第18話 世紀末風味漂う悪党を撃破 ……って、そもそも王宮兵士は格好だけで仕事してないのか?
「アリアさーん、良いかーい?」
廊下を歩いているアリアさんを見かけて声を掛ける。振り返ってくれた姿は、いつものアリアさんである。
「ん? どしたー?」
「明日から採掘で、俺の方は何とか初手は決まった感じなんだ。共有しておこうかと思って」
「あら、さすがシューッヘ君ね、仕事が早いわ。じゃ、どこで話す? あたしの部屋? それともあなたの部屋?」
言われてちょっとドキッとする。どちらかの部屋に選択肢が絞られている。けれどそれ自体は合理的だ。
俺が話す内容は、これからのノガゥア子爵の優位性を多分に孕んだ内容だ。他の貴族に知られる訳には行かない。
俺はちょっと考えてから、俺の部屋に来てもらうことにした。
アリアさんの部屋は、先日行った時もまだ片付いてなかったから、俺が行くと迷惑になるかも知れない。
「じゃ、俺の部屋に来てもらって良い? 内容は部屋で話すね。あ、でも今用事とかだった? 大丈夫?」
「うん。今遅いお昼を終えたところよ。なかなか入んなくてね、さっきまでのでさー」
「あはは……俺も軽食がギリギリ入った位だよ」
アリアさんには、イリアドームでは随分心配を掛けてしまった。
ヒューさんがよく「命を軽々投げ捨てて俺に尽くす困った人」みたいに思っていたが、俺もどっこい大差が無い。
これでは周りに居る人、特に……俺の事を思ってくれてる人にとっては、この人いつ死ぬかみたいでたまったものじゃ無いのかも知れない。
部屋の前まで来ると、誰かが部屋の中にいる様子だった。メイドさんかな? 中からガサガサ音がする。
俺は気にせずドアを開けた。するとそこに、見慣れぬ小柄な男(世紀末風味)が、俺の戸棚をガサガサ漁っていた。
「なっ、お前誰だ!」
「ちぃ」
その男は俺の横を抜けようとしたが、後ろにいたアリアさんの魔法で部屋に押し返されていた。
アリアさんが廊下から魔法を行使した事に反応したのか、甲高い音でフィー、フィーと繰り返しサイレンが鳴る。
「ち、しくじったか」
その男は俺に向けて、投げナイフを飛ばしてきた。殺意満点、故に避けない。
殺意がしっかり載ったナイフは、俺の自動・完全結界に見事に弾かれて床に落ちる。次に火魔法も来たが、同様に寄せ付けない。
敵は焦りが増してきたのか知らないが、俺が近付くとじりじりと位置を後ろに下げていった。
俺も俺で、殺気立った攻撃だから安心して受けられるので、距離を詰める。
普通は殺気には逆の、逃避的な反応が返ってきそうなところ、俺は詰め寄れるからな。有利だ。
と、俺が気配に気付いて後ろを振り向くと、アリアさんは既に室内に入り、廊下にメイドさんが来ていた。
当然、いつもの「ヤバい」メイドさん達の一人である。
「こんな所に入っちゃあ、ダメなんですよぉー」
アレは闇魔法のイオタさんか。と、確かめている間もなくイオタさんが何やら魔法を唱える。長い詠唱だ、魔法名だけでは無かろう。
詠唱が済むと、イオタさんは両手をパッと上に投げ上げる様にした。それが合図か、何故か床に人一人分くらいの黒い影が浮かぶ。
さすがにその影の近くは危なそうなので、俺もアリアさんに合流して部屋の壁寄りへと動く。
すると、影の中から、骸骨剣士、いわゆるスケルトンが突然現れた。5つあった影の中から、各1体。5体のスケルトン。
うわっと思ったが、スケルトンはすっかり乾いているのか、変な臭いがしたり、なんか垂らしたりはしていない。
ここは寝室兼居室である。臭いが残るのは嫌なので、幸いであった。
「行っけぇ私の軍勢ー!」
イオタさんの号令が掛かったのを合図に、5体のスケルトンが一斉に侵入者に向けて襲いかかった。
敵も然る者で、最初に来た1体は、体当たりで吹き飛ばしていた。けれど、次から次にのしかかってくるスケルトンに、完全に動きを封じられた。
更にスケルトンは、たとえバラバラになっても復活する模様で、吹き飛んであちこちの関節から砕けたスケルトンも、再びいつの間にか立ち上がっていた。
「ぎゃぁぁ、離せ、離せぇ!」
「離す訳ないじゃーん、あんたドコの誰に頼まれてここへ来たのよ」
「は、離せ、ぐっ、こ、この」
「暴れても無駄。あんまり暴れると、瘴気に満ち満ちた骨が刺さるよ~?」
その言葉に、ジタバタしていた世紀末風な侵入者は押し黙り、動かなくなった。
「ノガゥア卿ー、どうされますかぁ。うちらで始末しちゃって良いですかぁ?」
「そ、そうだね。俺、慣れてないから任せたい」
「あいあいさー。じゃ支度室に持ち帰って色々吐かせますからぁ」
5体のスケルトンにのしかかられていたと思ったが、いつの間にやらスケルトンは分解と結合を図った様で、侵入者はたくさんの骨に縛られる様になっていた。
「あ、イオタさん」
「あー、まだ何かぁ?」
「侵入者が来るのって初めて? それとも、俺が知らないだけで、これまでもたまにはあったりしましたか……?」
「あたしが始末付けるのは初めてですけどー、他の時間帯で結構来てたってログありましたよ、主に寝てる時とか」
さ、さすが特殊部隊なメイドさん達である。俺が知らない間に、侵入者は複数あったが、俺が知るまでも無く排除されていたらしい。
「あ、骨の残骸はほっとくと消えるんでー」
「あ、はい」
手をひらひらさせながら、骨に絡み取られて塊になっている侵入者を、ズーリズリと引きずりながら歩いて行く。
「メイドさんが防諜とかって、マジだったんだ」
「シューッヘ君、やっぱり狙われてるのね。何を探してたのかしら」
俺は、入口近くにある砕けた骨の欠片は無視して扉を閉めた。
まぁ骨の欠片は少し気になるが、そのうち消えるらしいし、この際は無視しておこう。
「取りあえず、座ろっか。あ、グラスもう1つ出すね」
「あ、あたしやるから良いよ、座ってて」
動きはアリアさんの方が素早かった。俺の部屋の予備のグラスを棚からパッと取ってきてくれた。
「じゃ、ともかくハーブ水でも」
「ありがとー」
平和である。実に良い。ついさっき変なのに襲撃受けたとは思えない安楽さ。
これからも何かしらの襲撃とかは日常になるかも知れないし、相手が殺意にまみれてくれてた方が防御は効くから安心だし。
誘拐とかが寧ろ一番怖いかな、殺意が半端に低いから。生け捕り、うーん、反抗出来るだろうか?
ハーブ水を口にしつつ、俺はそんな事を考えていた。
「それでシューッヘ君、魔導水晶の件は進展あった?」
「うんそれそれ、今日の主題。ヒューさんが魔導水晶持ってきてくれてさ、実際に実物を使って、探知法をテスト出来たんだ」
「どうだったの? 地中にあっても探知できそう?」
「うーん、こればっかりは本番で通用するか分からないって部分が大きいかも。でも、距離を取っても探知は出来たから、意外と行けるかも知れない」
アリアさんが、やっぱシューッヘ君って凄いやっ、て、ボソッと言ってくれた。何だか嬉しい。
「ただ、その探知に使うのが、見た目ちょっと不気味なんだよねヒューさん情報だと」
「探知魔法が不気味? どういうこと?」
「俺が使ってるのが、純粋な探知魔法じゃなくて、魔力吸い取り系の、俺オリジナルになる魔法だから、かな」
「えぇーっ、オリジナル魔法なんて使えるの?! 属性の組み合わせじゃなく?」
「うーんどうだろ。俺の頭の中では、別に属性は全然気にもしてない。けれど分類すると、属性に分けられるのかな、ちょっと分からん」
「あたしその魔法見てみたいなぁ、どんな魔法?」
そこまで話して、俺は次の言葉に詰まった。そう言えば[マジック・ドレイン]は、疑いのアリアさんに仕掛けた魔法でもあった。
「う……ん。実はアリアさんは、俺から1回その魔法受けてる。詠唱とかはしなかったから、結果だけだったけど……」
「もしかして、あたしの魔力を吸い取っちゃったアレかな。シューッヘ君、気まずそうだけど……あの時はあたしも隠し事してて悪かったんだから、気にしないでね」
「ありがと。今は魔導水晶が無いから試し打ちは出来ないんだけど、実は魔導水晶については女神様からの反対を受けててさ」
「女神様の反対って……それじゃ、採掘自体しない方針かな?」
「いや、女神様とは話し合って、大型の物は避けようみたいな方針で何とか掘る事自体は許可してもらったみたいになってる」
「女神様が懸念すること……魔導水晶の軍事利用かなって思うんだけど、どう?」
「うん、ドンピシャ。特に大型魔導水晶を使って、大規模爆発を起こさせる代物ってのに、女神様は警戒なさっていたよ」
前のめりだったアリアさんが、ハーブ水のグラス片手に、ソファーに背中を預けた。
とさっ、という音が何だか軽くて、改めてアリアさんは華奢な女の子だよなぁとかって思ってしまう。
「女神様が仰る『大型』って、どの位の大きさなのかしら」
「重さで、30クーレムを超えるのをダメだって仰ってたよ」
と、アリアさんが何か驚いたのか、イスからズリッと落ちそうになっている。
「どしたの?」
「3、30クーレムが基準なの? そんな超大物がもし掘り出せたら、それこそ史上に残る大発見よ?」
「あれ、そうなの? 女神様が警戒される位だから、それ位は『比較的ある』のかなって思っちゃった」
ハーブ水に俺も口を付ける。相変わらずルトラの葉の入ったハーブ水は飲みやすい。
日本だと、レモン水とかがたまに喫茶店とかで置いてある所を見かけたけれど、ルトラよりはちょっと苦みと酸味が立ってて飲みづらかった覚えがある。
「んー、やっぱりシューッヘ君の魔法、見てみたいなぁ。あたしに、手加減して掛けてみてもらっちゃダメ?」
「手加減は幸い、この魔法は細かく出来るから大丈夫だけど……見た目かなり不気味らしいよ? あ、マギ・ビューで見てたら、の話か」
「マギ・ビュー使うと見えるのね。[マギ・ビュー]!」
……アリアさんはもう俺の魔法を見ることに意識が行っているようで、見た目の説明も聞かず早速マギ・ビューを使っていた。
「じゃ、どうしようかな、俺が離れればいっか……それじゃ、ここから魔法打つね」
俺は部屋の真ん中のソファーから離れて、ベッドの向こう側に立った。
そして、設定。アリアさん以外に魔力がありそうな物は何も無いので、ターゲットはやむなくアリアさんだ。
ドレイン魔法の出力としては、ヒューさんの「100分の1でも結構吸われた」発言があったから、念のため300分の1に設定。
アリアさんの現状魔力の300分の1を吸い取る……
[マジック・ドレイン]
俺が声に出すと、アリアさんはじっと見ていたが突然ひぁあああ、と声を上げて腕の辺りを手で払っている。
うん、やっぱりワームはキモい、という認識はこの世界でも共通の様だ。
「あうう、ごめんシューッヘ君せっかく魔法使ってくれたのに」
「見た目がね、俺自身は見えてないんだけど、ヒューさんから聞くだに『ワーム』だから、ちょっとねぇ」
席に戻ると、きゅっと両腕で身体を抱きしめるようにしているアリアさん。その両腕は、鳥肌である。
「ごめん俺もっと強く警告してた方が良かったな、アリアさんにはどう見えたのかな。思い出すのも嫌なら、いいよ?」
「こ、これが鉱山での主魔法なら、慣れないと……ち、丁度あたしの腕に、細いワームみたいなのが巻き付いたの。それで、口開けてガブッて」
「それで腕を払ってたんだね。ヒューさんにも似た感じでやってみたら、ヒューさんは5本のワームだったって」
「うわぁぁそれマジで? ホントに5本も? うわ、嫌だなぁ……」
うーん、「見えなければ良い」という問題であれば、マギ・ビューとかそれ系のを使わなければ済むんだが……
あの嫌われものの虫が部屋の中で隠れていると、その部屋の入るのすら怖い、という現象がある。あぁ地球の俺ですが何か?
それと同じで、見えなければワームはいない、という訳には行かないだろう。知っちゃった以上は……
「取りあえず、鉱脈ではあくまで山? に向かって魔法は放つから、味方の方には来ないはずだよ」
「うん、そうであって欲しい。あの『ゾクッ』とした感覚が、あのミミズ虫だと思うと……」
アリアさんが、あー、と叫びながら腕をガッサガサに粗く撫でている。それ位ワームは嫌悪の対象らしい。
うーん、迂闊にアリアさんに嫌な思い出を作ってしまったな。変な話はすべきで無かったかも知れない。
ただ俺としては、どういう方法で採掘にトライするのか、味方には知っておいて欲しかった。ただそれだけ。
それだけなんだけど、俺の中では結構重要な話なんだよな。味方には、知ってて欲しいんだ。
これは俺の勝手なエゴかも知れないけれど、味方に隠し事をしたくない。正直な俺の気持ちだ。
「これである意味、明日はまるまる空いちゃったんだけど、どうしようかね」
俺は特に何を意識するでも無く、そんな事を口にした。
「じゃさ、シューッヘ君……もし良かったらで良いんだけど、一緒に出掛けない?」
「一緒にお出かけ? うん、良いよ。何処行く?」
「うーん、ドコって決めてないけど、それじゃ嫌かしら……男の人って、ブラブラするの苦手な人多いからなぁ……」
「俺自身は、今までその……女性と一緒にどこかとか、経験が無いから、アリアさんに付いていくだけになっちゃうけど、良い?」
「シューッヘ君がそれで良いなら、あたしは全然良いよ!」
こうして、俺とアリアさんは初めてのデートに。……挑む、はおかしいよな、何だろう、単に、出掛ける?
アリアさんは、何だか嬉しそうにニコニコしている。うん、俺じゃよく分からないのでアリアさんに任せることにしたい。
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