第17話 魔導水晶観覧会 ~楽しく実験、但し掘り出し期限は王様が怒る前まで~
パッと見は紫水晶な魔導水晶。俺は試しに色々やってみた。
まず、針状になっている結晶から、ヒューさんの許しを得て、試しに一本もいでみた。パキッと音を立てて一本を取り外す事が出来た。
これをそれぞれ、大きな塊と小さな結晶に見立てて、試せることを試してみようという考えだ。
小さな欠片結晶を、その先端が見えるように握る。長さがそれ程ないので、握るというより親指と人差し指で強く摑んでいる感じだ。この状態で、魔力を流す。
流した魔力が、その結晶に吸われていく様な感覚は若干ある。ただ、すぐには色は変わらなかった。10秒くらい魔力を流し続けたらようやく、結晶の色が完全な透明になった。
俺の無駄の多そうな魔力放出なのに、この小さな、欠片の結晶ですら10秒掛けないと満タンにならない模様。塊の方はより一層たくさんの魔力が要るだろう。
更に俺は、赤外線から紫外線域までの光を、塊と欠片の両方に照射してみた。ただこれは無意味だった。可視光線と近縁領域では、変化は観測できなかった。
放射線を当てた際の変化は気になるが、放射線を扱う際に俺は絶対結界の中に入ってしまうし、ヒューさんに放射線浴びせてまで観察しててもらう訳にはいかない。
しかも俺自身放射線の専門家って訳では無いので、何か変化があっても「変化したなぁ」で終わる、無意味なトライアルになる可能性も高い。やめよう。
「うーん、難しい」
「試しにわたしも、その小さな結晶に魔力を籠めてみても良いですかな?」
「それは良いですけど、今多分満タンですよ? 先に放出が必要と思いますけど、簡単ですか?」
「ええ。魔導水晶から魔力を得る方法は確立していて、魔導線を偶数本接続するだけでございます」
と、机の上に置いた小さな欠片の色が、スーッと紫に戻っていく。僅か2秒程かな、入れるのは大変でも抜くのは確かに簡単なようだ。
アレ? ヒューさん手にも触れずに魔導水晶から魔力を持っていったの?
「ヒューさん、今のってどうやるんです? 手も触れずに、もう魔導水晶、中身空っぽですよね」
「先ほど申した魔導線を伸ばし、接続しただけにございます。シューッヘ様は、魔導線は扱った事が無かったでしょうか」
「無いですね、何度か単語としては、今日の教練でも出てきた覚えはあるんですが」
するとヒューさんが、空っぽになり紫となった欠片水晶をつまんで持ち上げた。うん、この持ち方が正しいよな、このサイズだと。
「魔導線と言うのは、魔力が行き来する通路にございます。今こうして手に持っておりますが、微細に見ると、魔導線が繫がった状態です」
「あれ、でもさっきヒューさん、手には持たずにその、魔導線? を繫げてませんでした?」
「はい。魔導線は、触れる様な近距離になれば身体が勝手に接続を作りますし、魔力を操れば離れた物と接続を作る事も出来ます」
ん? もしかして、この魔導線とやら……使えるかも。もう少し聞いてみよう。
「魔導線は、俺でも離れた物に接続するように出来ますか? ヒューさんくらい慣れてないと難しいですか?」
「多分お出来になると思います。そうですな……離れた物から魔力を吸収するイメージを持つと、身体が勝手にやってくれる事もあります」
言われて、それに近いことなら、したことあったなと思い出す。アリアさんの魔力を、地球のゲームにあった魔法の感覚で吸い取った。
でもアレだと魔法、じゃないのかな? それともあんな魔法はこの世界には無くて、実は魔導線って言うのが仕事してくれたのか?
「んー……試しに、というには悪いんですが、ヒューさんから魔力を吸い取ってみて良いですか。その時に魔導線がどう動いたか、観察して欲しいんです」
「お安い御用です。ただ、シューッヘ様の実力から考えるに、無尽蔵に吸われてしまうとわたしが枯れ葉になってしまうので、加減はなさって下さいませ」
枯れ葉。ヒューさんをカリッカリにしてしまう訳には行かないので、少しだけ吸う設定でやってみよう。
と、ヒューさんが[マギ・ビュー]の魔法名を唱えた。マギ・アナライズまでは行かないんだろうが、魔法的に観察してくれるのはありがたい。
吸い取る設定は、そうだなぁ……ヒューさんの現状魔力の、100分の1を吸い取る定義で。
[マジック・ドレイン]
俺は口に出して魔法を行使した。以前と同じように、ターゲットを意識してはいるが、手も触れてないし手のひらを向けるとかもしていない。
俺側に変化は特にないが、ヒューさんの側はどうだろうか。
「今、俺の勝手な魔法みたいなものを使いましたが、どうでしたか」
「これは規模によっては恐ろしい魔法になり得る発明ですな。もっとも、シューッヘ様の魔力量あっての事とは思いますが……」
ヒューさんがちょっと汗を拭うような仕草を見せる。
「どうなったんです? 因みにですが、吸い取らせてもらった魔力は、今ある魔力量の100分の1です」
「100分の1なのですかこれでも。随分とたくさん持って行かれてしまった感覚が強うございます」
「す、すいません。俺独自のやり方なんで、ミスがあったかも知れません。それで、魔導線は伸びたりしていましたか?」
「伸びるも何も。通常の魔導線は細い糸の様に観察出来ますが、シューッヘ様のはまるでワームの様な、太く自在に動く物が嚙み付いてくる様子でございました」
ワームと言うと……アレだ。ミミズの化け物みたいな。頭の代わりに口が付いてて歯がぎっしりって、キモさの代表格みたいなモンスター。
「何だか様子を聞くだに暴力的な感じですね。魔導線が、ワームっぽいんですか」
「左様です。見えた限り6匹の細めのワームが食らい付いてきたと思いきや、それらにぐっと魔力を持って行かれ、その直後ワームが消滅した。その様に見えました。
通常の魔導線ですと、身体から出た魔導線は身体に戻ります。勝手に戻るものなのですが、シューッヘ様のは消えてしまった。不可思議ながら、新たな別種の魔法と呼べるでしょう」
「新たな魔法……元ネタが地球にあるので、全然オリジナルでは無いんですけど、そうか、魔法ってこういう発見のされ方もあるんだ」
「魔法は、ある意味でイメージの勝負ですからな。10属性を組み合わせ、何をどう為すか。結果が同じでも人によって使う属性が違ったりも致しますし、まだまだ発見はございましょうなぁ」
魔法の発見……これ、魔導線より行けるかも知れない。
既存の魔法や、誰でも出来るっぽい方法だと、俺じゃなくても採掘が出来る。それはそれで国家としてはメリットかも知れないけれど。
俺としては。ノガゥア子爵としては、だな。あくまで採掘の方法は独占出来た方が、俺の独占権が働いて有利にもなる。
まぁもちろん、国王陛下が魔導水晶という「結果」だけでなく「採掘の方法」という『過程』まで要求なさったら、言わざるを得ないんだけれど。
ただ追試は必要だ。鉱脈まで行きました、まるで空振りでした、ではどうしようもない。
「ヒューさん、塊の方のを貸してもらえますか」
「どうぞ、こちらに」
「ありがとうございます」
受け取って、手のひらに挟んで一気に魔力を流す。アリアさんにも指摘されたが、俺は魔力放出にしろ魔法にしろ、手加減も出来ないし本気で掛かるって事も出来ない。
良く言えば自然体だが、調整が効かない魔法の使い方しか出来ないのは、それはそれでデメリットだろう。なので今回は、力んで一生懸命に魔力を出している、つもり。
「ヒューさん、魔力たくさん出てますか、今の俺」
「力んでおられるのは分かりますが……魔力を多く出そうと思われているのであれば、物理的な力を籠めてもあまり意味がございません」
ありゃ。外れた模様だ。
「もし魔力量を多く放出されたいのであれば、魔導線を増やすイメージを持たれると良いでしょう。
1本のホースから出せる水の量には限界がございますが、水源の水圧さえあれば、即ち魔法力自体が強ければ、ホースを10本に増やせば10倍の量出せます」
そうか、ここでも魔導線の考え方が役に立つのか。
今が1本だとして、新たに4本同じのを接続するイメージで……
「よく出来ておられます。くっきりした魔導線が5本、観察出来ます」
更に増やそうかと思っていたら、魔導水晶はみるみる透明になっていった。満タンでは、注入経路を増やしても入りようがないのでストップ。
さて、ここからだ。離れた距離からさっきの「マジック・ドレイン」を放って、俺の『魔法ワーム』が魔導水晶に食いつけば、実験は成功だ。
ヒューさんを巻き込むといけない。俺は部屋の隅まで移動した上でヒューさんには俺の後ろに立ってもらった。角にキュウキュウに詰めている。
目を閉じる。鉱山・鉱脈で同じ事をやるとすれば、地面の中など当然見えないんだから、目を閉じた状態と同じだ。
この状態で、単に「魔導水晶」という単語だけを意識して、マジック・ドレインを使う。ビジュアルイメージは、敢えてぼんやり思い浮かべる程度に留める。
[マジック・ドレイン]
俺が小声で発声をすると、俺の中に何かが流れ込んでくる感覚があった。
ただ、これが魔導水晶由来で無くてはならない。ヒューさんにワームが食らい付いていたらNGだ。
「ヒューさん、俺のワームの様子はどうなっていますか」
「数えるのが大変な本数のワームが、一斉に魔導水晶に押し寄せて消えました。既に魔導水晶は紫です」
「ヒューさんの方に誤って進んだワームはありませんでしたか?」
「幸いございませんでした。全てのワームはほぼ一直線に、魔導水晶に向かいました」
目を開ける。遠くに置いた魔導水晶、確かに既に紫のアメジストカラーに戻っている。
「シューッヘ様のご様子はいかがでしょう。お身体に変化はございますか?」
「良くも悪くも、変化はないですね……目を閉じてる時、ちょっとだけ『何か入ってくる感覚』があったものの、一瞬でした」
「うーむ……シューッヘ様にもし継続的にその『入ってくる感覚』があれば、探知機能ともなりましょうが……一瞬であると難しいか……」
ヒューさんもヒューさんで、俺の考えをしっかり分かってくれて考えてくれている。
そう、もっとハッキリと、そして継続的に、「何処から」「どれ位」吸い取れているかが分からないと、魔導水晶の発見は厳しいかも知れない。
もっとも、単に「あるか無いか」の探知として考えれば、この「入ってくる感覚」だけでも判断は付く様にも思う。
今はまだ、395本の『完全な廃坑』に挑むという段階だから、あるか無いかだけの判別でも、ひょっとしたら問題無いのかも知れない。
反応が少しでもあれば、ともかくこれまで掘られていなかった部分を掘りまくるだけだ。
わずかな欠片であっても発見できれば、陛下への報告材料としてはそこそこ十分とも言えよう。
「取りあえず、このワーム作戦をひっさげて、初鉱山に挑んでみたいと思います。あ、女神様にも伺ってみよう」
ふと思いつき、俺は女神様にこの作戦の是非などを伺ってみることにした。
「女神様、宜しいでしょうか」
相変わらず今部屋に居るのは『聞こえる人』だけなので、普通に口に出して話しかける。
『魔導水晶ねぇ。そんなの掘らされるくらいだったら、他国へ行っちゃった方が良いわよ?』
開口一番女神様が仰ったのは、魔導水晶へのネガティブな反応そのものだった。
「女神様としては、魔導水晶を新たに掘る事には反対ですか?」
『そうね、反対。あんたの今の立場では国王に逆らえないから仕方ないんだけど、そもそも新規の魔導水晶を何に使うのかってね』
「そう言えば考えてなかったな。国王陛下は何に使われる予定なんですか? もしお分かりになれば」
『もし、どころじゃなく、あの国王、存念がダダ漏れだからよく見えるわよ。魔導水晶の兵器化。これよ』
「あーやっぱり……アリアさんと話してたんですよ、軍需産業になるのかなぁみたいな事は」
『小型の、大した実用性の無い魔導水晶までだったら、ありかを教えてもあげる。けれど、大きいのはちょっとね』
「その『ちょっとね』は、単に推奨しない、ですか? それとも禁止、でしょうか……」
女神様に禁止されてしまう事は、さすがに国王陛下の命令でも俺には出来ない。
『まぁローリスって国を仕切る国王の意志は、それはそれで尊重しないといけないから、大きいのを取る事自体を禁止まではしないわ。
けれど、あんまり大型なのを取っていったら、それが即、破壊兵器になるわ。あなたの世界の核兵器みたいな、ね』
「シューッヘ様、核兵器とはなんでございましょう」
聞き知らない単語にヒューさんが食いついた。
「端的に言うと、ローリス全域を一瞬で消し炭に出来るレベルの爆弾に、イスヴァガルナ様の『死の光』が漏れなく付いてくる厄介な物です」
俺がそう説明すると、ヒューさんは想像したのか、ぐっ、と詰まる様な音を発声して固まった。
「核爆弾に出来る大きさ、出来ない大きさの分かれ目って、実際どの位の大きさですか? それを知っておけば、例えば割ってしまう事もと思いますが」
『核とは正確には違うんだけど……地球単位で言えば、30.215キログラムが境目になるわ。それ以下の物であれば、爆破兵器にしても破滅的な結果は起こさない』
「30.215キロ……この世界の重さで、誤差ゼロで変換すると、何クーレアですか」
『31.6284、更に下のケタも続くけど、その世界にそこまで正確な秤自体が無いわね。多少秤自体も誤差があるから、30クーレアを超える物には気をつければ良いわよ』
「分かりました、ありがとうございます」
これで俺の方針は決定した。掘り出す物は、30クーレア以下、即ち30キログラム以下の物。それ以上の物は、万が一見つけても、無視しよう。
デカいのが見つかったと大喜びして、それがそのまま兵器転用されて何処かの誰かたちを大虐殺では……さすがに俺の精神がもたない。
出来れば、小型の物がポコポコ出てきたりすれば、陛下のニーズを満たすかはともかく、俺の仕事としては十分仕事したことになるんだが……
さすがにこればかりは、掘ってみないと分からんな。
俺は方針をヒューさんと共有し、その日は気楽に過ごすことにした。
いつもありがとうございます。ご評価、本当にとてもありがたいです。
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