第24話 国王陛下の存念と、英雄という名の国家寄生虫の意地について ~第100番坑道着工~
暑いですね、皆様お気を付け下さいm(__)m
フライスさんから、どこに着けましょう、と言われ、俺は身を乗り出して山肌を観察する。
しかし、パッと見た限りの目の前には、想定していた「ぽっかり入口」は無く、ひたすら山肌が露出しているだけだった。
「ヒューさん、100番坑道の場所は、ここいらで間違い無いんですよね?」
「恐らく。100番は山体が凹んだ所に掘られた穴、現在の地形とも一致しております。坑道入口が崩れたのやも知れません」
「フライスさん、その凹みの辺りに着けて下さい」
御者席のフライスさんに言うと、フライスさんから
「平地に入ってからどうも揺れが消し切れていないので、停車するまでは座席に座っておってください」
と注意が入る。揺れてたっけ?
素人に分かる領域では無さそうだが、プロが言うんだから従った方が良い。俺は乗り出した身体を席に収めた。
「ねぇシューッヘ君、100番にしたのって、何か深い理由があるの?」
「理由? あー、なんで1から395番もあるうちの100番にしたかって事?」
「ええ。数が大きい方が、廃坑になってから時間が短くて有望だと思うんだけど……」
「俺もそれは考えたんだけど、的外れだった。1番と395番で、3,000年前と2,900年前、ぐらいの差しか無いんだって」
「えぇー……王様には悪いけど、それ完全にハズレ領地よね。もっと言えば、ゴミ……」
アリアさんの表情がみるみる怒気を孕んでくる。
迫力が凄いが、アリアさんには笑顔でいて欲しい俺である。
「実は、俺はこの措置に意外と納得してるから、アリアさん俺の代わりに怒らないでね」
「えー、だってこんなあからさまに使えない土地しかもらえてないのに子爵って、あり得ないじゃないの」
「普通の子爵ならね。納税とかあるじゃん? けど、英雄ってさ、国からお世話になることはあっても、支払う義務が無いんだ」
「どういうこと? 英雄様は特別、って聞いてはいるけど、何が違うの?」
うん、このキョトンと「それなぁに?」みたいな顔、俺好きなんだよなぁ。
「英雄をもてなす――これが、英雄に対する接遇・礼儀の基本なんだって。だから当然、英雄の領地から税金なんて取らない。
それを前提に考えれば、そもそも税金の元になる『何か』を何も生めない、ただデカいだけのお荷物な土地でも、広い土地だからと英雄扱いとして義理は立つ。
けど最初に戻るけど、英雄は納税しない。そんな英雄の領地が、本来凄い納税額になるような凄い産物を生んだら? 国としては税金入らなくて、もの凄い損だよね?
だから、納税の余地がある土地を与えちゃうと、規模によっては国益を害する事にもなる。つまり、不毛の地を与えられたのも国レベルでは十分深い意味がある事なんだよ」
「鍵になるのは税金なのね。それを聞いたら、王様に怒れる気持ち、無くなっちゃった。
アレ? でも、魔導水晶がもし掘り出せて、しかも規模もある程度まで行ったら、やっぱり国としては損じゃない?」
さすがアリアさん、こう言う難しい話にはしっかり食らい付いてくれる。
俺自身も考え込むタイプだから、話のテンポが合う感じがとても心地よい。
「そこは、王様次第かな。新たに掘り出された魔導水晶は全て国有にする、なんてお達しが出たら、税金どころじゃなく全損だしね。
多分だけど、ここから魔導水晶が出たら、品物は国有にした上で英雄費の自由度や規模が上がるとかかなぁとは思ってる。
今時点でも、俺が買う物食べる物、全部国の『英雄費』って項目で出てるんだけど、シンプルに言えば国家財産の寄生虫だからねぇ俺。
実質が寄生虫でも、英雄って冠が付くだけで駆除不可だし。ただ寄生虫側にも意地があるから、もらいっぱなしにはしたくないって思ってる」
ちょっと熱く語りすぎたかな、と思った。けど、アリアさん緩い笑顔で俺の事をじっと見つめてくれていた。
「じゃあ、寄生虫な英雄さんのお嫁さんになったら、あたしも寄生虫になっちゃう?」
ちょっと意地悪そうな笑顔をするアリアさん。そんな眼差しも可愛いな。
「お互い有益な寄生虫になる為にも、魔導水晶、掘り出そうね!」
「あーっ、はぐらかしたー」
ぷーっと頬を膨らませるアリアさんに思わず俺は声を出して笑ってしまった。
と、馬車が停車してガクンとなる。やっぱりブレーキは難しいらしい。
「地図から言えば、この先真っ直ぐ20レア程の山肌が、100番坑道の入口位置になります」
御者席の情報では、目の前に見えるそこそこ切り立った山に入口があるはずだが……20メートルの位置で見えない。
こりゃ本格的に崩れてるかもなぁ。入口だけならまだ何とかだが、全部崩落してたら、まさにどうしようもない。
俺は馬車の後部から下りて、山肌に近付いていった。俺の後ろをアリアさんも付いてくる。
「うーん、ここの範囲は、なだらかな土砂になってる。山体が崩れて、覆い被さっちゃったかな」
左右の山が凹みっぽくなっているのに、中心部だけ変に前に出て来ている。
恐らくこの部分辺りが100番坑道の入口に違いは間違いないだろう。
100番は、地理的にまだ分かりやすいので特定が出来たが……
他の、直線の山肌部に掘られた坑道が崩れていたら、そもそも探しようが無いぞこれ。
「シューッヘ君、きっとここなのよね?」
「うん多分。入口だけ塞がってるなら俺ラッキーだよ」
「でも、どうやって入口の土砂をどけるの?」
「まずはそこだよなぁ、まぁ先に陣でも取りますか」
翻って馬車の方へ戻る。
馬車では、フェリクシアさんが中心となって、土のう袋やスコップなどの掘り出し用品、更に水などの入ったリュックなどを次々下ろしていた。
地形的に木陰を作る木が全く無く、砂漠からの吹きさらしの風で暑い。
「ヒューさん、アジャストの音量調整、教えてもらって良いですか?」
フェリクシアさんとフライスさんに指示を出していた、現場監督なヒューさんに聞いた。
「アジャストの音量は、術者の意識に従います。大きく広く、と思いつつアジャストを用いれば、その様になります。逆も然りです」
なるほど、意識に従うのか。俺の自由度100%な光と、操作感は似ている感じがする。
どれだけアナログな意識が通るかな、試しにやってみるか。すごく曖昧な指示。魔法式側はどう解釈するのかな。
[ローリス王城の中に静かながらハッキリ聞こえる程度の告知音を伴って アジャスト]
アジャストの名を口にした瞬間、空の上の方で強烈にけたたましいクラクションが鳴った。耳痛い……。
***
「さて会議です。立ち話だけど。坑道入口に土砂が覆い被さっています。物理でも魔法でも、解決出来る方法を思いついた人、発言を」
アジャストのお陰で、鉱山全体が少し薄暗く、灼熱の砂漠の太陽をかなり和らげている。
いよいよ着工、という頭の部分で既に引っかかる。幸先が良くない。これは苦労しそうな、嫌な予感がする。
俺が発言を促したところ、ピッと勢いよく手を上げたのはフェリクシアさんだった。
「魔法要素を流し込めるだけの小さな穴を開け、そこから十分量の魔法要素を内部に放出、その後炸裂させるのはどうでしょう」
「炸裂ってどんな感じになるの? 今回のケースだと」
「あくまで予定ですが……坑道内に十分に広がった魔法要素を、全て一度に火の要素を持たせることで、爆発をさせます。
すると、中の圧力が高まって、蓋になっている土砂は押され、吹き飛ばせるかと」
なるほど、この作戦はガスに喩えると俺にとっては分かりやすい。
可燃性のガスを隙間から流し込んで、坑道内に十分行き渡ったところで着火。
ガスは大爆発を起こし、坑道を蓋してる土砂は吹き飛ぶ。良いことだらけの様だが……
「今のところ、坑道内の奥行きの情報が無い。つまり、どれだけの量の魔法要素を流し込めば十分な火力になるかが分からない。
もしフェリクシアさんがこの作戦を行った場合、『これ以上は狭さ限界に達した』とかって、分かる?」
「まず分かるかと。100%では無いですが」
「了解、そしたら今回の100番坑道はその作戦で行こう。実質爆発物を扱うから、坑道が内部で更に崩落する可能性もある。
けど、あくまでここは『395本の中の1本』に過ぎないから、気軽にやってね、フェリクシアさん」
「はい! 可能であれば坑道は破壊せず残せる様に努めます!」
フェリクシアさんばかりに仕事させるのは悪いな……魔力量だけなら、俺も随分あるし。
「フェリクシアさん、その作業って俺も手伝えるかな? 魔力だけは無駄に持ってるみたいだから、フェリクシアさんの助けになれればって思うんだ」
「それはありがたいお申し出ですが、実際に困った際にのみお願い致します。メイドが主人を使うなど、極力避けるべき事態です」
う、うーん。フェリクシアさんの『メイドは斯くあるべし』みたいな縛りがキツいな。
まぁ今のところそれが害になる感じでは無いので、本人にはとやかく言わないことにする。
これで土砂部への攻めは決まった。
ただ……小さな穴、というのがちょっと問題だ。
「早速やってみるとして、魔法要素を流し込む穴はどうしようか。スコップでも、大きめだけど掘れるは掘れるけど」
「アレよね、圧力! 穴が大きいと爆発の時に穴から逃げる圧力が大きいから、土砂を吹き飛ばせないかもってことよね」
食い気味に俺の独り言に突っ込んできたアリアさん。
今のタイミングは、絶妙と言うよりはやはり食い気味で、俺の方がちょっと「おっ」ってなる。
「さすがアリアさん。……にしても何でそこまで早く分かったの?」
「えっ? 坑道の空洞な所とかもろもろ、蓋したお鍋で考えてたのよ。蒸気口が大きすぎたら、突沸しても蓋飛ばないなーって」
「シューッヘ様。多少掛かりますが、魔法的解決法がございます」
俺とアリアさん、更にフェリクシアさんの視線が一点に集中する。勿論、ヒューさんの目に。
「魔法で、どうやって解決しますか。ヒューさん」
「土質にも寄りますが、小さな通気穴を『土魔法で』作ります。現にある土砂が使えるので、わたしでも何とかなりそうです」
「なるほど、そうか土魔法は土があれば、もうその造作の範囲内か」
これは俺にとっては盲点だった。掘る事、爆発などで吹き飛ばす事、その辺りに固執しすぎていた。
「もっとも、これもやってみなければ分かりませぬ。固めるはしから土が崩れる事もあり得ます」
「少なくとも俺の考えよりよっぽど優れた方法だと思うので、是非お願いしますヒューさん」
「かしこまりました。本当に小さな穴ですので、土砂が連鎖して大規模に崩れることは無いでしょう。近くでご覧になりますか、シューッヘ様」
俺は二つ返事で、歩き出していたヒューさんの後ろに付いた。
ついでにアリアさんも付いてきた。その後に、フェリクシアさん。まさしくゲームのパーティーみたいな歩き方だな。
「では、念のため地面と接する一番下に作りますのでご覧になっていて下さい」
背の高さの土砂に手を付いているヒューさんがそう言った。当然俺たちの視線は下に集中する。
と、音はしないんだが、ポコッ、て感じで土砂に小さな穴が空く。何だかアリの巣穴にでも入るみたいな極細の空洞。
それが、僅かずつ奥へと進んでいく。なんかかわいい穴の空き方だな。
よくよく目を凝らして見てみると、土は消えた訳では無く、穴の左右と天井に押し固められている。
地球時代にテレビで見たっけ、トンネル作る時には天井と壁とを造成しながら進むって。まさにそんな感じ。
ヒューさんは、立って土砂に手を当ててはいるものの、それ以外は普段と変わりない様にしか見えない。
「まだしばらく掛かるかと思われます。穴が貫通しましたらお伝えしますので、自由にお過ごし下さい」
俺とアリアさんは顔を見合わせたが、ちょっとこの場を離れる事にした。
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