第16話 国王陛下からの注文付きのアルファ釈放 もう物見遊山は終わりと思う俺であった。
「シューッヘ様、助命嘆願を何とか聞き届けて頂けました」
ベッドサイドに現れたヒューさんの第一声であった。
俺は、アルファさんが俺の失態で殺されてしまう事態を避けることが出来、本心から安堵した。
「但し、あくまでシューッヘ様の顔を立ててという事になり、国王陛下からのご注文がございました」
「王様からの注文、ですか」
これはちょっとビビる。国王陛下が俺に求めていた事と言えば、叙爵の時の魔導水晶の件。
もしそれだとしたら、新たに期限を切られてしまうかも知れない。
期限が守れず、あの飛び跳ねた貴族たちの様に廃爵となったら……まぁ失うのは屋敷くらいなものか。
これから家具決めたり楽しめると思ってただけに、少し残念。いや諦める必要はまだ無いんだが……
「国王陛下からの御言葉です。『坑道を破損しても構わぬ、大小・品質も問わぬ、廃坑から魔導水晶を探し出せ』とのことです」
「やっぱりか。探し出す期限は付きましたか。坑道は壊しても良いとの事ですが、それ以外に条件は?」
「期限や他のことについての言及はございませんでした。国王陛下のご性格を考えるに、着手だけは早いほうが宜しいかと」
着手は早いほうが良い。それは俺も同感だ。国王陛下は、教科書的に『忙しい』だけでなく、少し短気なご性格の様に思える。
叙爵の時の、やらかした貴族達への対応でそう感じるようになった。反応が即座。決定も即座。国王としては優秀なのだろうきっと。
勿論ご本人の前でそんなこととても言えないが、短気な人をあまりダラダラ待たせると、危険。これは地球での教訓でもある。
「ヒューさん。今日から4日間の予定だった教練、一旦キャンセルして下さい。それと、鉱山までの移動手段の確保。
鉱山での滞在、最初は泊まり込みまではしない予定ですが、ある程度余剰を考慮した食料と水の確保。あとは……」
俺が早口でヒューさんに指示を出す。ヒューさんは真剣な顔で頷いている。
鉱山、破壊して良いとなると、ダイナマイトで吹き飛ばす事が頭に浮かぶが、爆薬そもそもあるのか?
いやただ、素人がダイナマイトなんて使っても、魔導水晶ごと全部木っ端微塵にしてしまうのがオチか。
「それからヒューさん。魔導水晶の『サンプル』は手に入れられますか? 目的となる様な、高い品質や大きさは必要なくて、
俺の魔法や『光』への反応が知りたいので、出来れば手のひらサイズくらいあると助かるんですが」
「今日の内にご用意し、お部屋にお持ちします」
「あと必要な物は……ねぇアリアさん」
「えっ、何?」
突然話が飛んできた形になったアリアさんは、目を丸くして俺の方を見た。
「アリアさんも、鉱山の試し掘りに来てくれるないかな? [アジャスト]とかで居心地は悪くないようにするからさ」
「一緒に行くのはもちろん構わないけど、足手まといにならない?」
「前アリアさん、掘削が出来る魔法の話、してくれたよね。それ、使う事になるかも知れない」
「あぁ、私も実働の戦力になれるなら、喜んで手伝いに行くわ。ただ見てるだけだったら、悪いなぁって思ったの」
アリアさんは仕事熱心な人だ。自分に役割がある事はきっと、落ち着くのかな? 居心地的に。
「移動手段、水や食料、その他必要な物の準備で、ヒューさん最短いつ出られますか」
「最短で行けば、明後日には出発出来ましょう。坑夫などは雇いますか」
「まだ魔導水晶の性質が分からないので、借りれるサンプルで色々試して、それを実地で更に試して、採掘が出来る目処が立ってから、人を雇います」
「かしこまりました。そうすると、最初の陣営は内々の者のみ、シューッヘ様とアリア、馬はフライスに。それにわたしも宜しいですか」
「ヒューさんが来てくれないと、昔の事が色々現地で聞けないので必須です。絶対来て下さい」
「かしこまりました。お役に立てるかは、分かりませぬが」
ヒューさんが頭を下げる。俺は、ちょっと自分偉そうだなと思いながらも、軽く頭を下げて返答とした。
「そうなると、時間が惜しい。この魔導極? でしたか? もう外しても良いですか。部屋に戻りたいです」
「医療責任者に確認して参ります」
ヒューさんがカーテンの隙間から外へと消える。
「シューッヘ君、そんなに急に動いて大丈夫? 随分焦っている様に、あたしからだと見えるけれど……」
「国王陛下は、目に見える成果がわずかであっても欲しい、と思ってると俺は考えたんだ。だとしたら、すぐ動くしかない」
「だけど、今日の今日、さっきのさっき、死にかけたばっかりよ? そこまで焦る必要、あるかしら」
「今回は、アルファさんの助命嘆願と『引き換えに』突きつけられた条件だと、俺は思ってる。だからこそ、すぐ動くことにしたんだ」
アリアさんはイマイチ釈然としない様子である。けれど、こればかりは仕方ない。
俺が無理言って、ヒューさんを通して国王陛下に直訴したような形だ。そこに陛下が『魔導水晶を』と仰った。
それに対して、例えば1週間も2週間もほったらかしにしたらどうだ。陛下の御機嫌は著しく悪くなるだろう。
正直言えば、4日間の魔法教練はかなり興味深かった。今日ほどスパルタだとキツいのは確かだが。
それに、屋敷の家具選びも楽しみにしていた。貴族向けの家具とやらを、じっくり見てみたかった。
けれどここで私用に時間を浪費した場合、国王陛下からの信用、取り返しが付かなくなる危険性がある。
そのリスクを鑑みれば、とにかく初動は早く。成果は正直、まだ鉱山も魔導水晶本体も見てないので何とも言えない。
成果がすぐに上がるとは、さすがに陛下もお考えでは無いと思う。あくまで初動。そこを見られている気がする。
英雄という、単にそれだけで叙勲された身でもある。元々の国民ですらない。他の貴族も色々見ているかも知れない。
もし実は陛下がそこまで思っていなかった、というオチだとしても、印象は良くなりこそすれ悪くはならないだろう。
「シューッヘ様、医療班長からの許可が下りました。只今魔導極を外しに参りますので、今しばらく」
ヒューさんの声がカーテンの向こうから聞こえる。と共に、トットットッと足音が近付いてきたと思ったら、カーテンをザッと、次々開いた。
「ノガゥア卿、あなたの魔力量、研究者として興味があります。もしお時間ありましたら、是非研究にもご協力を」
医療班の長のはずの人から、何故か研究協力を言われた。イリアドームは研究者の集まりなのかな。
まぁともかく、イリアドームとは一旦おさらばせざるを得ない。教練、結構楽しみにしていたんだが、やむを得ない。
俺は魔導極という、心電図の電極みたいなのを全部外してもらい、衣服を直してベッドから立ち上がった。
***
「これが、魔導水晶にございます」
俺の部屋。教練で汚れたので服は着替え、昼飯もまだだったので食堂へも行った。
今の時間食堂は、定番メニューのみの営業である。がっつり飯も定番にもあるのだが、さすがに胃袋が拒否してたので軽く。
昼飯から帰ってくると、部屋の前にヒューさんがいて、今。
机に置かれた小さい魔導水晶の塊を、机を挟んでにらめっこである。
「パッと見た感じだと、アメジストの結晶体みたいな感じですね。色合いと言い、形状と言い」
「そうですな、水晶類には近い外観です。色合いは魔力の入り具合で変化するそうでございます。因みに現状の魔力蓄積はゼロとの事です」
丁度、手のひらにこじんまり乗る位のサイズの針状の結晶、アレはクラスターって言ったっけ。日本で一昔前に随分ブームになってたな。
アメジストだったら魔除けとか色々意味が言われていたが、正直実感があまりある物では無かった。
それに対してこの魔導水晶。これは魔力の蓄積と放出が出来る。蓄電池みたいな感じだな。
「このサイズくらいだと、今でも掘り出せたりするものですか?」
「いえ、鉱山は完全に掘り尽くされたとされており、掘り出しに挑む者すらいませんので正確には何とも言えませんが、
たとえこのサイズであっても今新たに手に入れるのは極めて難しいと存じます」
「今この国で使っている魔導水晶は、全部過去にこの国の鉱脈から出たものですか? 輸入品とかはありますか?」
思い浮かんだことを次々聞いていく。
「一部、圧縮加工して作られた、非結晶体の魔導水晶であれば、輸入はしています。他は過去の物を割るなどして活用しております」
「純粋な魔導水晶の結晶と圧縮して作った塊では、魔力を溜めるという主作用に違いは?」
「かなりの違いが出ます。圧縮魔導水晶は、元々は魔導水晶の欠片を集めそれを魔法と機械で圧力を掛けて作ります。
圧縮物も、一見するとひとかたまりなのですが、魔法的には水晶部分がスカスカの穴だらけにて、同一サイズ比で魔力が50分の1程度しか溜められません」
なるほど。少しずつ情報が整ってきた。魔導水晶の価値はあくまで天然物の単一結晶にあるらしい。
日本でも、天然水晶と人工水晶では随分値段が違ったが、それ以上に実用が絡む性質上、その差は大きい様だ。
「もう少し質問させて下さい。例えばこの結晶だと、この状態で埋まっているんですか? それともこれは、研磨とかした後ですか?」
「この結晶は博物館より借用してきた物でございますので、見た目を良くする研磨が掛けてございます。原石の状態だともう少し表面が粗くゴツゴツしておるそうです。
この針状の結晶の親玉の様な物から、剥げるサイズで剥ぎ取って採集するのだと、古い文献にございました」
「つまり、このサイズの塊がポンポン埋まってるんじゃ無くて、もっと大きな塊がドンとあって、そこから切り出す感じですか」
「もしその『大きな塊』があれば、ではございますが、そのようになります」
そうか、めぼしい物は当然掘り尽くされてるから、大きな塊を目指すのは難しいかも知れないって訳か。
「あの鉱山は、3,000年前のイスヴァガルナ様の一件以降、完全に手つかずですか? それと当時の掘り方は? 一本掘り終えて次、って感じですか?」
「イスヴァガルナ様の時代、とにかく手当たり次第並列で掘っていたらしいので、鉱脈毎に深さにも差があります。
ただ少なくとも、シューッヘ様がご下賜頂いた400番以前の鉱脈は、全て3,000年前の時代で既に掘り尽くしたと判断された鉱脈です」
うーん、陛下が下さった領地が単なるゴミな件。いやいや、そんな事口が裂けても言っちゃダメなんだが……
他の貴族との兼ね合いもあったろうし、イスヴァガルナ様との繫がりでの期待もあるのかも知れない。ゴミ扱いはさすがに失礼だ。
「今ここにある魔導水晶、一度魔力入れちゃうと取り出すのって大変ですか? 試しに魔力を入れて様子を見てみたいんですが」
「取り出すのは難しくはございません。このサイズであれば資料として幾つも残存しておりますので、どのようになさっても構いません」
こうして俺の、魔導水晶という未知な代物へのアタックが始まった。
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