ君、少し落ち着こ? フェリクが固まっちゃってる」
「あ、あぁそうだね……ふーっ、ふう……フェリクシアさん。魔導水晶が見つかった」
「ヒュー閣下がお持ちになられていた物ですか? 落とされていたとは知りませんでした」
「いやそうでは無くて。土の下から魔導水晶を掘り当てる事に成功したんだ!」
俺の喜びの叫びに、フェリクシアさんは最初、無反応だった。
信じてくれてないのかな、と思ったが、違った。
次の反応は、手に持っていたティーセットを、四角い銀盆ごと落っことした。当然ティーポットは割れた。
「フェ、フェリクシアさん?」
「ノガゥア卿……あなたはどこまで非常識に強運なのですか」
非常識に強運って、褒められてるのかけなされてるのかイマイチよく分からん。
「強運なのは確かだけど、これもフェリクシアさんの火魔法があってこそだったんだよ!」
「私の、あまり意味を成さなかった爆破魔法が、ですか?」
「確かに坑道入口は吹き飛ばせなかった。でも代わりに、山全体から煙が上がったじゃない。アレがヒントになったんだ」
「私でもお役に立てたのなら幸いですが、無理をなさっていませんか? 他の皆様の功績と合わせよう、ですとか……」
「いや、本当にフェリクシアさんの爆破魔法のお陰なんだ、説明するよ」
俺はまた砂地に移動して、さっきアリアさんにした説明をそっくりそのまま、繰り返した。
「なるほど、ノガゥア卿が仰りたいのはつまり、山自体が天然の濾過器になっていて、そこに引っかかったものが成長する、と」
「おぉ、さすがフェリクシアさん言い方がもの凄く筋が通ってる」
「いえそんな……それで、そのように引っかかる可能性が地下にもあり、この度の発掘に繫がった、ということですね?」
「そう、全くそう! 山が単なる塊じゃなくて、実は隙間がある、って事が分かったから発想できたんだ。だからフェリクシアさんのお手柄なんだよ」
「その手柄は、どうかノガゥア卿が全て総取りなさって下さい」
一瞬俺はピンと来なかった。手柄……という言葉を何も考えず使っていたので、中身を考えていなかったからだ。
手柄となれば、掘り出した物が物なので、国王陛下に直接報告に上がる事は、まず間違いない。その時、誰が功労者か、って事にもなる。
つまりその時の功労者に、私を含めないでくれ、と、フェリクシアさんはそういう事を言っている。少し時間が掛かったが理解出来た。
「フェリクシアさん、もし俺に遠慮してるんだったら、その必要は無いよ。そもそも俺のタイプじゃない、全部自分のにしてしまうってのは」
「ノガゥア卿のご性格は、そうでしょうね。ただ、私が国王陛下の御前に出しゃばるなど、あって良いことではございません」
「……何か深い訳がありそうだね。もし無理だったら無理って言って欲しいけど、理由を聞かせて欲しい。陛下を避けてる様な、その理由を」
俺がはしゃぎまくってた一方で、フェリクシアさんは沈痛な面持ちだった。
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