第19話 休日って感じのデートって感じの ~俺には「デート」と「出掛ける」の差が分からん件~
今日はアリアさんとの初めてのデートの日。
昨日特に行き先とかを話し合っておらず、俺自身オススメスポットとか分からんので、アリアさん任せにするつもりである。
俺自身、まだこの街で行けた場所の方が少ない。王宮の中以外だと、生活者ギルド、イリアドーム、図書館。その位だ。
アリアさんの活動領域は、元々は生活者ギルドの方だから、ここから徒歩で数十分掛かる、ちょっと離れた所。
その辺りにもきっと、面白いお店とかあるんだろう。元々のアリアさんの生活圏に行くのも楽しいかも知れない。
もちろん、アリアさん自身が望まない事はしたくないので、何処へ行くかは俺がどうこう言わないでいるつもり。
そろそろ時間だから、アリアさんが来てくれるはずだ……
と、ドアがトントン、っとノックされる。
「アリアさぁ……あ、す、すいません」
「ノガゥア卿、本日は護衛を担当致しますアルファです。先日はお助け頂き、ありがとうございました」
「アルファさん! 良かった、もう捕らわれてないんですね。あれ、護衛? ですか?」
「はい。昨日の侵入者は、金で雇われたならず者ですが、カイエル子爵と繫がっているようでございます」
「カイエル子爵……って、確か叙爵の時に王様に目を付けられてた……」
「ノガゥア卿と同じく鉱脈を下賜された貴族にございます。ノガゥア卿がどのように鉱脈から掘り出すか、その情報を盗みに来たようです」
うーむ、昨日の今日でデート、と浮かれるのはマズかったか?
俺自身、明日からは鉱脈に掛かりっきりになるので、せめて楽しんでから行きたいと、そう思っただけなんだが……
「護衛は、あくまで影として付き従います。私の存在が表に見える事はありません。ご自由に行動なさって下さい」
「はぁ……あ、アリアさんー」
アリアさんが向こうの方で、ちょっと隠れるようにしている。手を振って、呼び寄せる。
「今日は護衛が付くんだって。それでも大丈夫?」
「うん。昨日襲撃されたばっかりだもんね、アルファさんが護衛なら、心強いね!」
良かった、それ程悪印象では無さそうである。
来てくれたアリアさんは、髪を一つに結び、いつものパンツとシャツのスタイルより少しガーリーな白シャツを着ている。
こう、なんて言うんだろうな、首から胸元に掛けて、ふわふわとしたシルエット。非モテだった俺に、そのデザイン名を知る由は無い。
あんまりアリアさんが気合い入ってたらどうしよう、なんて思っていたが、ちょっとの変化だった。俺は安堵した。
***
「ここのクレープ屋さんがね、あたしの行きつけだったのよ、ギルド勤めの頃の」
「よくうちに来てくれてたもんね、アリアちゃん。でも、もうすぐ遠い身分になっちゃうんでしょ? 忘れないでねうちのこと」
「忘れない忘れない! それに、そんなもうすぐじゃ、ないと、思う……よ?」
と、俺に女子2名の視線が飛んでくる。何と返すのが正解か分からん。
すぐですよ、も違うし、まだまだ先です、も違う気がするし。
「もう少し王国に貢献できる、一人前の貴族になれたら、かな」
幾ら貴族だからと言っても、実質ニートでは、好きな人を養うにも限界があろう。
「あらまぁ、外国から来たってのに国の事を考えるなんて、偉い人は違うわねぇ」
「いや単に、それしか道が無いって言うか……」
「私なんて、国にどうこうなんてせいぜい税金収める位しか出来ないからね。直接どうこう出来る身分は、やっぱり違うわ。ねっ、アリアちゃん」
俺に向いていた矢印は、またアリアさんの元に戻った。
ガールズトークに巻き込まれると、何を言って良いものやら分からなくなる。非モテ地球男子の弱点だ。
「もらってもらうにしても、アリアちゃんもさぁ、もう少し色気を出さないと。あんまり仕事人間じゃ、旦那さん他行っちゃうわよ?」
「シューッヘ君はそんな浮気者じゃないもん。そこはあたし、絶対見間違えてないって思う」
「あらそう? そんなら良いんだけどねぇ。貴族様だと、何人も娶るじゃない。第一夫人になれるの?」
「それは、うーん……わかんない。シューッヘ君次第だし」
と、また俺に視線が来る。正直都度何が正解か分からん問いが突きつけられる感じで、生きた心地がしない。
「ま、アリアちゃんの事だから、上手く尻に敷くんでしょ? だったら第一夫人も夢じゃないじゃない」
「もー、リアンさんったらー。あたしそんなにキツい女じゃないよ? か弱い乙女だもん」
「アリアちゃーん、あんたがか弱かったら、世界中の男達はどれも女々しくてどうにもなんないわよ」
あはははっ、と笑い合ってる。まぁ、ここは被弾しないよう黙ってクレープを食べてる事にしよう。
「ここでお昼にしよっか。何だかあたしの昔話する様なルートになっちゃってごめんね?」
「うん、それは良いよ。アリアさんがさ、みんなに愛されてるんだなぁって分かって、変な話だけど俺、気分良いんだ」
そして今、アリアさんの笑顔がまぶしい。
昔に戻って気持ちがアップしてるんだろうなぁ、微笑みすらもまぶしく感じるほどだ。
「そっか。シューッヘ君は見たいところとか無い? もし場所分かれば連れて行ってあげられるんだけど……」
言われて考える。靴は見てみたい。俺はこの世界の靴にはまだご縁が無い。ずっとスニーカーだ。
見る感じみんな、それぞれの革靴の革靴を履いている。さすがに歩き心地がスニーカーには勝てないかなぁ。
「靴屋さん。俺、この靴しか持ってないんだよね。濡れたり汚れたりした時に履ける、予備が欲しいなとは思うなぁ」
「靴屋さんね、OK。あたしのギルド繫がりで、靴の専門店やってる人がいるから、ご飯食べたら行きましょ!」
「ありがとう、アリアさん」
そんな事を話しながら、俺はおしゃれカフェ風のレストラン? に入った。
今はまだ11時の頭くらいだと言うのに、そのカフェはかなりの人気で、中で待つ事になった。
内装は白をベースにした、レストランというよりはカフェ風? ソファー席は手前側半分には無くて、丸いテーブル席が多い。
壁とガラス戸で仕切られた奥のスペースには、大きなテーブルがあるのが見える。既にそこにもお客さんはいる。
白いペイント壁と、丸テーブルに……何だか海辺のカフェですって言われたら、思わず信じてしまうかも知れない。
「ここのパスタが絶品でねー、ここのパスタ食べちゃうと、他のパスタが物足りなくなっちゃう。その位」
「へえー、アリアさんが言うなら間違いなさそうだね。アリアさん女子力高いからなぁ」
「何その女子力ってー」
アリアさんがさも「なにそれ」顔で、女子力、という言葉を笑っている。
女子力は地球でも比較的最近の言葉だ。訳しきれないかと思ったが通じた。けど意味は通じてない模様。
相変わらず女神様翻訳の不可思議な部分でもある。
「女子力ってのは、女の子らしさって言っても良いんだけどもうちょっと幅広くて、料理出来る男子に向けて『あいつは女子力が高い』って褒めるシチュエーションで使う事もある言葉なんだ」
「シューッヘ君のいた世界だと、男性が料理とかは普通じゃ無かったのかな?」
「そう、昔はね。俺の世代になると、その考え方は古いって感じで、男子も料理くらいは出来る人多いけど、俺は苦手だなぁ……どうしても鍋1つにしか集中出来なくて」
「あー分かるそれ。ギルドの料理講座、ローリスでも男性に特に人気でさ、『同時に調理する段取り』って項目が男性には一番難しいって言われてた」
「同時に調理する段取りかぁ。俺もそれだわ、鍋2つ同時に火に掛けた時点で、頭がパニックになる」
「うんうん、それでも1つの鍋なら何とか出来るなら、そこからの応用は練習次第だから大丈夫だよっ!」
THE・励まし。さすがギルドで使っていた『雰囲気』である、特に特別な言葉では無いのに、励まされてる感が凄い。
「あ、席空いたみたいだよ、行こっ」
アリアさんが先導に立って、歩いて行く。
その瞬間、ふと感じた。俺の横を誰かすり抜けていった?
広いスペースで他に人はいないのに……と、アリアさんを見失わない様にもしつつ駆けていく。
ふと席までの途中の、窓寄りのスペースに、一瞬だけ姿が見えた。足だけ。メイド服姿の、足下だけが。
「あれ? シューッヘ君どしたん?」
「んー……大した事ではないんだけど、この中にまでしっかりアルファさん、忍んでるね」
「えっ、どこどこ?」
「探し当てちゃうとアルファさんの仕事の妨害になっちゃうからアレなんだけど……窓辺の隅にいるよ」
アリアさんが、さもそっちは向いてないですよみたいな感じで、振り返って厨房を見る感じにしながら窓辺の角の辺りをチェックしている。
「いないよ?」
「近く通ったから分かったんだよなぁ俺も。俺からだと正面になるのに、全然見えない。場所移動したのかな」
その位『まるで見えない』のがアルファさんの隠密術なんだろう。さっき一瞬見えたから居るのは確定なんだが……。
「まぁさ、今日はアリアさんと遊ぶ日だから、護衛も見えなかったことにする」
「そうだね。見えない護衛さんが探し当てられたら、護衛する側にとっても迷惑だもんね」
「それもそうだけど、アリアさんとのおしゃべりが楽しめないじゃん」
俺のその言葉が存外嬉しかったのか、アリアさんは分かりやすくニコッとしてくれた。
「良いこと言うじゃん、シューッヘ君! じゃご褒美に、ここのお会計はあたしが持つので、スペシャルランチ頼も?」
「スペシャルランチ? どれどれ? あ、2名様からってメニューなのね」
開いて置いてあったメニューブックに、小さく「2名様から」とある。
おひとりさまを問答無用で排除に掛かる、リア充店によくあるパターンだ。
「実はさ、このメニューだけは初めて食べるのよ。でも美味しそう!」
「どれどれ、どんなメニューかな」
本日の冷製スープと前菜
野菜サラダ
海魚のアクアパッツァ
□□□の◆◆◆◆
☆☆☆☆スパゲッティー スープ仕立て
プリン
食後のお飲み物
……うーん、読めない文字のは、この世界独特の物か、もしくは地球にあったとしても俺が見たこと無いものかも知れない。
アクアパッツァまではギリギリ知ってる、それだから、これがフルコースに近い物なのは分かる。多分読めないのが多いのは肉類だろう。
肝心のパスタが、何のスパゲッティーか分からないが……アリアさんに聞けば分かるかなあ。
「アリアさん、アクアパッツァの下のって、なんて書いてあるの?」
「ん? あーなるほど、これは読めないのも無理ないかも知れない」
「読めない続きで言うと、スパゲッティーが何のスパゲッティーかも読めない。とにかく凄いボリュームはありそうだね」
「ボリュームかー」
アリアさんが苦笑いの様にクスクスッと笑っている。
「このお店ってね、量が凄い少ないって事でも有名でさ。王宮食堂のあの量に慣れちゃうと、半人前位の量なのよ」
「え、そうなの? 少なめもかなり本当に少ないのか。あーでもその分色々食べて楽しめるんだ」
「そうそう、だからある意味女子向けのお店かも。あ、読めないところの話だったわよね」
俺は無言で頷いた。
「まず、最初に指してくれたのは、ボルトヘッドブル、っていうお肉で、屋獣肉なんだけど臭みが無く柔らかくて美味しいの。高級食材ね。
そのお肉を、濃いめの味付けなとろみのあるスープでじっくり煮込んだのがコレで、プロクス・ド・ボルト。お肉がほろほろで美味しいんだって」
「ふむふむ、煮込み料理系なのね」
「そうね。それで、スパゲッティーの方だけど、これは昔の寺院の名前が付いていて、ダクリュオンスパゲッティーって呼ばれるものね。
チーズの大きな塊を炙って溶かして、そこにスパゲッティーを絡めるの。今日はスープ仕立てだから、どれ位チーズを絡めるかで味の調整も出来るわ」
……んー、シチューと、パルミジャーノ・レッジャーノに絡めるタイプのパスタ?
何となく想像は付いたんだが、二度見しても相変わらず女神様翻訳はその部分だけ機能していない。
「読めないと不安かもだけど、このお店のトップメニューだから、絶対美味しいから安心して!」
「うん、じゃアリアさんに任せた!」
俺の言葉に、アリアさんがパッと華やいだ笑顔を返してくれた。
いつもありがとうございます。ご評価、本当にとてもありがたいです。
より一層頑張りますので、是非この機に「ブックマーク」といいねのご検討をお願い致しますm(__)m




